気にかかった文章】
「道」は日本人の故郷である 菅野覚明
道が実現すべきところの「本来の自己」とは~特定の共同体の一員たるべき自己なのであった。
宮本常一は、かつての村人にとって、「人並みに暮らす」ことこそが真の幸福であったという。村では、どんなに出世していても、人並でなければ「高慢者」といって馬鹿にされる。逆に、たとえ貧乏はしていても、人並でさえあれば、村人はすべて対等の仲間である。
明治時代の終わりまで、日本の「国民」の多くは、地方の村落共同体で育った「村人」であった。
生まれ育った故郷そのものが一つの道の世界であったからこそ、商いやものづくりの徒弟修業も、また徴兵制の軍隊でのきびしい訓練も、多くの国民は抵抗なく受け入れることができたのであろう。
近代日本の故郷は、仲間と修業を共にする道の世界であった。おそらくその記憶は「地元で恥ずかしいことはできない」といった形で、今も日本人の故郷の観念の中に生きている。
柳田の言う通り、他のどこの国とも異なるこの国の運命を切り開いていく力は、道というわれわれ故郷の中に秘められているはずなのである。