私選:'22年1月のナイジェリア・ポップ | 勝手にシドバレット(1985-1995のロック、etc.)

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 4年ほど前から聴きだしたナイジェリアのコンテンポラリーなポップ・ミュージック(ナイジャ・ポップ)で、とくに気に入ったものを月ごとにまとめていくことにします。備忘録として軽く書きとめる程度ですが、そもそも知識に乏しいので深くは書けないのです。
 私はナイジャ・ポップに関しては、あのカン、カン、カン、コン、コンというパターンのリズムが聴けたらなんでもオッケー、みたいなところがあります。なのにアーティスト名がおぼえられなくて、いまだに右往左往しています。少しは整理してメモっておこうと思います。

 ここに挙げる曲を聴くと、ナイジャ・リズムの中毒者の実態が表れています。今年の1月に好きになった曲を選んでいますが、昨年12月のぶんも足して10選としました。

 まず、この1月はなんと言ってもFAVEの5曲EP<Riddim 5>が良かったのです。
 FAVE/ My Man


 彼女は21歳のシンガー=ソングライターで、ナイジェリアのヒップホップのスーパー・スター、Olamideに見出されてPon Ponという曲でフィーチャーされました。
 その後も<Baby Riddim>がTikTok経由で注目を集め、今回の<Riddim 5>はデビューEPということになるようです。
 気だるさが漂うニュアンスの豊かなヴォーカルが魅力で、<Riddim 5>もソフトなタッチの曲に仕込まれたリズムの跳ねが効いています。

 
 Fiokee, Bella Shmurda/ Personal
 Fiokee, Yemi Alade/ I Cannot


 ナイジェリアのギタリストで、ハイライフのフレージングをコンテンポラリーなセンスで応用し、数々のトップ・アーティストと共演しています。
 1月に発表したアルバム<Man>にも曲ごとに異なるシンガーがフィーチャーされていて、ギターもヴォーカルもサウンド・プロダクションも楽しめます。
 中ではBella ShmurdaとのPersonal、そしてYemi AladeとのI Cannotがそれぞれに別の曲調で冴えています。
 歌とともに心地よく疾走するような前者、余裕綽綽で歌うYemi Aladeとギターでデュエットするかのような後者、どちらも最高です。

 
 Don D, Slow Dog, Fiokee/ Ogodo


 Fiokeeの参加曲でもうひとつ、こちらは最近のアフロビーツよりも往年のアフロビートに近いように思うのですが、抗しがたい魅力があります。ここでもギターのリズミックな雄弁さが見事です。


 Asake, Olamide/ Omo Ope


 2020年にMr.MoneyをヒットさせたAsakeの新曲で、私はMr.Moneyにあまり惹かれなかったのだけど、Olamideのラップをフィーチャーした今回のOmo Opeはとても良いと思いました。
 この人、もっとギラギラしたイケイケな感じだったと思うのですが、それが後退したかわりに逞しい線で作られていて図太さが増しています。コーラスの使い方も効果的。

 

 Bella Shmurda/ My Friend

 Fiokeeの項でも書いたBella Shmurdaの最新シングル。ハツラツとした歌いっぷりの中に聞こえる悲痛なトーンが気になったので歌詞を読んでみたのですが、ま~サッパリわからない。もう少し粘って調べていくと、どうも有名になったことで、それまでの人間関係を維持するのが困難になってゆく、という話のようです。

 私の理解が正しければ、最初におぼえた悲痛なトーンも音楽的に伝わっていたのだと、言えないこともなさそうです。

 それはともかく、この人はホントにいいシンガーですね。


 ここからが昨年12月のぶんです。

 Asa/ Mayana


 これも良かった。たしか彼女はR&Bやロックをベースにした音楽を作っていたはずですが、この久しぶりの新曲では若干19歳のプロデューサー、P.Priimeと組んでナイジャ・ポップのビート感を強めているように受け取れます。
 そのうえでラヴソングとしてのストーリー性もしっかりとアピールするという、とてもバランス感覚の優れた曲に仕上がっていると思います。


 Moral, Buju/ Kolobi


 これもP.Priimeのプロデュース。21歳のシンガーMoralのデビュー・シングルで、とても人気のあるシンガーBuju(彼は24歳)がフィーチャーされています。
 19歳と21歳と24歳。ナイジャ・ポップの若さです。そしてその若さがコラボレーションからアクティヴなバウンドを引き出したり、心憎い抑制を利かせたりするようです。この曲でもその両方が上手く運んでいるなと思わせます。このプロダクションのフォルムの整い加減には今回選んだなかで一番感心しました。


 Seyi Shay/ Big Girl


 彼女はロンドンでナイジェリア人の両親のもとに生まれて、家族でラゴスに移り住んだあともロンドンに留学し、そこでゴスペル・クワイアに参加しています。この曲に独特の風通しを感じるのは、そうしたバックグラウンドと関係があるのかどうか、今のところ私にはわかりません。ともかく、この曲は口ずさみやすいリフレインが耳に残ります。

 リリックにMelanin poppin'!とありますが、これは黒い肌にプライドを持つ、というような意味ですね。また、deyはナイジェリアのピジン・イングリッシュでのbe動詞。


 Harrysong, Fireboy DML, Olamide/ She Knows


 Harrysongは2010年代にブレイクしたシンガー=ソングライターで、Beta PikinとかReggae Bluesなどのヒットを放っています。Firebloy DMLは昨年のシングルPeruで高い評価を得て、エド・シーランをフィーチャーしたリミックスも評判を呼びました。OlamideはV.I.P.級のスター。

 この3人が集まったShe Knowsは和やかで温もりを感じさせる曲です。シャープに目立っているのは歌いだしのFireboy DMLですが、Harrysongが懐でそれを受け止めてソフトに引き継ぎ、Olamideもスムーズに閉める、このバトンタッチというか送球が心地よいです。いい曲。

 

 と、今回はここまで。ほかにはWurldやchikeの新曲もピックアップの候補でした。あと、アフロビーツと連動するアメリカやイギリスでの動きも面白いですね。

 ただ、1月に私がぞっこん惚れ込んだのはアメリカのR&B、アンバー・マークのニュー・アルバム<THREE DIMENSIONS DEEP>でした。あれを聴いていると30年前のミーシャ・パリスのCDを引っ張り出したくなります。

 次は2月と3月をまとめることになると思いますが、先週出たばかりのAdekunle Goldのアルバムが相変わらず良かったし、どうなるかわかりません。それまでに全体像を整理できればよいのですが、ナイジャのリズムが鳴ると思考停止してしまうので自信ないです。

 

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