「お金の話」の最後は、やはり、日本銀行について話さなければなりません。
日本銀行は普通の市中銀行とは違い国民からの預金を受け付けるわけではありません。 日本銀行の役割は、一万円札(もちろん千円札も含みますが)を印刷して市中銀行にそのお金を貸し出すことです、それにより、紙幣が世の中に出回って経済活動に使われます。
 
紙幣が発明される前は、金や銀と言った貴金属がお金の替わりに使われていました。貴金属はその希少性ゆえにそれ自体が価値をもっているので、物やサービスの交換に使われたわけです。 日本でも江戸時代までは金貨や銀貨が使われていたことは誰でも知っているところです。 最初に紙幣が発行された時、明治時代初期には1円札の裏に「この紙幣は1円と同等の金と交換できます」と印刷されていました。一円札の価値を保証するためです。 その後、紙幣と金が交換できるという制度が無くなりました。
 
印刷した紙幣と金との交換制度を廃止した時点で、日本銀行の唯一かつ非常に重要な役割が“紙幣の価値を維持する”ことになりました。 紙幣をむやみに発行してその価値が変動すると経済活動に混乱をもたらすためです。 銀行法には「第二条:日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。」とあります。 日本銀行は、自身が発行する一万円札の価値を維持し、インフレなどで価値が下がることが無いようにする責任がある・・・と規定されているわけです。 
 
銀行法で決められているもう一つの重要な法律は「日本銀行の独立性」についての規定です。紙幣と金との交換制度を無くすということは、時の政府の意向により紙幣を安易に印刷されがちになるという側面をもっています。 すなわち、紙幣を沢山印刷してそれを国民にバラマクことにより国民の人気を得ようとしがちになります。 最近の極端な例はアルゼンチンです。アルゼンチンでは政府が長い間中央銀行に圧力をかけて野放図に紙幣を印刷させてきました、その結果、極端なインフレ(ハイパーインフレといいます)になり経済を混乱させました。 今の大統領ミレイは経済学者で、「貨幣のコントロールができない中央銀行はいらない、ブッ壊す」とチェーンソーをふりかざし、「そして、アルゼンチン通貨ペソを廃止して、米ドルをアルゼンチン通貨とする」と国民に訴え、大統領に当選しました。 今、ミレイはアルゼンチンの経済の立て直しに奮闘しています。 

 

 

 

このような、政府による中央銀行への紙幣増発の圧力を無くすために、銀行法では日本銀行の(政府介入を排し)独立性を維持することが規定されています。 中央銀行の独立性を保つことの重要性に関する認識はどこの国でも同じです。 日本の銀行法でも「第三条:日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない。」と規定されています。

 

もっとも、第4条には”政府と連携を密にしなければならない”とも書かれています。

「第四条:日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない。」

 

すなわち、日本銀行は貨幣の管理に関しては責任を持つとともに、そのためにその独立性が保証されなければならない・・・と言うわけですが、政府とも意思疎通をよくしなさい・・・と言っているわけです。

 
 

さて、ここからは・・・、バブル崩壊以降この30年間、上記の”通貨の安定性”と”日本銀行の独立性”は、どのような変遷をたどっているのかについて私見を述べたいと思います。”私見”としているのは、この30年の日銀の運営に関する公式あるいはコンセンサスのある評価が未だ定まっていないからです。

 

まずは、日本銀行の独立性に関して最近の3名の日銀総裁について見てみたいと思います。

”異次元金融緩和”で超有名になられた黒田総裁の前は白川方明総裁でした。 白川総裁について覚えているのは時の民主党政権の幹部が白川総裁に金融緩和を迫ったとき「マネーサプライはすでに十分に足りています」として金融緩和の要求に頑として応じなかったことです。 また、民主党政権の後に返り咲いた安倍晋三首相が白川総裁に金融緩和を迫った時、白川総裁は任期の終了を待たずに退任しました。 政権の介入に抗議に意味が含まれていた・・・多くに人が憶測しています。

白川総裁の後を引き継いだのはご存じの黒田春彦さんでした。彼は就任時の記者会見で安倍晋三さんのアベノミックス(当時からアホノミックスと呼んで批判する専門家がいました)の意を受けた”異次元金融緩和”を宣言しました。 ”異次元金融緩和”は10年の長きにわたり続けられましたが、なにも変わりませんでした。 図らずも前白川総裁の金融状況の判断が正しかったことが証明されました。

 

 

問題は10年も効果が見えない”異次元金融緩和”政策を”なぜ”続けたのか・・と言うことです。 言うまでもなく、政権にとって日銀が国債を制限なく買い取ってくれることほど都合が良いことはありません。 黒田総裁の10年間は”日銀の独立性”よりも時の政権の意向を重視してきた・・・と言わざるを得ません。 結果、私たちは今(2024年5月現在)異常な円安そして物価高に苦しめられています。

 

さて、黒田総裁の後を引き継いだ植田総裁は、黒田総裁の”ゼロ金利””国債の野放図な購入”の修正をして「(植田総裁の弁による)普通の金融政策ができる環境を整える」ことに注力されているように見えます。 しかし、植田総裁の金融政策変更を示唆する発言のたびに”前言修正”と言うことが何度かおこっています。 旧安倍派議員あるいは財務省の横やりでなければよいのですが・・・、”金利の上昇”と”日銀の国債買入れの縮小”で一番困るは財務省ですから・・・、そして、旧安倍派議員にとってはアベノミックスが失敗だったという評価が定着させたくないわけです。 日銀の独立性を脅かす勢力が今だに残っていなければよいのですが・・・。

 

日銀の最重要な責務”物価の安定を図る”ことはこの30年はどうだったのでしょうか?。 アベノミックス(当時からアホノミックスと呼んではばからない人もいますが)と異次元金融緩和は、物価安定のための金融政策を難しいものにし、(2024年5月現在)物価高が国民生活を苦しめています、特に、社会的に弱い立場の人ほど事態は深刻です。 

アベノミックスと異次元金融緩和の10年は通貨の安定を破壊し、日本経済を破壊してきた・・・と言わざるを得ないと思うわけです。 もちろん、アベノミックスと異次元金融緩和は正しかったと言う人も沢山います。重要なことは自由に意見をのべることだと思います。

 

 

 

最後に、

私たちは、経済・金融・金利・GDP・・と言ったことばを聞くと、経済に関する問題は専門家の問題・・・と背を向けがちですが・・・。 経済そのものの主体は”日々働き”そして”消費”している私たち自身です。 専門用語の理解はさておき「経済が良い方向にあるのか?」それとも「どこかおかしいのか?」私たちは感じとることができるはずです。 私たち自身が経済を動かしている主体なのですから・・・。