温経湯 その2 主婦湿疹 | 松山市はなみずき通り近くの漢方専門薬局・針灸院 春日漢方

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温経湯 その2 主婦湿疹

 

  <女性 35歳  主訴 手の平の湿疹>

患部は、右の手の平の真ん中あたりに、3センチ大の赤く剥けた場所があります。

10数年前に主婦になって、炊事、洗濯が多くなってから、ずっと出たり引っ込んだりしている。
ゴム手袋をすれば、悪化は防げるけど、長くはめていると汗をかいて気持ち悪いし、手先の感覚が悪く不便。

夏は、手の平に水泡ができ、それが潰れて痒い。
冬は、患部が乾燥して、ひび割れて痛い。

この、夏は水泡ができる。冬は乾燥する、という情報は、漢方的には意味があります。

こういう女性の手の平の湿疹は、一名、主婦湿疹ともいって、漢方で治そうとすると、普通の湿疹よりも少し頑固で難しい、時間のかかる印象があります。

主婦湿疹だから、女性特有の病気として、手の平の状態と生理の周期と関係は無いか、たとえば生理前に悪化して、生理後には軽くなるとか、そういうことがないかお尋ねしますが、そこはあまり関係ないかな? ということでした。

生理に関しては、ほぼ毎月、順調にある。
生理痛は、1日目がきつい。ときに痛み止めを飲む。
生理の前後で、便秘したり下痢したりは、ないと思う。

ふだんのお通じは、1~2日に1回。やや硬目。
つねに、食欲あり。 ときに過食になるかな。

口は乾いて、よく水やお茶、コーヒーなどを飲んでる。

舌を診せてもらうと、全体に血色が薄く、表面は乾き気味ですが、舌の全体はボッテリ水っぽい。これはよく水を飲んでいるからでしょう。

冬は足が冷えて、シモ焼けができる。
手は、冷えない。 でも手の平、足の裏に汗をかく。

手足の汗は、漢方的に大事な情報です。

<シモ焼けと五心煩熱>

手の平・足の裏・舌は、身体の内部の熱気が外に出てくる場所です。
口が乾き、手の平・足の裏が火照ることを、中国医学では「五心煩熱」といいます。
この「五心煩熱」の熱気は、正常な熱気「実熱」ではなくて、体内を潤して冷やす血や体液の不足によるもので、「虚熱」といいます。

手足の裏に汗の多い人は、体内の「虚熱」が汗を蒸し出しています。
その大元は、体内のどこかに、血や体液が足りない状態があるからです。
足のシモ焼けも、本来は「虚熱」で火照るはずが、ジトジト汗が出て湿っているせいで、それが冷えてシモ焼けになるのです。

この方は、手の平の熱感はあまり強く感じてないのですが、それは手の平に汗をかくことで、相殺されていると考えられます。

歴史的にも、主婦湿疹の治療には、『金匱要略』婦人雑病編に、<手掌煩熱>と書いてある「温経湯」がよく使われてきました。
主婦湿疹は、<手掌煩熱>が行きすぎて、手の平の皮膚炎として現れたと考えます。

しかし「温経湯」は、婦人科的な血の不足がベースにある人の処方です。
それならば、生理の周期で、血が不足したり、血に熱を持ったりすることの影響がありそうなのに、この方の場合は、手の平の痒みと、生理は関係ないと言われます。

もう一つ、決め手に欠けるので、お腹を押さえさせてもらいます。


お腹のあちこちを押さえてみても、特に痛がったり、筋肉が強ばったりする場所は見当たらないのですが、左右の鼠径部あたりを軽く押さえてみたら、身をよじって痛がりました。
         


<気血の不足>


鼠径部は、「肝」や「腎」につながる<経脈>が、足の内側から上がってきて、お腹に入るときに、<気血>が停滞しやすい場所です。
「肝」「腎」の<気血>が不足気味の人は、鼠径部に<気血>が停滞して、しこりや痛みを生じます。

これで、この方の体質が、「肝」「腎」の<気血>が不足していることがはっきりしました。

「肝」「腎」の<気血>を補うには、「当帰」「芍薬」「川芎」の入った「温経湯」が適応するでしょう。

しかし、手の平が赤剝けするほど、熱気の強い皮膚炎ができていることを考えると、漢方屋としては「温経湯」のままでいいのか、気になります。


<暖かい血・冷たい血>


というのも、「当帰」「芍薬」「川芎」は、「血」を増やすお薬ですが、「当帰」と「川芎」は暖かい「血」を増やして、患部を暖める作用が有ります。

だから、アトピーなどの痒みや熱感、発赤のある皮膚炎に使うと、患部を暖めて悪化させることがあります。

いっぽう「芍薬」は、血管を引締めて「血」を冷やす作用をしますから、これはかまいません。

そこで、正規の「温経湯」から、「血」を温める「当帰・川芎」を除けて、逆に冷たい「血」を増やす「地黄」「可首烏」「丹参」に入れ換えてみました。

               地黄

                        可首烏

          丹参


また前回のブログにも書きましたが、「麦門冬」「牡丹皮」がとくに手の平の熱感によく効くので、この分量は規定より増やします。

「温経湯」の主婦湿疹バージョンを7日分服用してもらうと、手の平の赤剥けが、2センチ大に縮んで、夜中、明け方の痒みが減りました。
そこで、同じ処方を、1カ月服用していただいて、主婦湿疹はきれいに治りました。
これで、しばらく不味い漢方薬を飲む必要はなくなりましたが、体調を崩せば再発するかもしれません。その時は、また同じ処方を飲めば治るはずです。