こころとからだ
高校生の女の子が、頭痛がするということで、お母さんと相談に来られました。
朝から頭痛がするのと、しんどくて、ここしばらく学校に行ってない。
2学期になってから、コロナにかかったり、発熱が続いたりして休みがちになっていた。
その後、発熱は落ち着いたけど、朝、頭痛がするので学校は休んでいる。
漢方屋として、頭痛の原因がどこに在るのか、お尋ねします。
今日なんかは、朝から雨が降ってるけど、お天気と頭痛とは関係してますか?
体内に水分が多い人は、雨の降りそうな日に頭痛がしますから。
いいえ。
では、水分の停滞とは関係ない。
では、今の頭痛は、生理と関係していますか?
生理で血が不足すると、頭痛する人も多い。
生理は先々週、終わったから、関係ありません。
そう。 じゃあ、血の不足とも関係ない。
じゃあ、頭痛の時に、吐き気がする?
いいえ。
じゃあ、食欲が落ちたりは?
いいえ。
胃が冷えたら、頭痛がすることがあります。
そういう場合は、吐き気がしたり、食欲が落ちるはず。
だから、胃の冷えでもない。
頭痛のするとき、目まいとか、肩こりがする?
肩こりや目まいは、水分の多い人の頭痛と関係しますから。
いいえ。
朝は、しんどいというけれど、何か疲れるようなことをした?
いいえ。
前の晩には明日の学校を楽しみに、予習もし準備もしてるけど、朝になるとしんどくて起きられない。
こちらの繰り出すどの質問にも、きっぱりと否定します。
最後の質問あたりで、不謹慎だけど、笑い出しました。
○○さん。 もう答えは出ていますよね。
いまの頭痛を起こしている「原因」は、あなたの<身体>のほうには無いようですね。
もう、漢方薬屋の出番ではありません。
彼女も、<こころ>の深いところで、そのことが分かってしまったようです。
私は笑っているのに、彼女の目から、涙がはらはらこぼれました。
自分を苦しめている頭痛は、<身体>の一部の症状ですが、その症状の大元が、<身体>のほうには無いと、自分で認めるのは、ほんとうに勇気のいることです。
<ふつう>の子供は、毎朝、学校に通います。
でもいまは、中学生なら、2割の子供が学校に通っていないようです。
高校生になると、すでに選別が終わっているので、進学校で不登校の割合は少ないようですが。
でも、<ふつうでない>ほうに所属するのは、なかなか辛いものです。
私もそうでしたが、進学校にいる子らは、学年単位で輪切りにされて、ヨーイドン!で、徒競争させられている感覚。
そのときに、トラックからいったん離れるのは、自分一人が競技から脱落して、その間に他の人は、何週も先を行ってしまう、そんな気になるのです。
人生をマラソンのように、ひたすら前に向かって走り続ける競争だと考えると、競争に遅れる奴らは、懸命に走る努力が足りないのだ。
進学校にいると、それ以外の人生があるかもしれないなんて、教えてはくれません。
私だって、とうに長距離走から脱落して漢方薬屋なんかをしていますが、いまでも同窓生の人生と比べて、心の中で負けたり勝ったりを感じています。
彼女とお母さんに伝えたことは、2つあります。
○○さん、あなたの<からだ>は、あなたの<こころ>よりも、賢いようですね。
あなたの<こころ>は、あまり深刻には感じてなかったけれど、あなたの<からだ>は、もう我慢ができなかったんですね。
今回は、<からだ>の言うことのほうを聞いて、<からだ>の満足するまで、ゆっくり休むしかないんじゃないですか。
もう1つは、実務的なことです。
学校に行けない子供たちがこれだけいるのだから、高校には、スクールカウンセラーが置いてあるし、県や市の教育委員会にも、相談窓口があります。
そこには、私みたいな素人ではなくて、<こころ>の相談ごとの専門家がいます。
餅は餅屋。そういう専門家は、教育相談の知識もスキルも学んでいるし、数多くの経験を積んでいます。
そういう専門家に相談すれば、お嬢さんの悩みごとも、必ず良い方向に向かって開いてくれます。
まず手始めに、お母さんが、そういう所にお電話をしてみてください。
その感じで、お嬢さんが行ってみてもいいでしょう。
このお嬢さんとお母さん。
ほんとうに素直で賢い親子だと感じました。この人たちだと、こちらの言うことが分かってくれそうだと感じたので、こういうお話をしました。
お子さんがもう少し学年が下だったり、親御さんに余裕の無さそうな方だったりすると、別の展開を考えることになりますけど。
絵は、熊谷守一のポストカード