とある観光地に行って来た。
昔ながらの街並みが残る観光地だが、この街でもシッカリとご当地ラーメンがあり、何だかトホホな気分だ。
私はご当地ラーメン文化が好きでは無い。
そもそも文化に乏しい地区が景気回復の為に無理矢理ラーメンブームに乗っかったのが、ご当地ラーメンである。
当然、札幌ラーメン、博多ラーメンと言うような、ジャンルとしての老舗は別として、軽薄なご当地ラーメンの数々には賛同しかねる私だ。
「名古屋名物 台湾ラーメン アメリカン」
こんなご当地が幾つもある様なラーメンが許されて良いのか?
ご当地ラーメンの大体が普通のラーメンにプラスワンの素材を入れただけの代物だし、そのプラスワンが決定的に味を台無しにしているのだ。
あるご当地ラーメンでは丁寧に作った美味しいラーメンの上に、山盛りの名産漬物が乗り、「これさえ無ければな…」と苦々しく思った。
店主に目を覚まして貰おうと、漬物だけ残しておいたのだが、そのご当地ラーメン、今や地域にしっかりと根差し、名物として成り立っている。
全く私も、野暮な事をしたものだ。
まあ、過疎化の進む地方の景気回復の為にラーメンの威光を借りざるを得ないのは仕方無いとして、十分な観光地であるこの地が、何故ご当地ラーメンを出したのかが分からない。
それでも同行した者が下調べをしていた様で、気付くととあるラーメン屋の前に居たものだから、モノは試しとばかりに店内に入った。
店の構えは良い。
派手さや軽薄さは微塵も無く、一見ラーメン屋とは分からない落ち着いた創りだ。
寡黙な店主が一人で切り盛りしている店で、テーブル含めて12人程度しか入らない、こじんまりとした店に好感が持てる。
メニューも中華そばと肉入り中華そばの2品のみ。
私がラーメン屋を営むなら、こう在りたいストイックさと言えよう。
気になるのは店内で放映されているのが「新婚さんいらっしゃい!」であることだ。
私はこの番組が大嫌いである。
現代日本の番組とは思えない低俗さ、新婚さんの厚顔無恥さ、それを楽しみに見ている視聴者が、到底私とは相容れない異世界である。
南フランスの実家のママンが見ていた時に、思わず激昂し取り乱してしまった私であった。
スマヌ、ママンよ...。
...などと、苦々しく思っていると、静かにラーメンが供された。
おおぅ、コレはコレは素晴らしい。
麺は細い縮れ麺、濃いめの醤油スープに鰹節粉が浮き、具は葱、叉焼、メンマのみと、シンプルに素材をそぎ落としたモノ。
無駄が一切無い、磨き抜かれた一杯である事は、威風堂々たるその出で立ちを拝見するだけで間違い無い、まっこと、私好みのラーメンと言えよう。
先ずはスープを一口。
...甘い。
かけ蕎麦のつゆに近い甘さは味醂によるものだろうか?
鰹節粉が効いている。
悪くは無いが...。
続いて麺を手繰る。
...!?
コ、コレは...!?
いや、しかし、そんな筈は...。
私の味覚が狂ったか、同席する皆にも意見を聞いてみる。
「...どうだろうか?」
「チキンラーメンですね!」
おい!声が高い!
だがしかし、それは真実。
間違う事無きチキンラーメンそのモノであった。
そんな事が有るのだろうか?
ご当地ラーメンとして各ガイドブックで紹介されている名店の麺が、チキンラーメンで有って良いのか?
許されるのか?
結果的にチキンラーメンは嫌いでは無いので、それはそれとして美味しく食べれたのだが、全くもって釈然としないご当地ラーメンであった。
ただ、このまま、この素晴らしい土地のご当地ラーメンが、チキンラーメンとの烙印を押されてしまうのは、門外漢ながら余りに忍び無い。
試しに土産物屋に行って「お持ち帰り用○○ラーメン」の製造元を確認したのだが、かろうじて日清食品では無かった。
それでも疑惑は晴れた訳では無い。
我々は翌日のリベンジを誓い、気持ちを切り替えてナイトライフに臨んだ。
怒涛のナイトライフを乗り越え、翌朝集まった我々は、亡者の様に市街地を歩き回った。
昨日の酒が胃の底に澱の様に溜まり、食欲など微塵も無いが、歩き回る事で徐々に人間的機能が戻って来た気がする。
前日より目を付けていた、この街で一番大きなご当地ラーメン屋に、フラフラと向かう。
これだけ大きな店であれば、美味い不味いは別として、この地のご当地ラーメン屋のスタンダードではありそうだ。
ココもまた、街の景観に合わせた良い構えの店だ。
昨日の店と比較して観光客でごった返しており、活気に溢れる。
メニューも豊富で、色々とセットもある様だが、我々の現状では普通のラーメン一杯でやっとである。
「お待たせしました~」
感じの良い店員さんが運んでくれたラーメン。
昨日よりも幾分か豪華な感じがするのは、器のせいだろうか?
この世の全てに感謝して、頂くとしよう。
「チキンラーメンですね!」
かとぅ