土門拳「雪の室生寺」 | ウインのワクワク「LIFE」

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何度も通った室生寺だが、その雪景色だけはどうしても撮れずにいた。58歳で2度目の脳出血を発症し、車椅子生活を余儀なくされた土門は、室生寺のカラー作品集を企画し、そこにはぜひ雪の風景を加えようと思い立つ。

 

78年2月中旬から約1カ月、奈良の病院と室生寺門前の橋本屋旅館で雪を待った。だが、雪は降らない。「もう1日だけ」。そう言って滞在を延ばした3月12日の朝、玄関を開けると一面の雪だった。橋本屋の奥本裕会長はそのことをよく覚えている。

 

当時、旅館の女将だった母親が寝間着のまま「先生、雪」と叫んで知らせると、土門は「とうとう降ったね」と言って2人は手を取りあい、涙を流して喜んだ。「ドラマみたいな話。従業員もみな泣いていた。午前中に解けてしまう雪だったので慌てて境内に行き、車椅子の土門さんを弟子が担いで撮影していた」。土門にとって最初で最後の雪の室生寺の撮影になった。

 

 

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