黒服が戻ってからしばらくした後、コダチも戻ってきた。
扉を開けて入ってきたコダチに、黒服が詰め寄る。


「おや、もう傷は治ったんですか」

「俺はお前の事なんか認めてねぇからな。俺は裏切り者を信用する程甘ちゃんじゃねぇ」

「女王と違って…ですか?」

「…お前、来い」


すると黒服はコダチの腕を掴んで連れ出す。
アララギが焦って黒服を止めようとしたが、黒服は聞かずに歩き去っていった。



扉を乱暴に開けると、其処はひどく殺風景で、薄暗かった。
部屋の中心に備えられたイスにコダチを座らせると、黒服はコダチを縄で縛りつけた。


「どういうつもりですか?」

「お前が何故今更女王の元に戻ってきたのか、その目的を言え」

「目的?…何の事だか…」

「しらばっくれるな。…言わねぇんならお前は解放しない」

「…こんな所に縛りつけて監禁ですか……随分と噛みつきますね。それがアナタの仕事だからですか?」

「…は?」


コダチの言葉に、黒服が眉尻を上げる。
するとコダチはフッと笑って言った。


「《拒絶》を司る黒服…その役目は、ありとあらゆる傷害から女王を護り、敵を殲滅する事。アナタは時に盾であり、時に剣である。今アナタは私にその剣先を向けているワケですが…それはアナタの業務だからですか?それとも個人的な理由?」

「両方だ…お前は女王を破滅に導く可能性がある」

「フッ、そうですよね。私が1度裏切っただけで、あの有り様ですものねぇ」

「っ!」


バキッ!


「………」

「テメェ……」


直後黒服はコダチの顔を殴っていた。
胸の内を酷く黒いものが流れている感覚が一瞬身体を支配していた。
再び上げそうになった腕をそ何とか止める。


「痛いですよ」

「俺はテメェのそういう所が気に食わねぇ!!人が傷ついてんの見てんのがそんなに愉快かよ!アイツはお前なんかでも大切にしてたんだ、この城で暮らしてるヤツは皆そうだよ!なのにテメェは…っ!」

「だから、憎いんですか。女王に信頼され、それを易々と裏切り、しかもヒョコヒョコ現れたと思いきやまた信用を得た私が」

「………」

「また傷つくかもしれないのに、それなのに私を信用する女王が、赦せませんか?」

「…話を…すり替えてんじゃねぇよ…俺が赦せないのは、お前だ」


グッとコダチの襟を掴み言い捨てる。


「テメェは最低だ。今度また女王を傷つけてみろ、その時は何を言われようが俺が消してやる」


すると黒服は荒々しくコダチを突き放し、部屋を出ていった。
バランスを取ってひっくり返るのを免れたコダチは、大きな音を立てて閉められた扉を見た。


「…『最低』、ねぇ。……知ってますよ、そんな事」
黒服が女王の元に戻ると、女王は眉を寄せた。


「何だその傷は」

「……ちょっとてこずった」

「うわ痛そう」


女王の横でアララギが苦笑いを浮かべる。
皮膚が焼け焦げた匂いがさらに女王の眉間のシワを濃くさせた。
すると女王は黒服を手頃な場所に座らせると、手を当てて回復魔法を展開した。


「まさかこんなに怪我して帰ってくるとは…」

「しょうがないですよ、相手が悪かったですって」

「…行かせた私が悪かったな」

「どうでもいいけど、アイツ全然役に立たないだろうが!」

「アイツ?」

「コダチの事か?」

「そうだよ!」


黒服が苛ついた様子で言うと女王はあっけらかんとした表情で言った。


「だから帽子屋を行かせただろう?」

「来たからよかったものの…」

「あんまりブツクサ言わない」


ベチンッ


「痛ぇ!!」


女王が黒服の背中を叩くと、身体の傷が全て塞がった。
しかし痛いモノは痛く、黒服は女王に訴えた。


「もっと手段を考えてくれ」

「お前が愚痴愚痴言うからだろう」

「………あ、そうだコレが黒猫を消した後に残った」


黒服が結晶を差し出すと、女王の顔色が少し変わった。


「…そうか。コダチは?」

「調べモノがあるって消えた」

「そうか」

「………何なんだ?ソレ」

「…この世界に必要なモノだ」

「この世界に?」


それ以上女王は何も語らなかった。



それから少し後。
レンカの眠っている扉が開き、ドレスを引いて女王が入った。

レンカは相変わらず深い眠りに落ちていて、その横を通り抜けて女王は部屋に収められた碑石の前に立った。
其処には見た事もないようなカタチをした文字が刻まれていて、その前にはいくつかの何かをはめ込むくぼみがある台があった。
そのひとつに、女王が渡された白い結晶を置くと、くぼみに嵌まったそれは光り輝いた。


「…これが全て集まれば……やっと…………」
黒猫がフッと笑うと、直後黒猫はアンズの眼前に立っていた。
そしてアンズの首を掴み持ち上げる。


「ぐっ…ぅ…」

「アリス!!」

「私の目の前にノコノコ現れた事、後悔させてあげる」


黒猫は首を掴んだ手に力を込めた。
アンズの顔が苦しそうに歪む。


「なん…で……」

「お前!その手を離せ!」

「動かないで。下手な事するようなら、このアリス殺しちゃうよ?」

「くっ…」


声を荒げる帽子屋に対し、黒猫は冷たく言い放った。
そしてアンズを見つめて言う。


「『どうして』?答えてあげるわ、力が欲しいからよ。この世界を変えるくらいの力が…。女王にも負けない力が欲しいからよ!」

「そんな理由が、本気で通るとでも思ってますか?」

「…何よ…下手な事したらアリスを殺すって言ってるでしょう?」


コダチの言葉で、黒猫がコダチを睨んだ。
しかしコダチは余裕な表情のまま続ける。


「アナタ如きが、世界を変える…ねぇ……随分と無駄な事をしますね。アリスを殺してもアリスの力は手に入らない」

「そ、そんな事ない!コイツを殺せば、私がアリスに…!」

「なら殺してご覧なさい?それが出来たらの話しですがね」


そう言い終わるが早いか、コダチが手を振り上げた。
すると黒猫は身体を強張らせて咄嗟に我が身を守ろうとアリスから手を離し魔方陣を貼ったが、何も起きなかった。


「なっ!」


黒猫が目を瞠る。
その隙を付いてジュンが銃を撃った。
それは黒猫の防御魔法を撃ち抜き、ガラスが砕ける様な音が響いた。
魔法が解けた所を見計らってシオンが銃で黒猫の胸を撃った。
黒猫は黒いドレスを赤黒く染め、恨めしそうにコダチを見「こんな…こんな事で……」と呟くと、肉体が粒子状になり霧散した。
黒猫が今まで立っていた所には、白い結晶が残っていた。


「私は女王から『黒服を守れ』としか命令されてないって言ったじゃないですか」


コダチが笑いながらその結晶を手に取る。


「お前性格悪い」

「何とでも言って下さい、気にしませんから」

「…とりあえず早く戻ろう、此処は居心地が悪い。…アリス、立てるか?」

「う…うん…」


喉元を押さえたまま座り込んでいるアンズの手を取って、シオンが立たせる。
ジュンが振り返ってコダチと黒服に訪ねた。


「俺らは女王が用意してくれた移動魔法で帰るけど?」

「どうぞ。私達は少し此処でやる事があるので」


コダチがそう言うと、ジュンとシオンはアリスを連れてその場を後にした。
残った二人は向き合う。


「立てます?」

「立てる」


黒服は慎重に立ち上がりコダチを睨んだ。


「その様子なら、一人でも帰れますよね?コレを女王に渡しておいてくれませんか?」


そう言ってコダチは黒服にさっき拾った白い結晶を渡した。
黒服はそれを受け取ると首を傾げた。


「何だコレ」

「女王が必要としているモノです」

「……女王が欲しがっている情報って…コレの事か?」

「…まぁ、そういう事ですかね。…私は調べモノがあるので、アナタは先に帰って女王に報告しておいて下さいね」


するとコダチは魔方陣だけを残してその場から消えた。
黒服は手の中の結晶を握り締めると、傷を負った身体を庇うようにしてその魔方陣をくぐった。