なんてことない非日常 -19ページ目

なんてことない非日常

スキビ非公認二次創作サイトです。
駄文ばかりの辺境館ですが、広いお心で読んでいただける方歓迎しております。

§ルートX    67





緊迫した空気が二人の間に渦巻いていた。



「・・・離してよ」



キッと睨み付けてるキョーコを、ショータローは両手を掴んで壁に押し付け見つめ返した。



「離して!」



「・・・・襲う宣言してるのに、はいそうですかって手を離す奴はいないだろ?」



「私のことそんな風に見れないって言ったのはアンタでしょ!?」



「・・・・・そうだな・・・以前はそうだった・・・」



ショータローの返答にキョーコの頭に血が上った。



「もしかして・・惜しくなった?はっ!笑わせないで!!アンタのせいで私は・・」



「惜しくなったんじゃない・・・気が付いちまっただけだ・・・お前が側にいるのが当たり前すぎて・・・自分の気持ちに素直に慣れなかっただけだ」



真剣な瞳には、いつもの意地悪な色もからかい半分の様子もないことでキョーコは焦った。


離れなければ。


頭の中にそんな言葉が明確に浮かんだ。

けれど、それを行動を移す前にキョーコの唇はショータローに塞がれていた。



「!!」



しっかりと重なった唇から伝わる熱も、感触も蓮とは違うのだが柔らかさだけはとてもよく似ていた。


そんなことに気を取られている内に、口づけは深くなってきた。



「っ!!」



「っつ!!」



ガリッと歯を立て、ショータローの唇を噛んだ瞬間キョーコの口の中に鉄の味が広がった。



「っち・・・・ふざけんな」



「ふざけてるのはそっちでしょう!!?離して!!もう私はアンタなんかに惑わされたりしないんだから!!」



「!・・・・・それは・・・・俺の言動を気にしてるって・・・言ってるようなもんだぞ?」



「・・・・はあ!!?ち、違う!!」



「じゃあ、何だっていうんだ?」



「アンタが余計なことをするとコーンが怖いから・・・だから・・・」



「なんだ?・・・もしかして!乱暴されてるのか!?」



「ちっ・・・違うわよ!・・・・そうじゃ・・・なくて・・・・というか、この状況でアンタがコーンを責められると思ってるの!?」



きっと赤く染まってしまっているだろうキョーコの手首を掴んでいるショータローにそう責めると、ショータローは苦虫を噛み潰した表情をした。



「・・・・逃げるだろ・・・離したら・・・・」



「逃げるわよ!」



落ち込んだショータローに気付かないで、すぐに言い返したキョーコに眉間に皺を寄せると顔を背けた。



「だから離せない」



いつもの調子とは違うショータローの声色に、キョーコはそれ以上反発することが出来ずに押し黙った。

しばらく沈黙が通り過ぎ、気まずさが大きくなってくるとようやくショータローはキョーコから手を離した。



「・・・・・これから・・・俺を見てろ」



「・・・は?」



「お前が必ず超えたくなるほど、この世界の頂点に立ってやるから・・・アイツらがヘタに手出しなんかできないほど・・・アイツが・・・ひれ伏してお前を俺に返すほど・・」



「はあ!!?そんなことになるわけ・・」



キョーコは言い返そうと思った。

いつもの戯言だと。

けれどショータローの瞳の強さに何も言えなかった。

それほどまでに、確信に近い心情を持って宣言していることが分かったからだ。



「・・・どんな経緯を辿ろうと・・・・お前は俺のもんだ・・・」



呆然としているキョーコを置き去りに、ショータローはそう言い放って立ち去った。



「・・・・・・何・・言ってんの?・・私はあんたのものじゃない・・・私は・・・私は・・・・・・」



しばらく一人階段下で立ち尽くしていたが、ブツブツ言いながら部屋に戻ろうとホテル内を歩き始めた。



「私がなんだ?キョーコ」



「!?」



トロトロと歩いている背後から声をかけられて、キョーコは飛び上がった。



「レ、レイノ!?・・・よくノコノコと顔を出せたものね!?」



「同じホテルに宿泊してるんだ、うろつけば会うだろう」



「ここで会ったが100年目よ!?どうせショータローが牽制したぐらいじゃいなくならないと思ったわ!」



「ほう?・・・・案外頭が回るんだな?」



「案外って余計よ!!」



キョーコは感情のまま叫ぶと、レイノは深く息を吐いた。



「で?・・・いいのか?ギャラリーの多い中始めても?」



ホテルの廊下で言い合っている二人を、ざわざわと人が遠巻きに見ていた。

中にはレイノのファンもいるらしく、カメラで姿を収めようとしている女性の姿もあった。



「!!?・・・ちょ・・・ちょっと・・・こちらに来てください・・」



キョーコは急に外面を張り付けると、レイノと共に人気のない中庭に向かった。



(・・・・先日俺に襲われたばかりだというのに・・彼女には記憶というモノが欠如しているのか?それとも、単にバカなのか?)



レイノが心の中でそう言うと、気配を察したのかキョーコがギロリと睨んできた。



「さっ・・ここなら人目も気にせずにアンタを魔界に送り返すことが出来るわ!!」



(・・・・・・・・・・・・やっぱりバカなのか・・・)



レイノの視線がやけに憐れんでいるのに、キョーコはイラつきを覚えながらも対峙する覚悟を決めて立ちはだかった。



「・・・・俺は魔界の住人ではないんだが?」



「嘘よ!息も切らさないで人のこと林まで追い回したくせに!!」



「お前は単純なんだ・・・行動パターンが手に取るようにわかるからな・・・林の中には先回りしただけだ」



「・・・・・・・・・・誰が単純よ!」



怒りのままキョーコは叫んだ。



「そういうところだ・・・感情に流されると周りも見えなくなって、襲われたくせに男とホイホイ二人きりになるところなんかは俺からしてみれば野ウサギ捕まえるより簡単だ」



「なっ!?」



するとレイノは、あっという間にキョーコを組み敷いた。



「!?ぎゃああ~!!?こんな爽やかな朝日の中なんてことすんのよ!!」



「爽やか?この日差しのせいで、頭痛がたまらないがお前のその表情を見ながら俺に堕ちる姿を拝めるなら悪くない程度だな」



「はあ?!誰が堕ちるのよ!!離して~!!今日は朝から最悪~!!!」



「朝はいつでも最悪だ・・・暴れるな・・・お前は何か誤解している・・まずはそれを解いてから・・」



「何が誤解よ!!この状況もこの間のことも責められて当然のことしてるのよ!!?」



レイノに組み敷かれながらバタバタと足を振り上げるキョーコだったが、先ほどショータローに豪語した通りにはいかなかった。



(コイツっ・・意外に力強い!?)



押さえつけられた手は跳ね返そうとしても、また押し戻されてしまい逃げ出すことは叶わなかった。



「・・・・お前・・飼ってるやつ以外のも付けておくのが趣味なのか?」



「は?なんの話しよ・・・」



キョーコが首を捻ると、レイノは片手を離しキョーコの首筋に細い指を這わせ長く尖らせた爪で一つの箇所を突いた。



「これ・・・不破に付けられたのか?」



トン・・と触られたところは、先ほどショータローが口づけてきた首筋でキョーコはカッと顔を朱に染めた。



「アンタに関係ないでしょう!?とにかく離して!!」



片手になってくれたことで、キョーコは身を捩り逃げ出そうとしたが寸前のところで圧し掛かられてしまい身動きが取れなくなった。



「・・・・はあ・・・とにかく暴れるな・・話が出来な・・っ!?」



「!?」



レイノの声が急に遠ざかり、キョーコの体にかかっていた重みが急激に軽くなり驚いていると大きな影がレイノの肩を掴み放り投げていた。



「・・・コーン!?」



「・・・・・なに・・してんだ!」



蓮は肩で息をしながら、放り投げたレイノを睨み付けた。



「・・・・ここで君の猛獣君の登場か・・・」



強かに打った腰を擦りながらレイノが立ち上がっている間に、蓮は警戒しながらもキョーコを抱き起し自分の後ろに隠した。



「アイツか?・・・君を襲ったのは・・・」



「う・・・うん・・・・」



固く低い声の蓮が、怒りを纏わせているのにキョーコは震えが来るほどの恐怖を感じたが小さく頷いた。



「・・・・どうして君は・・・」



小さく呟いた蓮の言葉に、キョーコはドキリと心を凍らせた。

けれど蓮はそんなキョーコに振り返ることなく、レイノを睨み付けたままだった。



「彼女になんの用だ?・・・事と次第によっては、今すぐお前をねじ伏せる!」



燃えるような瞳の強さに、レイノは冷や汗を一筋頬に伝わらせた。



「・・・用はあるが・・・アンタとまともにやりあって俺が無事とは到底思えない・・・」



強がっているのか、引きつった笑みを見せたレイノは蓮の後ろに庇われているキョーコに視線を投げた。



「キョーコ!」



「!?」



蓮の前で名前を呼ばれ、キョーコはギョッとしながらもレイノを睨み付けた。



「お前のことを諦めるつもりはないからな?それまでせいぜいその獣に、人を襲わないように躾けておけよ?」



「なっ!?コーンはそんなことしないわよ!!」



キョーコの反発の声に、レイノはすっと妖しく光る視線を蓮に投げた。



「ックク・・・・それは・・どうかな?・・・・血に染まったその手は、もしかしたら次はお前を捉えるかもしれないぞ?」



レイノのその言葉に、蓮の体が一気に硬直した。



「何変なこと言ってんの!?早く魔界にお帰り!!ハウスっ!!」



「俺は犬じゃないし、俺の家は魔界じゃない・・・とにかく、そいつの毒牙にかかる前に俺の所に来るのが賢明だ・・考えておけよ?」



「うるさい!!早くいなくなれ~!!」



キョーコの叫びなど、そよ風のように聞き流しレイノは立ち去った。


肩で息するキョーコと、立ち尽くす蓮を残して。




68へ




























§アラビアン・ナイトは眠れない   時間外手当





 午後11時には、誰もいない設定。

空調も止まって、電力も最小限になる。

そして・・・・・



ガチャン・・・


人を出入りさせたくない所には、オートロックがかかる。


のだが・・・・



「時間になっちゃいましたよ?」



「ああ・・もうそんな時間?・・・守衛室に内線しないと」



山のような書類から解放された目は、気怠さが凄まじく蓮は目頭を押さえた。



「最近、警備の人から目を付けられちゃってるんですけど?」



「・・・・俺もこの間怒られたばっかなんだよな~・・・・」



「・・・・・・・・・・・」



「・・・・・・・・・・・」



元々静かな資料倉庫に、沈黙がおちた。

蓮はその静寂を、小さな声で打ち破った。



「・・・・あ~・・・このまま・・・朝までいる?」



「・・へ!!?」



予想外の提案をされて、京太から一気にキョーコに戻った声が室内に響いた。



「朝までいれば、ロックは勝手に開くし・・怒られることもない・・かな?」



「でっ・・でもっ・・・」



蓮の提案は、正体を知られる前だったら二つ返事で了承していたかもしれない。

というよりも、そもそも最上 京太が本当に男だったら蓮がそんな提案などしないことにキョーコは気付かないまま悩み始めた。



「・・・・・・・・どう・・しよっか?」



俯いて悩んでいると、耳元でそう囁かれキョーコは驚きのあまり一気に壁に飛び退いた。



(なっなに!!?この低音ボイス!!?)



低く艶のある声を突然聞かされたキョーコは、心臓がありえないほどバッコンバッコンと動悸を打つのを抑えるように胸に強く手を押し付けた。


蓮を噂から解くため、社長命令で他社の清掃業者だったキョーコが男装をして京太として働いている内にお互いが惹かれあいキョーコの正体がばれた途端付き合い始めて早2か月。

ところが、二人の関係は男女間のそれではなく会社の同僚としてのみ進展するばかりだった。


居心地がよくなってしまった資料倉庫にて仕事をするも、キスをしたのが最大で一度きり。

それ以外は、薄暗い密閉空間でひたすらコンペ資料の制作に明け暮れていた。


だからキョーコは知らなかった。

ただ単に蓮が、顔が良いから『告白は100%拒否するが、一晩の相手だけなら可能』と噂されたわけではないことを。



「・・・どうしたの?急にそんなに端っこに行って・・・」



にこっ・・・と微笑んで見せるのに、なぜかそれは自身の危機を案じているような雰囲気を醸し出されてキョーコは口の中で小さな悲鳴を叫び続けた。


コツン・コツ・・・質がよさそうで、蓮によく似合った革靴が音を立ててキョーコに近づいていく。

今までそんな雰囲気にならなかったのは、恋愛初心者の自分に合わせてくれていたからだと初めて気付けた。

けれどそんな蓮にどう対応していいのかわからず、キョーコは壁伝いで扉の所まで逃げてきた。



「どうして逃げるの?」



トン・・・と扉に手をついた蓮は、その中にキョーコを囲った。



「に・・逃げて・・・なんか・・・」



「本当に?」



囲われて逃げられなくなったキョーコに、蓮は艶めいた雰囲気のまま顔を近づけた。

チュッ・・・と小さなリップ音が額に落ちると、頬に瞼に唇にと順番に蓮からのキスをキョーコはいっぱいいっぱいのまま受け止めた。



「ぷっは・・・」



少し長めのキスを、ガチガチになって受け止めて一息ついたキョーコの耳たぶに蓮がハムッと唇で食んできた。



「ぎゃあ!?ちょ・・主任!?」



さすがに許容量を超えたのかキョーコは、首筋にまで唇を下ろしてきた蓮に抱きしめられているのにもかかわらず鍵がかかっているはずの扉のレバーに手をかけようともがいた。



「・・・主任じゃないよ・・・蓮・・だろ?」



「れっ・・・・んんっ!・・・やっ・・」



熱い吐息を混じらせて、キョーコの首筋にチリリとした痛みを残しつつ唇を這わせていくとキョーコの可愛い悲鳴が蓮の耳をくすぐった。

思わず口元が緩んだ瞬間だった。


手探りで扉のレバーを探し当てるとキョーコは、勢いよくそれを下に押した。

いつもなら、それは強制的に止まって扉は開かないはずなのだが・・・。



ガッチャン・・・



「「・・・え?」」



音と共に、外に向かって開いた扉ごと二人は廊下にそのまま倒れ込んだ。



ドサ・・・


まるで蓮が京太を押し倒したかのように、二人は会社の廊下で倒れ込み呆然とした。

なぜならあり得ないからだ。

会社の方針で、午後11時以降にはセキュリティで資料倉庫にはオートロックがかかる。

そのことを実体験していた二人は、密会とういうほど色っぽいことはないまでも残業時間にはここでプランを練り詰めていくのが習慣になっていた。


だから開かない扉が開いたことに呆然とした。

そんな二人に答えをくれたのは、この状態になるとお馴染みになってしまった人物からだった。



「おおっ?なんだ~もうわかっちゃたのか?」



「「椹さん!!?」」



すっかり顔なじみなってしまった、守衛の椹が廊下に倒れ込んでいる二人を見回り途中に発見したのか駆け寄ってきてくれた。



「君たち、いつも申請出してここで籠って仕事するだろ?こっちも呼び出されるの大変だって何回言っても聞かないから、中からだったらオートロック解除できるように変えてもらったんだ・・・昨日の今日で使われるとは思わなかったよ・・・」



「「・・・・・・・・・・・・」」



気まずいまま二人はのそのそと立ち上がり、椹に礼を言うとまとめた書類を課長の机に出して帰り支度を始めた。



「・・・・・・・・え・・・っと・・・・キョ・・・京太・・・さっきのは・・」



「・・・・お・・お疲れ様でした!」



京太は少し大きめのコートを羽織って、ブリーフバックを斜め掛けすると急いで帰ろうとした。



「待って!不安だったんだ!」



京太の手を掴んで、蓮は思わずそう叫んでいた。



「君のこと知っても・・ずっと上司としてしか見られていないような気がして・・・二人っきりになっても意識されてないし・・・会社以外で一緒に居られたことなかったし・・・・もしかして俺だけが君に想いを押し付けているんじゃないんだろうかって・・・・だから・・・意識して欲しかったんだ・・俺が一人の男だって・・・・」



後ろ手で掴まれたまま、蓮の言葉を聞いていた京太がそろっと振り返った。

その表情を見て、蓮は目を見開いた。


真っ赤に染まった頬に、潤んだ瞳、眉間に寄った皺でさえ可愛らしくどこからどう見ても男の子には見えなくなっていた。



「・・・ずるい・・・です・・・・私の心が追い付くまで・・・待っててくれているのか・・勝手に思ってた・・・」



「も、もちろん!待つ・・・つもりだったんだけど・・・・その・・・我慢・・・できなかった・・・」



京太の手を離すまいとしつつも、蓮は赤面する顔を片手で隠してそう白状すると開き直ることにした。



「行こう」



「え?!ど、どこに・・・」



「俺のマンション」



「ええ!?」



まだ赤みの残る表情を引き締め、蓮はカバンを手に取ると京太の手をグイグイと引っ張って会社を出はじめた。



「主任!?」



京太の焦り交じりの声に、蓮はピタリと足を止め振り返った。



「・・・蓮・・・言って?」



(ぎゃあああ~?!な、なに!?急に子犬モード!!?さっきの夜の帝王様はどこに!!?)



「・・・キョーコちゃん?」



ぐっと近くに顔を寄せて、真剣な面持ちでそう聞いてくる蓮にキョーコは根負けした。



「・・れ・・・蓮さん・・・」



「俺の家に来てくれますか?」



「・・・・・・・・・・・・・はい・・」



頷いたキョーコに、蓮は一際嬉しそうな笑みを浮かべるとそのまま二人は手を繋いで蓮のマンションに向かっていったのだった。


すっかり二人だけの世界だったため、一つ重要なことを彼らは忘れていた。


キョーコはまだ、『京太』のままだったことを・・・・・



*************




「・・・・・蓮・・・・どうする?」



「・・・・・・・・どうしましょうか?」



翌日、会社前から手を繋いで帰る二人を飲み会終わりの会社の人間に見られていたことが朝から話題になっており。

一緒に出社してきた二人は一気に注目を集めてしまったのだ。


企画営業課の中で、事情を知らない者たちは二人を遠巻きに見つめさらに二人の人となりを知らないものは好機の目で様子を見に来ていた。



「・・・社さん・・・それよりもなんで貴島君が事情知っているんですか?」



「え・・っと・・それは・・俺もなんでだか・・・・」



ハハハ・・・と空笑いする社と、さも当然とばかりに京太の横に立って青ざめている彼女を宥めている貴島をジロリと睨んだ蓮はポンポンと京太の頭を撫でた。



「大丈夫だから」



「・・・蓮さん・・・・あっ・・主任」



そんな二人のやり取りに、一部の女子社員からは黄色い悲鳴が上がり遠巻きだった者たちはさらに距離を置き始めた。



「・・・課だけでなく、社内までこんな空気にしてしまって・・・私・・どうしたら・・・・・」



騒ぎが大きくなり、ここで『女性でした』と発言すること自体が危険な気がしてきたとキョーコがそう言うと三人も同意見だった。



「・・・やっぱり・・・アノ人に頼るか?」



「・・・騒ぎがこれ以上大きくなりそうな気がするが・・・・」



蓮と社が思い浮かべた人物を、貴島もキョーコも心当たりがあり四人ともげんなりとしたその時だった。



「最上君!昨日は大丈夫だったかい?」



「!?・・・椹さん?」



守衛の椹が、なぜこんな時間に企画営業課にいるのかキョーコは驚いて目を見開いた。



「ちゃんと扉の話ししておけば良かったな・・・手首・・平気だったかい?」



「・・手・・首?」



椹が何を言っているのかさっぱりわからない様子のキョーコに、椹は笑顔で頷いた。



「昨夜、急に扉が開いたせいで廊下に倒れて手首痛めたんだろ?敦賀君が引っ張って病院に連れて行くって大騒ぎだったじゃないか」



「・・・・へ?・・・・・」



ポカンとしているキョーコの横にいた蓮は、はっとした。



「!・・ご、ご心配おかけしました!!最上が夜間救急を嫌がったので、引きずって行きましたが特に何ともなかったです」



「そうか、それを聞いて安心したよ・・じゃあ、私は夜勤明けだからこれで失礼するよ?」



「お疲れ様です!」



椹が去っていくと、先ほどまで大騒ぎしていた者たちがザワザワと好き勝手言いながら去って行った。

そして課にもいつもの調子が戻っていた。



「まったく・・・主任が京太を構いすぎなんですよ~だから変な噂になっちゃうんですよ?」



「わ・・悪い・・・迷惑かけたな?」



「京太ももっと鍛えろ!そんなナヨナヨしてるからそんな風に見られるんだぞ?」



「わ・・わかった・・・鍛える・・・」



「さっ!仕事しよう!!仕事!!」



渦中を出られた二人を置き去りにして、企画営業課の者たちはいつものように忙しそうに仕事をはじめだすと蓮とキョーコは顔を見合わせた後笑った。



「あ~!!またっ、そうやってるからいいネタにされちゃうんですよ?!京太も早くこっちのリスト制作手伝えよ」



「わかってるって!」



いつものように走り回り始めた京太に、蓮は小さくため息をつくと椹が去っていた方を見つめた。



(しかし・・・・いやにタイミングがいい気がしたけど・・・・まさか・・・ね?)



蓮は自分の考えを頭を振って追い出すと、仕事に取り掛かるのだった。




「悪かったな・・・夜勤明けに妙な仕事を押し付けて」



椹はそう声をかけられて、振り返った。



「社長・・・まあ・・彼らは毎日頑張ってましたからね?」



椹の言葉にローリィは、ワイワイと盛り上がっている企画営業課を見てふっ・・と微笑んだ。



「まあ・・・時間外手当っつーところだな?」



「・・・随分安く上げますね?」



ローリィは笑いながらも、首を振った。



「アイツにはどんな給金よりも、こっちの方がいいだろうよ」



京太の姿をしたキョーコと共に、仕事をする蓮の姿に目を細めるローリィに促され椹も活気ある企画営業課を見つめた。


あの二人が一緒にいる限り、このLME株式会社は安泰だと感じられローリィと共に笑いあうのだった。




*********



「・・・主任・・・なぜか資料倉庫の片隅に簡易更衣室が用意されてるんですが・・・」



皆が帰った社内で、資料倉庫から戻った京太からそう聞かされ蓮は確認に向かった。



「・・・本当だ・・・何のために?」



首を傾げていると、蓮の携帯が鳴っていると京太が携帯を持って資料倉庫にやってきた。



「もしもし?」



『おおう、蓮か?』



「叔父さん?」



『俺からの特別給金だ』



「・・・は?」



『もう、この間みたいな騒ぎは起こしてくれるなよ?』



「え?・・・もしかして・・・・・・」



『その更衣室は最上君のためのものだからな?お前が勝手に使うなよ?』



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ・・・元は誰のせいなんですか・・」



『おまえだろ?そんで、俺はお前たちの愛の使者になったまでだ!』



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



プツっと急に携帯を切った蓮の表情が、暗く遠くを見つめているのに京太は怪訝な顔をした。



「あの・・主任?」



「・・・・・きっと一生言われるから・・キョーコちゃんも覚悟しておいた方がいいよ?」



「は?」



さらに困惑した表情をする京太に、蓮は優しい笑みを返した。



「まずは、一緒に服でも買いに行こうか?」



「何でですか?」



「せっかくのボーナスを有効利用しなきゃいけないからね?」



「有効利用なら貯蓄した方が・・・」



噛み合わない会話をしながら、資料倉庫を出て二人今夜は残業なしで会社を後にするのだった。






end



























§アラビアン・ナイトは眠れない    残業申請





 傍若無人な王様は、一人の娘により心を入れ替え善き王になったのでした・・・・・。


さて、その後は?




*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆




「・・・・・・れ・・・蓮く~ん・・・ちょっと話があるんだけど?」



「?・・なんですか?社さん」



大手企業のLMEで、告白は100%不成功だが一晩だけなら相手をしてくれるともっぱらの噂の男である敦賀 蓮。企画営業課主任。若干27歳。


は、現在同じく企画営業課に3ヶ月ほど前に来た新人社員、最上 京太に淡い恋心を抱いている。

23歳。独身。性別・・男である京太に・・・恋心を・・・・


だからなのか、京太が側にいる時はやたら近くに座るし企画営業課には女性社員が一人もいないせいなのかはわからないが京太に絡んでくる奴(当然男ばかり)がいようものなら全力で阻止する蓮の姿に社は不安を募らせる毎日を送っていたのだ。



「・・・・・お前・・京太とどうなったんだよ?!」



「・・・・・・・・・え?・・・・・」



人気のいない第二会議室に引っ張り込んだ社は、小声でそう問い詰めると蓮から間の抜けた声が返ってきて脱力した。


数日前、うっかり恋心を打ち明ける前に京太に無理やりにキスをしたと落ち込んでいたのを聞いた時は目が飛び出るほど驚いたが茶化すこともできないままだった。

すると、その日の内に京太のことで叔父であるこの会社の社長に呼び出された蓮は行きとは真逆の晴々とした顔つきで戻ってきた。

京太と共に・・・・


そして、大詰めを迎えたプロジェクトの書類作りを二人で毎日残業しながら進めていた。

毎日徐々に二人の距離が近くなっているように感じた社は、何の報告も受けていないことにとうとう痺れを切らしたようだった。



「あ・・・・・・・(しまった・・・・社さんに話すの忘れてた・・・)」



「・・なんだよ・・・『あ・・・』って」



「え・・・と・・・ですね?」



しどろもどろと言葉を濁す蓮は、焦っていた。



(どう話したらいいんだ?!・・・・京太は・・・『男』じゃないって・・・)



実は最上 京太なる人物は存在せず、蓮を『噂』のループから救い出す存在として雇われた最上 キョーコが扮しているだけだった。

初めは完全に男だと思い込んで、自分の恋心に頭を悩ませた蓮だったが真実を知ると心置きなくキョーコにプロポーズまがいの告白をして見事恋人の座に納まることが出来た。


そのことを、社にまったく話さないまま既に数日過ぎてしまっていたのだ。



「社さん・・・・実は・・・」



蓮が口を開こうとした瞬間、話題の中心人物がドアを叩いて顔を覗かせてきた。



「主任!社さん!コンペの結果が出たそうです!!」



早めに提出していたコンペのことをすっかり忘れていた蓮と社は、顔を見合わせて急いで課に戻った。

すると待ち構えていた課の者たちに拍手で迎えられた。


「おお!蓮、倖人・・コンペお前たちのが通ったぞ!!これからもよろしく頼むぞ!」



課長の松島に肩を叩かれると、二人は満足気に笑って頷いた。



「「ありがとうございます!!」」



一気に課はお祝いムードで、京太だけでなく村雨や貴島も蓮や社の肩を叩いたりして祝ってくれた。


そんな中蓮は我がことのように喜ぶ京太を、目を細めて優しい笑みで見つめているのを社は見逃さなかった。




*************




「・・・・蓮!今日は残業しないのか?」



帰り支度を始めている蓮に、社が声をかけると苦笑が返ってきた。



「今日ぐらいはゆっくり休んでくださいって・・・」



「京太が?」



「・・・・そう、京太が・・・」



少し寂しそうに笑う蓮に、社が肩を叩いた。



「じゃあ、二人で祝杯でも上げに行くか?」



「え?・・・」



社の誘いに、蓮はしばし固まった後しばらく考え込むと頷いた。



「はい、じゃあ・・・行きたい店があるので・・そこでもいいですか?」



「珍しいなお前が行きたい店なんて」



いつもは誰かに連れて行かれることの多い蓮だったため、社は少し浮かれながら蓮の後をついて行くことにした。



「ここです」



蓮が連れてきたそこは、赴きある居酒屋で蓮のイメージからするとおおよそ行きつけにしなさそうな店だった。

そこに慣れたように入っていくのを、社は慌てて続いた。


『だるまや』の名前らしく、店内には大小様々なだるまが飾られているのをキョロキョロ見ながら蓮の座った席の向かいに腰を下ろした。



「いい店だな~いつ知ったんだ?」



「・・・・最近です・・・あ、すみません!」



「はい!」



蓮が声をかけると、優しそうな女将さんが来てくれた。



「あら、敦賀さん・・・今日はキョーコちゃんとじゃないのね?」



「ええ・・・後できますよ?」



「?・・・キョーコちゃん?」



簡単なおつまみと、ビールを頼んで待っている間に社は疑問を口にした。



「なあ・・キョーコちゃんって誰だ?・・っていうか、お前・・京太とはどう・・・」



そこまで聞きかけた時、蓮がぱっと表情を輝かせ手を上げた。



「キョーコちゃん!こっち」



「!?」



背後から来た人物を見るべく振り返った社は、目を見開いた。



「・・・・京太!?」



そう言ってから社は、しまったと思った。

良く似ているのだが、雰囲気が全く違っていたからだ。

それもそのはず、良く似合うワンピースを着ていたのだ。


「お・・・女の・・子?・・」



社の困惑した表情に、キョーコなる人物が困ったように笑みを見せていると蓮がおもむろに立って彼女の肩に手を回した。



「社さん、紹介します・・・・最上 キョーコ・・さんです」



「・・・最上・・・・」



「話せば長くなりますが・・・・彼女が、最上 京太の本当の姿です」



「・・・・へ?・・・ほ・・んと?」



目をぱちくりしていると、注文したものが運ばれてきた。



「三人さん、立ってないで座ったらどうだい?」



女将さんに笑われて、促されるとようやく三人は座りここ数日に起きたことを話し込み夜遅くまで『だるまや』に居座り大将に煙たがられるのだった。



**************



「京太~!!」



「村雨さん!?」



「お前、なんでこんな企画作るんだよ~!!」



「わっわわわ!?」



ぐしゃぐしゃと髪をかき乱されて、慌てる京太に村雨はさらに片手から両手に増やしてワシャワシャとしているのを社は内心ハラハラしながら見守った。



「・・・・村雨・・・そこらへんにしておいた方が・・・・・」



しかし時すでに遅し・・・・



「村雨・・・自分の企画が通らないからって京太に当たるな」



ガシイッ!と片手で村雨の頭を掴んだ蓮は、張り付けられた笑顔とは裏腹にギリギリと力を込めはじめた。



「主任!いたっいたたた!!」



「じゃあ、今度はもっと誤字脱字に気を付けたプレゼン資料を期待するぞ?」



「了解です~!!」



降参した村雨からやっと解放された京太は、苦笑いをしながら社の所にやってきた。



「主任のアレ、結構痛いんですよね~」



村雨、憐れ・・・と呟いている京太を見ながら社は内心で呟いた。



「・・・・・絶対、村雨にされているのがイタイと思う・・・・」



「へ?」



「いやっ・・なんでもない!・・・企画会議通ったって?おめでとう!」



誤魔化しながらも、そう京太に伝えると笑顔が返ってきた。



「ありがとうございます!でも・・コンペ参加権を得ただけですし・・・主任にもここからが勝負だって言われたんで・・・頑張ります!」



「お・・おう・・・頑張れ!」



「はい!」



笑顔で資料整理を始めた京太を社は見つめた。



「なにか?」



「あ・・いやっ・・・・頑張るね?・・・平気?」



そう聞いてから社は思わず口を手で覆った。



「あ・・・む、無理しないようにね?わからないことがあったら蓮でも俺でも質問して?」



「・・・・はい!」



京太が女の子だと知って、思わず気を使ってしまった社はあの日『だるまや』で特別扱いしないで欲しいとキョーコにお願いされたばかりだったのを思い出した。



「京太!こっちに来て」



笑って誤魔化していると蓮が京太を呼び、そっちに走っていく京太を見送り社は大きく息を吐いた。



(はああ・・・苦手だな・・・こういうの)


蓮は今迄通りに京太を男として扱っている。

雑用も力仕事も村雨と同じように扱っている。



(彼女は『男』・・・『男』・・・・・・・)



「京太~!たっだいま~!!」



「うわあ!?貴島さん?!」



課に帰ってきた途端、最近貴島は京太に抱き着くようになっていた。

それにギョッとしてしまう自分は、やっぱり嘘がつけないと感じた。



「京太のコーヒーがやっぱうまいんだよ~淹れて?」



「わ、わかりましたから・・離れてください」



「照れんな照れんな、男同士だろ?」



肩に手を回したまま、眉間に皺を寄せる京太の頬を貴島がツンツンと指すのを社はギョッとした目で見た。



「お・・おい!貴島・・京太が嫌がってるだろ?」



「・・・・倖人君まで注意しに来るのか・・・」



「・・・は?」



社に注意されると、貴島はスルリと京太から手を離した。

その隙にコーヒーを淹れに行った京太の後ろ姿を見ていた貴島は、社にこっそり耳打ちした。



「なあ・・・知ってるか?京太のこと・・・」



その前ふりに、社は心臓が飛び出しそうになった。



「なっな・な・なにっ!?」



(俺って・・・本当に嘘つけね~!!)



ガクガクしている社に気付いていない様子の貴島は、カチャカチャと人数分のコーヒーを用意している京太を見つめた。



「京太と蓮君が絡むと会社の女の子たちが喜ぶんだよね~」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」



貴島氏が言うには、先日冗談で京太を構い倒していると鬼のような形相の蓮に京太と引きはがされ説教されたという。

その様子を見ていた女子社員達から、京太と蓮が噂になり蓮のかつての噂であった『告白は100%拒否だが、一晩の相手なら可能』の原因は『敦賀 蓮は最上 京太とずっと付き合っていたから』というものに変わっていたらしい。



「・・・どうして・・『ずっと』なんだ?」



「そこは女子たちの想像力じゃないのか?あんなイケメンがただ『同性にしか興味がない』という現実よりも、『運命の相手がたまたま男だったから』という方が受け入れられやすいんだろう?」



「・・・そんなもの・・なのか?」



「そうそう。それで俺は女の子たちに囲まれて、話を聞かれる存在になれてるっていう状態なわけ」



つまり、貴島は話のネタのために京太にちょっかいをかけていたことが解り社は脱力した。



「まあ、今日の行動で倖人君も彼女たちの話題に入っちゃうかもね~♪」



(・・それはちょっと・・・ごめんだが・・・・)



なんにせよ、京太の正体がばれた訳じゃない事に一安心した。



(どっちにしろ蓮は、キョーコちゃんと付き合っているわけだし・・・まあ・・・いいのか?)



そう社が納得したころ、京太が貴島の分だけでなく課の全員分のコーヒーを淹れてきてくれた。



「はい!貴島さんお疲れ様です」



「ありがとう!京太~」



「はい!社さんもお疲れ様です」



「あ、うん!ありがとう・・」



それぞれに声をかけて、最後蓮にコーヒーを渡している姿の京太の表情は想いが隠しきれてないぞ・・・と社は内心苦笑いをこぼした。


そして不意に、課の外から女子社員達がその二人の様子を物陰からキャッキャと楽しそうに噂している姿が目に入った。



(・・・・・アレ・・・・か・・・・)



これで蓮に告白してくるものもいなくなり、京太と公認にされているならいいか・・と社は納得することにした。



(キョーコちゃんだって知ったら、あの女子社員達が何してくるかわかんないし・・・この貴島だってわからんからな・・・蓮たちが内緒にしたい気持ちが今、痛いほどわかった・・・)



心配が山盛り、でも側に置いておきたい蓮の心情と会社の利益そしてキョーコの希望もあって今の状態があるのだ。


穏やかな表情で京太と、書類の打ち合わせをしている蓮とそれに一生懸命答えている京太の姿に社は目を細めた。



(俺が気を揉むことじゃないな・・・・俺はアイツらが困った時に手を差し伸べればいいんだ)



社はコーヒーを飲み干して、残業しなくてもいいように仕事に取り掛かることにした。


貴島も飲み干したのか、空になったカップをコトリと置くと社の耳元に顔を寄せて囁いた。



「蓮君も可愛そうだよね~・・本当はストレートなのに、彼女が『ああ』じゃあね?」



「ごっふ!?え?!ええ?!」



「おっと、書類提出しなきゃだった!じゃあね~」



「ちょ!?き、貴島!!?話しをさせてくれ!?」



社は親友と可愛い部下のために、今夜は残業申請を出すしかないと腹をくくるのだった。






end