下痢に八味地黄丸 | 松山市はなみずき通り近くの漢方専門薬局・針灸院 春日漢方

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下痢に八味地黄丸

 

慢性的な下痢の患者さんに、「八味地黄丸」で良かった例がいくつかありましたので、検討してみます。

 

いま、夜間尿・頻尿に、「○○八味地黄丸」というのを、テレビコマーシャルでよくやっていますが、お気づきでしょうか?

漢方屋は気にしていますが、その症状に関係のない方は知らないかも。

 

夜間尿・頻尿だから、おしっこが出過ぎるのを防ぐお薬なのかな? と思われるでしょうか。

 

八味地黄丸270錠 ー 日本生薬漢方 さん

 

もし、仮にそうだとしても、それが下痢に効くというのは、筋違いの効き目のようですが、どうなんでしょう?

 

< まず「八味地黄丸」の効能について >

 

「八味地黄丸」は、その名のとおり、8種の生薬を合わせて丸薬にした処方です。

      

また、「地黄」という生薬が主薬でもあります。

    

しかし「八味地黄丸」には、「八味腎気丸」という別名もあります。

この「腎気」というのが、難しい。

 

簡単にいえば「腎」を元気にする処方ということになりますが、この「腎」は、いまの医学の解剖学的な「腎臓」とは、別物。

漢方医学で考えている「腎」です。

 

現代医学の「腎臓」は、泌尿・排泄の、専門の器官です。

漢方の「腎」も、もちろん泌尿・排泄の機能も重視しますが、それ以外に、生殖作用、体液の貯蔵・循環、骨格・足腰の強さ、聴覚、精神的な安定性・粘り強さなども、「腎」の働きだと考えています。

 

そして、漢方では「老化」することが、「腎」に蓄えられている「腎水」=血・体液の元の減少だと考えています。

「腎水」の減少を、「腎気」の低下といいます。

「腎気」の低下は、「老化」だけでなく、若い人だって、肉体的な過労、急な精神的なショック、しつこいストレスなどでも起こります。

 

地黄(じおう)|生薬辞典|漢方薬・生薬大辞典 - 漢方薬のきぐすり.com さん

       アカヤジオウの根

 

「八味地黄丸」は、主薬の「地黄」が「腎水」の不足を補って、「腎気」を回復させる処方です。

 

< 「八味地黄丸」は、下痢に使いにくい >

 

「八味地黄丸」の主薬の「地黄」。

アカヤジオウという植物の芋状の根っこを乾燥させたもので、写真では分かりにくいかもしれませんが、ねっちりと粘り気のある生薬です。

 

       地黄の刻みの生薬

 

「地黄」を飲むと、この粘り気が、体内で体液の元である「腎水」を作りだします。

しかし、どんな薬でも、飲んだときには、まず「胃」に入ります。

「胃」のなかで、大量の粘っこい体液の元を作られると、「胃」の弱い人は、大量の水分がこなせないで、胃もたれしたり、それが腸から吸収されず、下痢になってしまいます。

 

だから、「八味地黄丸」は、「胃」の弱い人、すぐに食欲の落ちる人、胃もたれ、腹痛のする人、そしてすぐに下痢する人には向きません。

 

「八味地黄丸」の向いているのは、食欲不振とか胃もたれなど「胃」のトラブルのない人。そしてやや便秘がちの人です。

体内で、体液の元が不足気味なら、当然、腸の中も水分が不足して、便秘がちになります。

 

だから、「八味地黄丸」は下痢する人には、使いにくいというのが原則です。

 

< 下痢に「八味地黄丸」の症例 >

 

ここに、「過敏性大腸」症候」という病名の患者さんが来られました。

それがどんな病気かというと、何か、緊張させられるような場面で、お腹がキューっと痛くなって、トイレに駆けこまないといけなくなる、という病気です。

気分的な要因が多い病気です。

私も、多少そのケがあるので、気持ちは分かります。

 

この患者さんを問診して、病気が始まったきっかけは、受験のときのストレスから、ということははっきりしています。

しかし、それなら、今でもイヤなこととか、緊張させられる時に、下痢するのか? ということがどうもあいまい?

 

では、食べ過ぎたとか、冷たい物を飲み食いしたとか、そういうことでは下痢しない。

つまり、「胃」の調子を悪くすることとは関係ない。

 

患者さんの意見では、身体が冷えた時に下痢するかな? 

だから、夏より冬に悪い。

冬は足が冷える。

 

他に問診で確かめたことは、

食欲は正常。食欲が落ちるとか、食べられないということはない。

逆に、変に食欲が出て、ガツガツ食べたりもしない。

 

夜もよく寝られている。

小便は、普通だと思う。 夜、寝てからトイレに行かない。

 

しかし、ここがポイントだと思ったのが、水分をたくさん摂っていることです。

夏は冷たい物を1~2リットル。冬でも常温のものを1リットル。

 

舌は乾いていますが、ケバだった苔などなく、のっぺり平坦です。

これは、体内に実熱が詰まったりしてないが、体液が不足して、内部が乾燥しているのを示しています。

 

お腹を押さえてみると、下腹の力が抜けています。

 

 

これは「八味地黄丸」の特徴的なお腹です。

これは、下腹の力=「腎気」が抜けていることを示しています。

 

また、この方の食欲のあり方。

毎食、お腹が空いて、きちんと収まっている。それでいて、変に食べすぎたりもしない。

これは、「胃」になんの問題のない人の食欲です。

逆に、そういう人が「腎」の問題のある体質と言えます。

 

体液が内部で不足するから、ドンドン水を流し込んでいますが、「腎」がそれをとりこめず、それが小便に向かわないから、腸に水が余って下痢になります。

これがこの方の下痢の原因です。

 

また「八味地黄丸」には、「桂枝」「附子」という生薬が入っています。

 

        桂枝

                     附子

この2味の生薬は、「腎」の「陽気」を補います。

 

「腎」の「陽気」は、「腎」から出て、「胃」から「肺」に昇り、全身を巡って、身体を温めます。

この人は、大量に水を飲むように、内部は乾いて熱が多いのに、体表面は「陽気」が不足して、冬に足が冷える、冷えたら下痢をするなどの症状になっています。

 

この人の下痢には、「八味地黄丸」が合うように思います。

 

      栃本天海堂の八味地黄丸

 

小さな丸薬、1個が0.1グラム。

この「八味地黄丸」を、1回、20個=2グラム、1日3回、7日分をお上げしました。

7日後のお電話では、寝不足の翌日に、1日だけ下痢をしたけど、他は下痢しなかった。

口の乾くのが、すこし減ったように思う。

胃にもたれたり、食欲が落ちたりはない。

 

ということなので、さらに2週間分をお上げしました。

そのまましばらく「八味地黄丸」を続けて、下痢はほぼ無くなりました。