『三体』~”フォース”や”魔法”でなく”宇宙物理学”を武器に戦う物語~ | とある投資家の備忘録(ブログ)

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先日立ち寄った梅田のジュンク堂書店で、入り口前の目立つところ一面に『三体』が平積みされていました。現在アマゾン<三体 Kindle版>でもランキング上位に位置しているこの中国発SF小説ですが、実際に読み終えてみて、この本が中国、アメリカ、そして日本でもベストセラーになっていることに、納得すると同時に驚いている、というのが正直な気持ちです。

 

オバマ元大統領を初め、様々な人たちが絶賛しているように、SFとしてのスケールの大きさと息もつかせぬ展開は、いろいろな意味で想像を上回る面白さではあるのですが、一方で物語の重要なカギとなる要素に「宇宙マイクロ波背景放射」や量子力学の「量子もつれ」、超ひも理論の「11次元」など、一般的には必ずしも馴染みがあるとは言えない宇宙物理学の概念が頻繁に登場することから、はたして多くの人々はこの小説をどのように捉えて楽しんでいるのか、ということがはたと気になりました。

 

もちろんSFですからすべてが科学的裏付けにもとづくものではなく、よほどの科学的知識がなければフィクションとノンフィクションの境界を明確に意識できない部分も多いでしょうが、少なくとも自分自身にとっては、日頃から興味を抱いている理論や歴史的な人物がこれでもかと登場するこの小説は、著者の興味の対象が自分と近いところにあるんだなという親近感を覚えずにはいられないものでした。

 

一方でそういったことにあまり興味のない人がこの小説を読んだとしたらどうでしょう。小説の中に出てくる様々な科学的な理論も、スター・ウォーズの「フォース」やハリー・ポッターの「魔法」などと同じように、SFの世界観を盛り上げるための(科学的裏付けなど関係のない)舞台装置の一つに過ぎないという感覚で楽しんでいるのでしょうか。

 

この小説は3部作の1作目であとがきによると、2作目は本作の1.5倍、3作目は2倍!の分量あるようですが、科学的にはすでに本作において現在の人類の最先端まで到達しているので、2部・3部でどのような科学が登場し、どのように使われるのか興味津々であると同時に、もし完全にフィクションのみの世界に突入してしまうのであれば、残念に感じてしまうだろうなという不安もあります。

 

ともあれ宇宙物理学の面白さを凝縮した傑作であることは間違いないので、願わくばこの小説を読んだ世界中の若者たちから、基礎科学の分野に取り組み、人類の進歩と宇宙の真理の発見に貢献する、そんな素晴らしい科学者が一人でも多くうまれてくれることを期待しつつ、この壮大なSF小説の余韻に浸りたいと思います。

 

 

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