なんてことない非日常 -20ページ目

なんてことない非日常

スキビ非公認二次創作サイトです。
駄文ばかりの辺境館ですが、広いお心で読んでいただける方歓迎しております。

†Marriage end blue 12



クルッ・・・・
クルッ・・・・

指の上でペンを回すたび、模型のイルカが水の中をゆらゆらと動いて愛らしい動作に思わず笑みがこぼれる。

が、キョーコはそれを無理矢理捻じ曲げて難しい顔をして見せた。



「少し休憩したら?」



水族館を出て、夕食を済ませ戻ってきた途端、部屋にこもって勉強し始めたキョーコの元にコーヒーを持ってきてくれたクオンに睨みを返すためだ。



「・・・大丈夫で・・」



「ああ、使ってくれてるんだ?・・・楽しかった?デートは」



キョーコの言葉を無視して、部屋に入ってくるとコーヒーを置きキョーコの手から買ってあげたペンを取り上げた。



「デートなんかじゃないです!」



「でも、楽しかったでしょう?」



『敦賀 蓮』スタイルである黒髪に戻っているクオンだが、瞳は青に近い緑のままでじっとキョーコを見下ろしてきた。

吸い込まれてしまいそうな綺麗な瞳から、必死に視線を逸らすとキョーコはクオンが持って行ったペンを取り返した。



「イルカやアザラシには罪がないので、可愛かったし楽しかったです!・・・あなたが一緒じゃなければ」



「・・・・・・・ふぅ~ん・・・でも、これを買ってあげたのは俺だよね?」



いたずらっ子のようにシャープペンを突くと、キョーコはそれを庇った。



「もう私のモノです!」



「・・・また素直じゃなくなってる・・・・」



「何か言いました?!」



「・・・・・いいえ、別に?」



まだ腹の虫がおさまらないキョーコだったが、すぐに机に並べてある英語のノートに中断していた書き込みを始めた。



「・・・まだ何か?」



『私はあなたに構う気はありません』オーラを出しているのに、全く部屋から出ようとしないクオンを少しだけ振り返り棘のある言葉を投げた。



「ん・・・ここ、間違ってるよ?」



しかし、クオンはキョーコの椅子の背もたれに片手をもう一方はノートの方に・・まるでキョーコを後ろから囲うように指示してきた。



(!!?)



急に背後が暖かくなり、キョーコの心臓が飛び上がっているのにも構わずあの水族館のペンを握ったキョーコの手の上から自分も手を重ねてサラサラと英文を書いていった。



「ほら、こうすれば・・・」



「は、離して!!」



ブン!っとキョーコが手を払うと、ペンがカシャンと小さな音を立てて机から転がり落ちた。

クオンはその衝撃に一瞬怯んだが、すぐにいつもの態度に戻った。



「・・・・ああ・・・ごめん、お子ちゃまのキョーコちゃんには刺激が強すぎたかな?・・・勉強もほどほどにね?もう集中力もなさそうだし今夜はもうお風呂にでも入って休んだら?・・・俺はもう入ったから先に寝るよ?おやすみ」



真っ赤になったまま固まっているキョーコの代わりに、ペンを拾い上げると机に置きクオンはスタスタと部屋を出て行った。



「なっ・・・なんなのよ~・・・」



急に引いていくクオンの態度に、キョーコは心臓をドクバクと鳴らしながらも重なった感触の残る手をぎゅっと握りしめた。


しかし、扉の外にいるクオンは眉間に皺を寄せたまましばしその場に立ち尽くした。




*************




「最上さん、これ手伝ってもらっていいかな?」



結局あの後、今朝学校についてからもロクに目も合わさなければクオンが話しかけると逃げるキョーコに痺れを切らした蓮が授業後に大量のプリントをキョーコに落ち着けてきた。



「授業の資料作り、手伝って?」



「・・・・・敦賀先生なら、喜んで引き受ける子いると思うんですが?」



「・・・みんな忙しいんだって」



「・・・じゃあ、私も忙しいです」



「手伝ってくれたら、あのペンのことはもう言わな・・」



「行きましょう!先生!!」



誰が聞いているかわからない教室でそう言われると、キョーコは慌てて蓮を引っ張り教室を飛びだした。



「急ぐとプリント落ちちゃうよ?」



「さっさと終わらせたいんです!!」



山盛りのプリントを持って、スタスタと準備室に行くキョーコを蓮は苦笑いしながら後を付いていった。

その途中、不破がキョーコを見つけ何か言いたそうにしていたのだがキョーコはプリントのせいで見えなかったらしく気付かないまま通り過ぎて行った。


冊子にするために並べて、ホチキスで止める作業を黙々とこなすキョーコと二人きりで準備室にいる蓮は丸付けを終えた生徒たちのノートを一纏めにすると大きく伸びをした。



「コーヒー飲む?」



「結構です、さっさと終わらせて帰ります」



「俺と本当の二人きりになれる家に?」



ぎゃ!?と蓮の言葉で小さな悲鳴を上げるキョーコに、蓮はクスクスと笑みを漏らした。

しかしまた沈黙が二人の間に漂った。

蓮は一呼吸を置いて口を開いた。



「・・・そんなに『ショーちゃん』が好きなの?」



カタン・・・と、キョーコの向かい側にあるパイプ椅子に蓮はコーヒー片手に腰を下ろした。



「なんですか急に・・・・あ、こぼして汚さないでくださいよ!?そこ完成したの置いてるんですから」



「・・・はいはい・・・で?『ショーちゃん』・・・そんなに好きなの?」



責めるようなものでも、怒った声でもなく訪ねてくる蓮に、キョーコは素直に口を開いた。



「・・・・ショーちゃんは・・・小さい頃私を助けてくれたんです・・・・大きな犬に追いかけられて、木に登って逃げたのはいいけど降りられなくなって・・・・」



その話を聞くと、蓮は脳裏に幼い日のキョーコと自分がすぐに思い浮かんだ。


ドーベルマンに追いかけられたキョーコは、木に登り降りられなくなっているのをクオンにより助け出されたはずだった。



「ショーちゃんが犬を追い払ってくれて、木から飛び降りた私を受け止めてくれたんです」



(・・・・記憶喪失の一環なのか?・・・記憶が混同している?)



それとも、彼は本当にキョーコを助けたのだろうか?自分の時と全く同じシチュエーションで?


キョーコが嬉しそうに離している間、蓮の胸の中ではグルグルとそんな思いが渦巻いていた。

だが、真実を話すことなどできなかった。


もし何かのきっかけで記憶が戻ったとしたら・・・・

そのせいでキョーコが壊れてしまったら・・・・


周りがあれだけ必死にキョーコに記憶を戻さないようにしているのは、あの話以上の蓮の知らないナニカがあったからだ。



(じゃなければ・・・この徹底した過去に触れさせない動きは不自然だ・・・)



そこに何も知らないまま、過去の約束を盾にここに来た自分こそ本当はキョーコにとって良くない存在なのではないか?

そんなことをチラリと思い始めていた。


もし、心からキョーコが不破を好きならば・・・

契約は続行していても、自分は身を引いた方がいいのではないのか?

そう考え始めていた。


過去のことを思い出さなければ、記憶を混同したまま幸せに過ごせるなら。

あの・・・水族館で見たような笑顔をしてくれるなら。


自分が側にいない方がいいのではないのか?

拒否ばかりされ続けている蓮は、少しずつそう思い始めていた。



「・・・・『守ってあげられなくてごめん』って・・・言ってたんです」



「!・・・・え?!・・・」



押し黙った蓮に、キョーコは不信がりながらもそう言うと目を見開いた蓮が顔を上げた。

それはかつて自分が言った言葉だったからだ。



「木から降りた時、少し手を怪我して・・・その時『守るって言ったのに、守ってあげられなくてごめん』って・・・・言ってくれたんです・・・・・・・・・そう・・・言ってくれたんです・・・・だから、その時の表情が忘れられなくて・・・私は・・・・・・・・ショ・・・ちゃん・・・・だった?」



「え?」



先ほどまでホクホクと笑みを作って語っていたキョーコだったが、急に語尾が弱弱しくなりどこか違うところを見始めたキョーコに蓮は眉間に皺を寄せた。



「・・・・ちが・・・ショー・・・ちゃ・・・ない・・・・・だれ?・・・たすけて・・・くれた・・・男の子・・・・・・」



急に手を震わせ、持っていたホチキスも落とし目を見開いて浅い呼吸を繰り返し始めたキョーコの様子に蓮は直感的に危険だと悟った。



「ごめん!もう聞かない!!忘れて!キョーコちゃん!!」



蓮にそう叫ばれ、キョーコはビクン!!と体を一際大きく震わせたあとピタリと動きを止めた。

そして、じっと蓮を見つめた後小さな声を口から出した。



「・・・・・コー・・・ン?・・・」



「え・・・?!」



キョーコの言葉に驚きつつも、覚えているのかと問いただそうとしたが蓮にはできなかった。

キョーコがそのまま気を失ってしまったからだ。






13へ

















§アラビアン・ナイトは眠れない   3





 「っはあああああ~~~・・・・・・・・・・」



「・・・・・・・・・・・どーしたー?蓮・・」



深く長いため息を朝っぱから何度もつかれて、社はようやく突っ込みを入れた。


まだ早朝の企画営業課では、社と蓮しか出社していなかった。

いつもなら京太がみんなのディスクを磨いて、笑顔で出迎えてくれるはずなのが今日は蓮の重苦しい空気とため息ばかりだ。


出社してきたばかりなのにもう三度もこのため息を聞かされて、社はいい加減口を開いたのだ。



「・・・・・社さん・・・・俺・・・京太が好きです」



「へ~・・俺も好きだぞ?可愛い部下だし、弟みたいだし」



「・・・キス・・・しました・・・無理やり」



「へ~・・可愛いからな~・・・・・・・・・・・・・ぅええ!!?キッ!?」



「めちゃくちゃ驚かれて、突き飛ばされて逃げられました・・・・ハハ・・女の子ならみんな腰砕けにすることできるのに、京太は走って逃げました・・当然ですよね?男の京太に男の俺がキスしたんですから・・・ハハハ・・・・」



(・・・・こ・・壊れてる・・・)



遠い目つきで、無表情のまま空笑いする蓮の屍のような動きに社は困惑した後少し考えて・・考えて・・・・ダラダラと汗をかいて眉間に皺を寄せて大きくため息をついた。



「蓮、こっちにこい」



蓮の腕を掴んで立ち上がらせると、第二会議室を使用中にプレートを移動させて二人で入った。



「・・・・・いつ・・そうなったんだ?」



「昨晩・・たまたま先に帰した京太が、貴島に誘われて行ったバーにいて・・帰ろうとした俺を京太が追いかけてきて・・・」



「いや、そうじゃなくて・・・・いつから・・京太のことを・・その・・・・特別に?」



社の問いに、蓮はキョトンとした後しばらく考え込んだ。



「いつ・・・かな?・・・・自覚したのはキスする直前だったけど・・・可愛いと思い始めたのは、資料倉庫に閉じ込められた時に暖を取るために後ろから抱きしめた時に女の子みたいに細いのに俺のためにジャケットをかけて自分は体を冷やし切るのかって思って・・・・・でも・・一番は・・・あの時かもしれません・・」



「あの時?」



社に答えるためなのだが、その時の光景を思い出した蓮がくにゃりと頬を弛めた。



「・・・彼が初日に、告白しにきた女性社員から俺を救い出しに飛び込んできてくれた・・・真っ赤な顔で必死に・・・あの時から俺は彼に心を掴まれていたのかもしれません」



柔らかな表情で微笑む蓮に、社は大きく息を吐いた。



「まさか・・・お前をあの『一晩ループ』から救い出した奴が・・男だとはな・・・・・・」



自分がいつか言っていた、『蓮を救い出してくれる本命の相手』が京太だったことに社は納得できるようなできないような複雑な気持ちでじっと蓮を見た。


照れながらも幸せそうに微笑む蓮に、社も笑っていた。



「・・お前・・・・見る目あるよ、京太はすっごくいい奴だからな?・・・でも、男だ」



「・・・・・はい・・」



現状を客観的に伝えてくれる社の言葉に、蓮は真剣な顔に戻った。



「気持ちも伝えずにいきなりキスするのは相手が女性でもダメだろ?ましてや同性相手に心の準備もさせないで・・・京太・・・お前に嫌がらせされたって思っているかもしれないぞ?」



社の言葉に蓮は、先ほどまでの幸せオーラを一気に腐のオーラに変えて凹んだ。



「・・・どうしたら・・・いいでしょうか?・・・・」


予想以上に凹んだ蓮に、社は慌てて慰めた。


「と・・とにかく、出社してきた京太を営業の勉強だと外に連れ出して誤解を解け!いいな?」



「っ・・・誤解・・・じゃないんですが・・・・でも、もし・・・ショックで・・・休んだら・・・」



いつも朝一番に来ていることを見計らって、朝から蓮も話をするつもりで来ていたのに京太が出社していないことに嫌な予感が拭えなかった。



「今日がダメなら明日!お前のスローガンだろ?!」



「それは・・仕事での・・・・・」



「仕事も恋愛もたいして変わんないよ、如何に真剣に向き合うかだ・・・相手とも・・・・自分とも」



社にそう励まされてようやく蓮は、いつもの調子を少し取り戻して課に戻ることが出来た。



(京太に会ったら、昨夜のことちゃんと謝ろう・・そのうえで俺の気持ちをきちんと知ってもらおう)



決意を固め課に入ると仕事に取り掛かった蓮に、その決意を簡単に打ち砕く言葉が村雨から伝えられた。



「あ、主任!おはようございます!!さっき社長室から電話があって京太に用事があって昼過ぎまでこっちに戻ってこれないそうです」



「・・・・・え?・・・・・」




***************




「っ・・・ずずっ・・・・っひぃく・・・・うっうっうっ・・・・・」



京太の姿を半分解いて、キョーコはボロボロと涙と鼻水を流しながら困り果てた表情のローリィの前に居た。


昨夜遅く、急に『もう、このお仕事を引き受けることが出来なくなりました』と泣きながら電話をしてきたキョーコを説得して朝、直接この社長室に来てもらったのだ。



「・・・本当なのか?・・・本当に蓮が君の正体に気が付いて・・・」



ローリィの問いかけにキョーコは頷いた。



「ずずっ・・・はあ・・・・本当です・・・『なんで男なんだ?』って聞かれて・・・キスされて・・・・・私の正体も気持ちもバレちゃって・・・だから一晩相手をして、私に諦めてもらおうと・・・っっっつ~~」



そこまで言ったキョーコは、また耐え切れなくなりボロボロと大粒の涙をこぼし始めた。

そんなキョーコの姿を、痛々しそうにローリィは見つめた。



「すまなかった・・・・君なら・・・君の強さなら・・蓮を救い出してくれるんではないかと思って、この仕事をさせた俺の責任だな・・・・ビル清掃の君を無理やり引き抜いて、大学時代の友人がいる秘書課に入社させるからとこんな仕事を押し付けた俺の責任だ」



君を傷つけてすまなかった・・・・と、ローリィに深々と頭を下げられキョーコはようやく涙を止めた。



「ぐすっ・・・・・いえ・・・私が悪いんです・・・ちゃんと知っていたのに・・・うっかり好きになっちゃったから・・だからバレちゃって・・・・」



「しかし蓮は、俺の所に何も言いに来ないぞ?」



「・・・もしかしたら社長に頼まれたことは、バレていないのかも知れません・・・男装までして側に来たがったバカな女だとしか・・・・」



キョーコは、諦めに満ちた笑い顔を張り付けて言ったがローリィはどうにも腑に落ちなかった。



「・・・・・・ちょっと蓮に連絡してみよう・・・もし正体がばれているなら、最上 キョーコとして企画営業課で今手がけている仕事をこなして欲しい」



「ええ!?」



ローリィの提案にキョーコは驚きで、一度涙が引っ込んだ。



「企画営業部長から、『最上 京太は本当にいい新人だ』と連絡をもらっているんだよ・・・だから、本当はこの仕事をこなしても秘書課に配属するのは惜しいと思っていたことろだったんだ」



ウィンクするローリィに、キョーコが呆気に取られているうちに電話を企画営業課にかけ始めた。



「ああ・・俺だが・・・・・蓮を出してくれるか?・・・・・ああ・・・蓮か?」



ローリィのその言葉に、キョーコはドクンっと心臓を高鳴らせた。

昨晩の苦しそうな表情の蓮を思い出したからだ。



(・・・きっと・・・ひどい奴だって思ってる・・・・男のフリして近づいて・・・信用を得て・・・・・・裏切った・・・・)



キョーコの瞳にまた熱いものが込みあがってきた。



(いつ気づかれたんだろう・・・・敦賀さんに『京太』って呼ばれるの・・・本当はすごく嬉しかったのに・・・・でも・・・・こんなことになるなら、一度でいいから『キョーコ』って呼ばれてみたかった・・・・)



蓮に拒否されたらここにはいられない・・企画営業課の仕事も楽しくなってきて、仲間たちも同じ会社内にいる奏江たちにも会えなくなることを思い涙が溢れてきた。

赤くなるのも構わずに、ジャケットでゴシゴシと乱暴に目元を拭うと会話を終えたローリィが戻ってきた。



「今から蓮が来る」



「!!」



「俺からもちゃんと説明しよう・・・・その上で君をここに残れるようにする」



「・・・・はい・・・でもっ!もし・・・・・・もし、敦賀さんに二度と顔も見たくないと言われたら・・・その時は、元の清掃会社に戻らせてください」



「・・・・・・・・善処しよう」



ローリィの返事に、キョーコは涙の痕も痛々しい顔で笑って見せた。




************



「・・・蓮・・・社長、なんだって?」



「・・・・・京太のことで話があるって・・・」



内線でかかってきた電話を終えると、蓮は険しい顔で立ち上がった。



「昨晩のことか?・・・でも・・・いくら蓮が社長の甥っ子でも、一社員の・・・しかも新入社員の京太が社長直々に話に行くかな?」



「・・・それぐらい・・・京太にはショックな出来事だったんだな・・・・直属の上司に裏切られたって・・・・」



暗い表情で自分を嘲笑う蓮に、社は心配そうに見上げた。



「もし、俺が飛ばされたら・・・そっとしておいてくれ・・・」



そう言って社長室に向かった蓮の背中を、社はいつまでも心配そうに見送った。


蓮は所長室直通のエレベーターに乗り込み、深く息を吐いた。



『最上 京太・・・のことなんだが・・わかっているな?』



ローリィの言葉に、蓮は息を呑んだのが電話の最初の内容だった。



『彼について・・・お前の知っていることを聞きたい・・・・今すぐ来れるか?』



蓮は一拍おいて頷いた。



『・・はい・・・伺います』



ぐっと蓮は両手で拳を作って、社長階に着いた旨を知らせるエレベーターの音を聞いた。




************



「失礼します」



ドアを軽くノックした音の後、蓮の声がドアの向こうから聞こえキョーコは肩を震わせた。

そんなキョーコの肩をポンポンと叩いたローリィが返事をすると、ドアがゆっくりと開き蓮が入ってきた。

思いつめた表情で蓮はローリィに頭を下げた。



「おはようございます」



「おう、朝の挨拶をしている顔には見えんが・・・まあ、入れ」



「はい・・・」



促され中に進むと、先にソファーに座っている栗色のサラサラとした髪が見え蓮は心臓を跳ねさせた。

後ろ姿だけでも視線を捉えて離さない人物・・・。


(居るのは・・わかっていたじゃないか・・・・)



それでも落ち着きなく早まる心臓に、蓮は何度も深呼吸を繰り返し少しずつ京太の元に近づいた。

すると、京太がゆっくと立ち上がった。

その後ろ姿はいつものスーツ姿なのだが、少し違和感を感じた。


それでも蓮は、会いたくて・・会って謝りたかった人物を目の前にして心が急いていた。



「お・・おはようっ京太・・・・・あの・・・昨夜は・・・・」



上手く言えないのをもどかしく感じながら、気合を入れて蓮は頭を下げた。



「ごめん!!」



「ごめんなさい!!」



「「!?」」



自分だけでなく、相手も謝ったことにお互い驚き顔を上げた。

京太はいつの間にか振り返っていて、蓮に深々と頭を下げていたらしい。

驚いて目を見開いている京太が、じっと蓮を見つめていた。



(・・・・・あ・・・れ?・・・)



蓮は、じっと京太の顔を見つめた。


いつもの京太と少し雰囲気が違ったからだ。

沢山泣いたのであろう目元の赤みが痛々しいが、それだけじゃない。

雰囲気が違うのだ。



(あ…髪型?・・・いや・・なんか・・いつもの京太よりも丸く感じる・・・体系とかじゃなくて雰囲気が・・・・これだと・・まるで・・・いや・・まんま女の子・・・・)



目をパチパチとさせ、自分を見つめてくる蓮から離れようとしながらも必死に両手を前に握り真っ直ぐ立っている京太を上から下まで見つめた。


そんな蓮の視線を断ち切ったのはローリィだった。

「蓮・・・いつ、『最上 京太』が女の子だと気が付いた?」



「・・・は?・・・・女?・・・・」



思わず間の抜けた返事をした蓮に、質問をしたローリィもざっくりと斬られる覚悟をしていたキョーコも目を点にした。



「は?!えっ!?だ、だって敦賀主任、気付いてたからあんなことして私を自分から諦めさせようとしたんじゃ?!」



「ええ!?なにが!?君が男で、俺も男で・・・でも俺は・・京太への想いが抑えきれなくて思わずっ・・・・って・・本当に女の子なの!?」



噛み合わない会話を頭の中で整理しつつも、まだ混乱の中蓮は一番知りたい真実を聞いていた。

すると、京太は哀しげに眼を伏せて小さく頷いた。



「・・・・・あ・・・・・・・・・・はい・・・・すみません・・・・・私・・ずっとだまし・・っ」



「よかった!!」



キョーコは俯いて謝りかけたのだが、突然蓮に抱きしめられて言葉を失った。



「俺、本当に悩んだんだ・・・今まで女の子たちを特別に思えなかったのは、男が好きだからなのか?!って・・・・・でも、京太以外に男にトキメクことなんてなかったし・・・・いや・・・今まで出会った誰ともこんなに心を持って行かれることなんてなかった・・・」



「・・・敦賀・・主任・・・・・でも・・・私・・騙してたんですよ!?ずっと・・・・」



キョーコの言葉に、ようやく蓮はそのことに気が付いた。



「そうだ!・・・なんで・・・そんなことになったの?」



「それは俺から説明しよう!」



今まで出番がなく、しょんぼりしていたローリィがイキイキとし始めたのを見て蓮は察しがついた。



「もしかして、叔父のせい?」



「え!?あ・・・のっ・・・社長さんに、ここのビル清掃で入った時に社員になって欲しいと言われて・・・昨夜会った友人がここの秘書課にいるからそこに置いてあげると約束してもらって・・その・・・敦賀さんに告白した後、新人社員が退職しないようにするお仕事を・・・・するために・・・」



「ああっ!最上君!!全部言っちゃ俺の出番が~!!」



がっくりと項垂れるローリィを見やり、蓮は盛大にため息をついた。



「・・・・叔父・・・いや、社長・・・・今回の件は、俺のためを思ってしてくれたんですよね?」



蓮の言葉にローリィは、鼻を鳴らした。



「フンッ・・・いつまでも女性を扱いきれないお前に振り回される新入社員を、みすみす辞めさせる訳にはいかないからな・・・別にお前のためだけじゃない」



「それでも・・・彼女に会えた・・・・それは感謝してもしきれないです」



ずっと腕の中に囲ったままの京太に、蓮はすっかり目尻を下げて甘々な笑みを落とした。

その笑顔に、京太が小さく『ぎゃっ』と悲鳴を上げても蓮は離す気などなかった。



「京太・・・・・じゃなくて・・・君の本当の名前は?」



「あ・・・・・最上 キョーコです」



「なるほど・・・それで『京太』か・・・」



「あの・・・そろそろ離し・・・」



「それは無理」



「は!?」



「だって、本当に悩んで諦めようとしても諦めきれなくて、男同士でも構わないって腹をくくったほどの相手だからね?障害が無くなって本当に嬉しいんだ」



ホクホクとした笑顔を見せる蓮に、キョーコは恐る恐る訪ねた。



「あの・・・・つかぬ事を伺いますが・・・本当に男だったら・・どうしたんですか?」



「・・・・・・・・・・口説き落として、海外で挙式?」



「○☆*$%&!?」



どっちにしても諦める気のなかった事に絶句していると、蓮は満面の笑顔のままキョーコの両手を取って片膝をついた。



「俺を救い出してくれた勇敢なお姫様・・・キョーコさん、君が好きです・・・俺と付き合ってください」



まるでプロポーズをするような仕草で告白をする蓮は、あまりにも様になっていたためキョーコは思わず頷いてしまっていた。



「お~~い・・お二人さん・・・ここ、どこだか忘れてない?」



ふてくされたローリィにそう声をかけられ、しばらく自分たちの世界に浸っていた二人は帰ってきた。



「「すみません・・・」」



謝る二人に、ローリィは葉巻を燻らせながら尋ねた。



「・・で?」



「は?」



「どうする?今後、最上君を『京太』として企画営業課に在籍させるか『キョーコ』として秘書課に在籍させるか」



ローリィの言葉に、二人は顔を見合わせた。



「え・・っと・・・京太・・・・じゃなかった・・キョーコ・・・さんはどうしたい?」



「私は・・・・」



キョーコは、じっと蓮を見上げた。




****************




「よかったな?蓮・・・京太、気にしてなくて・・・・蓮?おーい、蓮く~~ん?」



社長室から戻ってきたその後・・・・


仕事をテキパキと終わらせる企画営業課アイドル、最上 京太に群がる男どもに青筋を立てて睨んでいた蓮に社が話しかけても蓮は聞く耳持たずにいつものように村雨に構われている京太をその輪の中から引っ張り出した。



「行くぞ京太」



「え!?行くってどこへ・・・」



「資料倉庫、資料集め!」



「え?!でも・・・資料は・・・・」



先ほど持ってきたばかりの資料は蓮のディスクに置いてあるのを指差したのだが、それも虚しく京太は小脇に抱えられて資料倉庫に連れて行かれるのだった。

その直後、終業のチャイムが鳴った。



「あ~あ・・・まった主任に京太持っていかれちゃいましたね~今夜も二人残業なんですかね?」



「さあ?でも、京太のおかげで俺たちは残業もしないで業績も伸びてるんだ彼に頑張ってもらうしかないだろ?」



「主任への生贄ですね?」



口々に好き勝手言われているのを、社は笑った。



「そうじゃないだろうな・・・・・京太は、アイツを救うために来てくれた天使ってところかな~♪」



「「「は??」」」



社の言葉に、企画営業課の者たちが首を傾げているころ資料倉庫では・・・



「敦賀主任っ・・・そこはダメです!!」



「いいだろ・・・減るもんじゃないし」



「減ってます!・・・ここの予算から引っ張ってきたらこっちが採算合いません!」



「う~~ん・・・じゃあ、これを削れば?」



「あ・・・ああっ!いけます!やった~!!さすが主任!!」



以前キョーコが突っ伏して寝ていた小さな机に持ち込んだ仕事を広げて、あーでもないこーでもないとさわいでいる内にガチャンと資料倉庫のカギが施錠された音が響いた。


時間は午後11時。

以前閉じ込められた後、この時間にオートロックが作動することを後から聞いていた。


「・・・鍵・・・閉まっちゃいましたね?」



「・・・閉まっちゃったね?」



二人は顔を見合わせて笑いあうと、京太風にセットした髪を蓮がくちゃくちゃとさせてキョーコに戻した。



「じゃあ・・・これからの時間は、京太じゃなくて・・・キョーコでよろしく」



「はい!・・・しゅに・・・蓮さん」



二人はゆっくりと顔を近づけていった。



今夜も語り合う二人は、眠れないのだった。





end



























こんばんは~!!

すっかり朝晩が冷えるようになりましたね。


台風などの被害など、皆様大丈夫だったでしょうか?

三連休もありますが、また大きな台風が来ていますね・・・どうか事前の準備も万全で、被害がないことを祈っています。



さて・・今週、何やら頑張っています。

理由は今月本当に忙しくて今後どのように目途が立つかわからないため、少しでも皆様に還元できるうちに返しておけ!!ということで・・

そして、最近申請メッセージの中に『霧の孤城』を気に入られている方が多いな・・・って・・・あれ・・・初期のころでそんなメッセージを戴くと討死できそうなほど赤面地獄なのですが、嬉しすぎて・・うっかりそんなテイストを久しぶりに書きたいなって思いまして・・・。


楽しんでいただけているでしょうか?

予想以上に反響があって驚いていますが、『アラビアン・ナイトは眠れない』は今夜で一応最終話です。


金曜はマリッジ~ですが、余裕があればアラビアン~の時間外の話しを土日に書かせていただこうかな?と思っています。

今週だけ毎日更新という形ですが、来週からはまた通常に戻ると思います・・。


落ち着きなくてすみません。


コメントも申請承認も遅くなっておりますが、ご了承いただけると助かります。


今月の山盛り予定が終われば、本当に落ち着けると思いますのでどうかこれからもユンまんまにお付きあいいただけると嬉しいです。


それでは、『アラビアン・ナイトは眠れない    3』最終話お楽しみくださいませ~




ユンまんまでした。