お正月 東京ツアー 後編
1月3日
3日目は朝の10時から日比谷のシネシャンテで映画。
夏前から、マイルス・デイビスの映画が日本でも、12月には公開されると聞いていて、東京で見られることを期待していました。しかし、この映画が公開されてるのは、この時点ではここ1館だけ。「マイルス・デイビス」の神通力はもう日本では失せたのでしょうか。
映画の中身には触れませんが、私にとってはとっても面白い経験をさせてくれた映画です。「音楽」を「映画」にするのは難しい。それが「ジャズ」となるとさらに難しい。ジャズを演奏しているところを映せば、それはドキュメンタリーでしかありません。それをこの映画は、映画でジャズをやることに成功していると感じました。
ボクシングの試合会場になだれこんで、客席で大乱闘の場面。激しくカメラを切り替えているうちに、リング上にジャズのコンボが上がって急速調のプレイ(マイルス・イン・トーキョーの Walkin あたり)をしている、あり得ない場面が素早く挟まれたり。
ボクシングのプレイとジャズのプレイが、同じ感覚というのは、ジャズ好きには分かってもらえると思うのですが?
また、最高のコカインを売人の部屋に買いに行って、金の足りない分を、売人の持っているマイルスのLPにサインしてやるところで、『イン・ザ・スカイ』『スケッチ・オブ・スペイン』『いつか王子様が』などにサインをしながら、マイルス自身が「どれも骨董品ばかりだ」とつぶやくところも良かった。
最後、5年の沈黙ののち、復活なった架空のステージ。主役兼監督のダン・チーゲル演じるマイルスと、若手3人に、現実のウェイン・ショーターとハービー・ハンコックが登場。このお二方、ほんとうにお年を召されてました。そりゃ、私が中学のころ、45年前に中堅に差しかかっていたわけですから。でも、その演奏はピリッと輝いてました。
さて、上のポスターを見ると、肝心のマイルスが面長で、似ていない。本物はもっとかっこいいぞ。
この映画、ジャズファンには強くお勧めします。しかしそうでない方には、雑なよく分からない映画としか見えないかもしれません。
夜は渋谷のNHKホールで、ニューイヤー・オペラコンサート。
NHKの敷地の街路樹にイルミネーション。素人のカメラにも撮れるように明るさや色目がうまくしてあるのか、暗いのにうまく写っています。
いまどき、観光地ではギンギン・フルカラーのイルミネーションを競っているようですが、この程度でいいんじゃないでしょうか。これ以上やると夜の風情も台無しになります。
12月も半ばになって、妻がこのコンサートに行きたいといい出して、正規の予約サイトでは、B席ー5千円ばかり。チケットキャンプというサイトで、A席ー7000円が取れました。しかし行ってみると、2階の奥の壁から4っつ前。ステージは深い谷底のよう。
S席ー8500円は、10月半ばの売り出し直後に完売のようです。
ホールに入って驚いたのは、2600の席が一つの空きもなくピッチリ埋まっていたこと。こんなに大勢の人がぎっちり集まっているところは、田舎ではありません。
上のポスターに出ている歌手たちのなかで、いいなあ、と思ったのは、ウィーンのオペレッタを歌った若いテノール、西村 悟という人。歌っている本人の人格と、演じている登場人物の人格との間に差がない感じ。役柄の人、そのものが歌っているような不思議な感覚になりました。
また古いバロック時代のスタイルでヘンデルのアリアを歌ったカウンターテナー(女の役を男が裏声で歌う)、藤木大地。裏声でささやくように歌って、よくこちらに響きます。
こちらは女声の森 麻紀。同じ歌詞を4回繰り返すうちに、即興的に装飾音を加えていって、 ものすごく派手で複雑なメロディーに仕立てていったのは見事でした。
じつは元日に中古CDを買うときに、オペラものに手を出すかどうか、かなり迷ってはいました。
このコンサートを見てから、次の日に同じ新宿の店にいって、日本語字幕付きのオペラのDVDを3枚、買いました。 ウィーンのオペレッタ、『こうもり男爵』。 ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』。モーツアルトの『ドン・ジョバンニ』。どれもこのコンサートの中で歌われた曲を含みます。
このコンサートは、教育テレビの生放送で中継されました。その再放送は、来週、14日の土曜日、午後3時から5時まであるので、興味のある方はどうぞ。
1月4日
子供たちが勧めるこの映画を、朝から新宿に見にいきます。東京に住んでいる次男が、先に席の予約をせずにのこのこ行っても、東京じゃあ見られないかもよ、というので、松山を出る元日の朝、6時にネットで予約しておきました。
映画会社の当初の見込みを大きく違えて、ほんの少しの映画館で始まった興行が、日を追うにつれて上映館を増やしていきました。松山でも大晦日から上映が始まっています。
テアトル新宿でも、朝の9時半の回に、当日券の人が長蛇の列をなして、映画の始まるまでになんとか座席に収まりました。
日ごろ、松山でマイナーな映画ばかり見ているので、自分たちの見る映画が、びっしり満席になるのは変な気がします。
映画は、戦前に東洋最大の軍需工場があった、広島県の呉市のお話。
ちょっとボーっとして不器用な女性の主人公が、少しでも人に迷惑をかけまい、少しでも人のためになりたいと懸命に戦時中の耐乏生活を続けてきたのに、玉音放送で戦争は終わり。
主人公は、「最後の一人まで戦う、と言うとったんじゃ無かったんかねー」と号泣します。まあ、「責任者、出て来ーい!」というわけですね。
しかし責任追及は日本とドイツでは、自国民によっては成されませんでした。
砂糖や主食のコメはおろか、食塩にも事欠くような窮乏生活のなかでは、その日を生きていくことが重大事ですから。
この映画を見て思ったのは、男たちにとっては8.15は「戦争の終り」でしたが、女たちにとっては8月15日の夜も、晩ご飯の算段をしなければならなかった。
女たちは、原爆の落とされた日にも、何らかの食事を用意する必要があったし、それは3.11でも、9.11でも同じことでした。
その日も、男と子ども達に何かを食わせないといけなかった、当たり前のことですが、そのことを深く考えさせられました。
この映画も、8月15日では終わらず、懸命に普通の生活を立て直す努力が続いて、やっと明るさが見え始めた、その年の秋くらいをもって終わっています。
私は「戦争映画」と「戦争」の映画、と分けて考えています。「戦争映画」は正義の主人公が凶悪な敵をバッタバッタとなぎ倒していく映画。敵は、ナチスドイツ、インディアン、テロリスト集団、あるいは日本鬼子とさまざまですが、主人公に決して弾が当たらないところは共通。
それに対して「戦争」の映画は、戦争に関する何らかの「リアル」を伝えようとするものです。
普通のちょっとボーっとした女性が、どのようにあの戦争を生き延びてきたかを描いた、ほんとうに優れた「戦争」の映画です。
帰りの飛行機が、夜の7時。まだ間があるので、羽田までの途中にある、品川水族館に行きました。
写真はイルカショーのワンシーン。ショーの始まる前から、イルカたちのウォーミングアップなのか、大きなプールをすごい速さで泳ぎ回り、ときどき高くジャンプします。
ポンッと跳ね上がったところを写真に収めたいのですが、飛び出すタイミングが分からないので、変な写真ばかりが撮れてしまいます。
何度もシャッターを押しているうちに、カメラの充電が切れて動かなくなりました。これでお正月東京ツアーの記録も終わりになりました。
唯一、イルカのジャンプらしいところが撮れたのがこの1枚。
やはり動物園や水族館は、小さなお子さん達のための施設です。大人だけで行っても、そうは盛り上がらないものです。
家に帰れば、明日からまた仕事の毎日に戻ります。