酒を買いに来た鬼
むかし、満福寺のそばに一軒の酒屋があった。ある冬の寒い日の晩。
「おおー、寒いー。こんな寒い晩は、早く店じまいすんべ。」と言って、おもて戸をおろして奥の座敷へ行こうとした。その時、ドンドン、ドンドン、と戸をたたく音がして、「酒をくれー」という大きな声も聞こえた。
「今じぶんだれだんべ」
と言いながら、主人がおもて戸を開けたとたん、冷たい風がサーッと吹き込んできて、目の前に大きな足が見えた。ずうーっと見上げていくと、見たことも無い大男が立っていた。大男は持っていた徳利を主人の目の前にぬっと突き出すと、
「酒をくれー」
とまた言った。店の主人は、徳利をおそるおそる受け取ると酒をなみなみとついで、大男に差し出した。大男はひったくるように受け取ると、小銭を置いて、闇の中に消えていった。
次の朝、主人が銭箱を見ると、それは木の葉だった。大男は、次の晩も、また次の晩も、酒を買いに来た。不思議に思った酒屋の主人は、その次の晩、大男の後をそっとつけて行った。すると、満福寺のそばの暗がりまで来た時、大男の姿はふっと消えてしまった。
次の日、主人は満福寺の和尚の所へ行き、今までのことを話した。和尚は深くうなづくと、主人を本堂へ案内した。寺の本堂には、守り本尊の赤鬼、青鬼、黒鬼の三体の鬼の像がまつられていた。真ん中の青鬼の像の所まで来た時、プンプンと酒のにおいがした。
和尚は、
「酒を買いに行ったのは、この青鬼じゃな」
と言うと、青鬼を鎖ぐるぐると縛りつけた。
それからというもの、酒屋には二度と大男は酒を買いに来ることはなかった。栃木市にある満福寺の青鬼の像は、今でも鎖が巻きつけてある。
栃木市は、江戸時代以降三回の大火にあいました。その時、満福寺の三体の鬼(三鬼尊)が本堂から抜け出して、火事の様子を腕組みしながら見ていたと伝えられています。小学生にこの話をするとこちらの方により関心を示します。満福寺の三鬼尊はいつでも公開されているので参拝することができます。鬼の像の前には沢山のお酒が奉納されていました。この話を知っている方々のあたたかさが伝わってきました。青鬼も、くさりがなくても、もう本堂を抜け出して酒を買いに行くこともないでしょう。さて、蔵の街観光館一階のお土産品コーナーで、この酒を買いに来た鬼をかたどった土鈴を売っています。ところが、この土鈴は青鬼ではなくて赤鬼なのです。私が、青鬼の間違いじゃないですかと聞くと、ご主人が、
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