当ブログで唯一と言っていい、最新のポップ・ミュージックを扱うコーナー、「ナイジェリア・ポップのお薦め」です。
VMAこと『MTV VIDEO MUSIC AWARDS 2023』の授賞式が9月12日に開催される予定で、今年から新たにアフロビーツ部門が設けられることになりました。記念すべき最初の候補者たちは、Ayra Starr、Burna Boy、Davido、Fireboy DML、Libianca、Rema、Wizkidです。なんと、Libianca(カメルーン系アメリカ人)を除くと他は全員がナイジェリアのアーティスト。
さらに、わがご贔屓のAyra StarrはWizkidの候補曲(2 Sugar)にもフィーチャーされています。だけど彼女の受賞はまだ難しいかも。いや、私はAyra Starrの旗振ってますよ。めちゃくちゃ応援してます。でも彼女は次の段階に足をかける必要があるし、本人が誰よりもそれをわかっているはず。ともあれ、私もmobstarr(Ayra Starr推し)の一人として見守ります。
現在、11月30日まで続くワールド・ツアーが7月27日に始まったばかり。昨年のシングルにして彼女の最強曲、Rushは世界中のプラットフォームを合わせると10億回再生を超えました。フランスとカナダではプラチナ、アメリカではゴールド認定。
・・・mobstarrからは(とりあえず)以上です。
さて、これだけナイジェリア・ポップの若きスターについて騒いでる私ですが、最近一番よく聴いているのはアメリカのTravis Scottのニュー・アルバム<Utopia>なんです。前作の<Astroworld>から5年ぶりということもあって、相変わらず(日本以外では)盛り上がっています。前作が傑作アルバムでしたから、ちょっと期待を控えめにして聴いたのですが、やっぱりすごい。
で、Utopiaと言いますと、2021年にナイジェリアのSavageが同じタイトルのアルバムで評判をとったのですね(まあ、よくあるタイトルかもしれませんが)。私も半年ほど遅れてそれを聴き、なるほどこれは大したものだと感心しました。そのSavageのニュー・アルバム<That Uzere Boy>は前作をしのぐ内容です。
彼もナイジェリア・ポップのオルタナティヴであるAlteの一人に括られるアーティストで、前作では肌理の細かい感触のサウンドが利いていました。今作もその音楽スタイルを保ちつつ、より深みを増した秀作となりました。
リズミックな試みと内省的な音響。これはAlteにおいて彼の専売特許ではないですが、タイトル中のUzereが彼の育った場所の地名であるように、Savage自身のバックグラウンドやルーツに向ける視線がアルバムの内容にも反映されています。
しかもそうした視線が内省に絡めとられるのではなく、ビートを源にバウンドし、ドメスティックなチャントを活かしたコーラスで彩られているのが素晴らしい。前作<Utopia>も良いアルバムだったけど、今作はすべての面で豊かさと奥行きが増しています。大推薦。
続きまして、アフリカの外でも人気のあるAdekunle Gold。彼もナイジェリアの誇るシンガー=ソングライターで、今回のアルバム<Tequila Ever After>ではDef Jamと契約し、グローバル・ポップとしての強度を高めています。
以前からメロディアスなコーラスやフックを用いるのが上手い人でしたが、今作ではいっそうその効果を自然にリラックスした味わいで曲に溶け込ませてあります。
また、Def Jamの人脈力もあってか、Pharrell WilliamsとNile RodgersをFalling Up という曲でフィーチャーし、アフリカンな要素をポップな意匠として前に出し、なおかつ音響的にもスリリングに仕上げています。
アルバムの後半で似た曲調が続くのがモタれるも、全体では唸らされるところの多い成功作です。半分のトラックをプロデュースしたKel-Pがアルバムの基盤を築いていて、貢献度大です。
次はこちらも大スターのAsakeのアルバム<Work Of Art>なんですが、6月15日にリリースされたので旧聞に属します。しかし、繰り返し聴くたびに感銘の深まるアルバムです。
ヨルバ族のダンス・ミュージックであるフジをアフロビーツと融合させた彼の音楽は、ライヴの場ですさまじい熱狂を巻き起こします。そんなライヴの興奮を私もシングルやアルバムで追体験してきました。今回の<Work Of Art>では、それがいくぶん輪郭を整えたうえで提示されているようで、それでいてパワーが目減りしないのは流石です。逆に、濃縮度と切れ味が上がったのではないでしょうか。今年のナイジェリアの代表作に数えられるアルバムだと思います。
売れっ子プロデューサーのSarzのアルバム<The Sarz Academy Presents: Memories That Last Forever 2>は、EPでありながら全15曲で42分の充分すぎるヴォリューム。
The Sarz Academyのタイトルが示すように、これは一種のミュージック・クラフトもしくはショウケース的な企画で、7名のアーティストをフィーチャーし、8名のプロデューサーに手掛けさせています。16歳のKidfunnyもプロデューサーに名を連ねているようです。
新しい才能をフックアップして紹介する趣旨があるでしょうが、それを知らなくともフレッシュなコンピレーションとして楽しめるアルバムです。
続いて、これも6月のリリースだったんですけど、Tay Iwarのアルバム<Summer Breeze>。
じつは、先月の当コーナーで書こうと思いながら、女性アーティスト特集に切り替えたのでリストから外したんです。なにせLady Donliの活力みなぎるシングルが出たばかりだったので。
でもTay Iwarのこのアルバムは、言及しないでいるのがもったいない。
彼もAlteのシーンで人気の高いアーティスト。繊細なサウンドはWurldと並んで双璧です。ナイジェリア・ポップの魅力には、こういうセンシティヴな男性アーティストと、元気のいい女性アーティストの存在があると思います。このアルバム<Summer Breeze>は、脆さが微風となって吹いてくるような、軽快で涼しげな感をもたらす心地よい内容。
もういっぽうの雄、WurldのシングルLocationも好調です。ここでは2018年のアルバム<I Love Girls With Trobul>以来、Sarzがプロデュースを務めています。
デリケートな質感の声と陰翳あるサウンドが魅力的なWurldの音楽性を、巧みな作りのダンス・トラックで際立たせた良曲です。Wurldの昨年のアルバム<My Wurld With U>は見事な出来でしたが、その要素(とりわけ秀逸なLet You Down)を引き継ぎながら次の展開を鋭意模索中といったところでしょうか。
次は2ヶ月前の当コーナーでトップに取り上げたMoonlight Afriqaのニュー・シングル、Milk & Sugar。前に書いたときは、エレクトロニカとレゲエをフワッと混ぜたようなサウンドに惹かれて、それらが彼の音楽の特徴みたいですね、などと訳知り顔で筆を走らせてしまいました。
そうしたら、今回のシングルはアコースティック&フォーキーなタッチじゃないですか。さらに、名ギタリストのFiokeeと組んで、先のシングル曲だったLove Dimentionのアコースティック・ヴァージョンも配信して、これがまたいいんだ。私がMoonlight Afriqa本人だったら、いい加減な日本人ブロガーを鼻で笑ってますね。
い、いや、アフリカのミュージシャンってエレクトロでもアコースティックでも共通したものを感じさせるから・・・と、無駄な言い訳を重ねてみます。というか、そのことを改めて納得しました。Moollight Afriqa、目が離せないアーティストです。
もう一人、Citiboi。初めて知ったラッパーです。もしかして、知らなかったのは私だけ?そういうアーティストがたくさんいるんだろうな。
Spotifyには2019年から曲が入っていて、アルバムはこの<30mins Cruise>が初となるようです。
パッと聴いて、声に耳が持って行かれました。だいたい私はヴォーカルの上手い下手にはあまり関心がなくて、その人の声を聴いていたいかどうかを重視します。
その意味で、このCitiboiは気になる。ふてぶてしくて、何かやってやろうというフツフツとした意気が伝わります。こういうのが、いいですな。鼻の穴を膨らませた奔放な勢いがあります。
では最後にもう一回、「今月のAyra Starr」です。ワールド・ツアーはまだ序盤なので、6月にパリで行われた『Power Our Planet』のイベントから、動画をお届けします。30年ぐらい前なら、日本でも観れただろうなあ。