出された紅茶を飲みながら、アンズはマジマジと目の前の男二人を見た。
ベレーキャップにシルクハットを被ってはいるものの、確かに二人は杏子の”愉快な仲間たち”の一員、ジュンとシオン…。
愛称、ジュンちゃんとシンちゃんだった。


「ジュンちゃんと…シンちゃんだよね?」

「? 俺達は帽子屋だよ?なぁ?」

「そうだ。俺達二人で”帽子屋”だ」

「……そっかぁ…」

(さっきのツバキといい今の二人といい…ホントは別人なのかなぁ?…)


そこでようやくアンズは今自分がいる世界のコトを考え始めた。
よく考えれば不思議な世界だ。
小さな空間の向こうには薔薇園が広がっていたし、その薔薇は突如液体になったし、闇雲に走っていただけなのに何故かこんな所でお茶を飲んでいるし…。


(しかも出て来る人みんな私の知り合いとか。…でもちょっと違うんだよなぁ?)


確かにどの人物も顔見知りなのだが、何処かが違うのだ。
まるで一貫した何かの都合に合わせられたかのように。


(みんな私のコト、覚えてない…のかな?アリスとか言ってるし…誰かと勘違いしてんのかな?)


そこまで考えると、不意に眠たくなってきた。
暖かな紅茶の温もりと共に、視界が揺らいでいく。


「あ……れ?………」


遠くで「おやすみ、アリス…」と声が聞こえた気がした。






つづく。
カチャリとカップが置かれた。
カップ内の紅茶が揺らめく。


「ホントに来てんの?アリスが?」

「噂じゃあな」

「ふぅ~ん?でも平凡そのものじゃない?」


茶っ気た髪の男が戯けたように言う。
すると、ハット帽を被った男はこちらに向ってくる気配に顔を上げた。


「……なら、アレは何だ?」

「ん?」


男が振り返ると、ソコにはシュタシュタと駈けているネズの姿があった。


「アレ…もしかして白ウサギか?」

「だろうな」

「……よしっ捕まえてみっか!」

「は?」


ハット帽の男が何か反応する前に男はネズの方へと寄っていった。


「ね~ぇソコの兄さん。お茶してかない?」

「退けよ俺は今忙しいんだっ!」

「…ふぅん?お兄さんの誘い断っちゃうんだぁ~…?」


ベレーキャップの下で男の目が怪しく光った。
すると、走っているネズの足を蹴り上げる。


「な゛っ!?」

「そんなコト言わないでさぁ~」


勢い良く回転しているネズの着地点にすかさず椅子を引き寄せる。


「お兄さん達と美味しいお茶飲も?」


直後、ネズの体はロープで縛られ椅子に固定されていた。
ガタガタと椅子が激しく揺れる。


「何だよお前ら!…ふごっ!」

「大人しくしてろよ、折角の茶会なんだから」


そう言うと男はトミタの口元を布で覆った。
すると少しもしない内にネズは大人しく眠ってしまった。


「お前…」

「だって面白そうじゃん?俺、今度のアリスはどんなのか気になるし」

「……」

「チョーおかしなヤツだったらいいなぁ~弄れば弄る程面白いヤツ。よくね?」

「…そうだな。だといいな」

「だろだろ!…なぁコイツの体縛ってるロープなんとかして隠せねぇかな?」

「マントでも着せるか」

「お~!それイイ!!」


ハット帽の男の提案に、男ははしゃぎながらマントを取り出しそれでネズの体を覆い隠した。


「コレでバッチリ☆」

「…そうこうしてる内に、来たみたいだぞ」

「お?」


男二人の視線の先で、ヘロヘロになりながらも此方に向かってくる少女の姿が見えた。
すると、二人はそれぞれ笑みを浮かべて、


「じゃあもうひとつ、席を容易しないとな♪」

「そうだな、折角の茶会だ楽しむか」


そして息も途切れ途切れに寄ってきた少女に優しげな微笑みを掛けた。


「あっ…、ぜぇ…あの……はぁ…ココにっ!変なの、来ませんでしたかぁ!?」

「いる。ココに」

「ちょうどよかった。今一緒にお茶飲んでた所なんだ、どう?」

「え?はぁ…?」


突然の誘いに、少女は首を傾げながら曖昧な返事を返した。


「ちょうどゲストが欲しかった所なんだよね~いい花がやってきた!」

「え?え?」

「「ようこそアリス、帽子屋の茶会へ」」

「ぼ…帽子屋…?」


そこでようやく少女は気付いた。
この帽子屋の二人も、自分の友人とジュンとシオンであるコトに。


「じゅ……ジュンちゃんに…シンちゃん…??」






つづく。

「ようこそアリス」って、言わせたかっただけなんだ。
杏子がいなくなったのを見届けた後、女王は指を鳴らして黒服を呼んだ。
現れた黒服から携帯を受け取ると、女王はすぐさまある人物と会話をし始めた。



「…私だ。…貴様、私との誓いを忘れたか」

『……急に連絡してきたかと思えば、何の話だ?』

「惚けるな。”アリス”がこの世界に現れたのは知っているだろう?」


「アリス」と聞いて女王の側に控えている黒服が僅かに反応した。


『…何だと…?』

「……知らなかったのか?」

『…”アリス”が…来ているのか!?この世界に!?』

「………その様子だと知らなかった様だな…ああそうだ。先程私の庭に現れたよ」

『何故その時に…っ!!』

「……私は貴様が私との契約を破ったのかと思ったからこうして連絡しただけだ。…違うならいい」

『はぐらかすなっ』


プツッ。

話し相手の言葉を最後まで聞かずに、女王は一方的に通話を切った。
沈黙した携帯を黒服によこす。


「……現れたのか」

「…お前には関係の無いコトだよ、ユウ」

「だが”アリス”は…この世界を脅かす存在だぞ?」

「………」

「女王」

「…………ああ」


女王はユウと呼んだ黒服にそれ以上話そうとはせず、飲みかけで放置されたままだった紅茶に口つけた。
侵入者が入ってくる前に淹れられたソレは、もうすっかり冷たくなっていた。
しかし構わずにカップの中の紅茶を飲み干すと、黒服に空のカップを付き出す。


「注げ」

「…アリスの問題は?」

「茶でも飲みながら考える。いいから注げ」

「……何杯目だと思ってる?」

「さぁな」


暇さえあれば常に紅茶を飲み続けるこの園の支配者に、黒服はやや呆れ顔でまた空いたカップに暖かなソレを淹れる。


「そんなに飲んでて飽きないのか?」

「お前がよく葉を替えるからな。飽きはしていない」

「わかるのか?」

「名前は知らない。味で『替わった』と感じているだけだ」


そう言うとまたついっと軽く飲む。
「このままではまたすぐに空になるな」と判断した黒服は替えを持ってくる為に踵を返して歩を進めた。