なんてことない非日常 -18ページ目

なんてことない非日常

スキビ非公認二次創作サイトです。
駄文ばかりの辺境館ですが、広いお心で読んでいただける方歓迎しております。

≪調子に乗って、もう少し続きますこのシリーズ←あ・・言っちゃった。

にわかB☆Lを楽しんでいただけたらと思います。≫



§アラビアン・ナイトは眠れない   外出→直帰(出張有)





 これは、まだ私が最上 京太だとあの人にばれる前の話し・・・・・。




*************




「出張!?・・・・で・・すか?」



「そう、最上君が入ってくる前に手がけていたコンペの最終選考をメンド・・・仕方ないけど、ヤツラ・・先方のリクエストに応じてわざわ・・出向いてもぎ取ってこようと思って?」



にっこりと笑って、所々濁った部分を明確に聞かせて先日京太と作った書類をブリーフケースにしまう蓮に京太は戸惑った。



「あの!僕、出張の準備なんか・・・」



「下着ぐらい一日替えなくてもいいだろ?ダメならコンビニとかあるし・・・日帰りは難しいんだよ・・・今から行くの長崎だから」



「え・・・え?!今、16時ですよ!?」



「うん、だから明日朝一の会議に出てその後直帰・・たぶん明日の夕方にはこっち着くから」



「で、でも急に・・」



モゴモゴとする京太に、蓮は痺れを切らしたように眉間に皺をよせ持っていた書類で机を叩いた。



「先方がさっき連絡してきたんだ!明日の朝一にコンペできなきゃ俺のを落とすってな!?・・・この喧嘩・・買うしかないだろ?」



(!!?目・・目がっ・・・)



ギラリと鈍い光を放つ眼光で、にやりと笑った蓮に京太だけでなくうっかりそれを見てしまった者たちが震えあがった。



「あ~あ・・・敦賀君、このコンペかなり力入れてたのに新参のアカトキに奪われかけてマジギレ寸前だね~」



今日は珍しく課にいる貴島が、コーヒーを飲みながらそう言うのを京太は目を丸くした。



「も・・もしかして・・・来られないと踏んでこんな・・・」



「まあ・・・あからさまだよね~・・・それでも敦賀君ならもぎ取ってくるんじゃない?文字通り・・・」



「・・・へ?・・文字・・通り?」



貴島の言い方に含みがあり、京太は顔を引きつらせた。



「あの・・・文字・・通りって?」



すると貴島は、突然の営業スマイルを京太に向けた。



「血の雨が降る前に傘をさすのが君の役目だ!新人!!」



ガシっと肩を掴まれ、京太は泣きそうな顔になった。



「な・・なんですか?!それ!!」



「はははっ!冗談冗談、まあ・・・アイツの営業のやり方も勉強になるから・・・しっかりついて行ってやれよ?・・・最上君と一緒にやった企画でもあるわけだし」



「・・・そんなっ・・・すでに案も決まってて、方針も決まってて・・・後は少し肉付けして書類にしただけで」



「それでも、きっと敦賀君は最上君との初仕事だと思っていると思うよ?」



京太は貴島にそう言われて、胸の奥が一気に熱くなるのを感じた。

雑用ばかりをやっていると思っていた。

ただのヘルプばかりで、先にいる村雨のように動けないのはやはり中身が女だからなのではないかと。



「つ・・・敦賀さんが・・・そう・・・言ってたんですか?」



「うん?いや・・・でも・・・あんな風に必死になるのは久しぶりに見たから・・なんとなく?」



貴島はまだバタバタと資料を集めている蓮を眺めた後、京太に視線を戻して目を見開いた。



「あ・・・あの!僕、頑張ってきます!!傘でもなんでもして、敦賀さんの仕事見てきます!!」



「え・・・・・あ・・・・ああ・・・・いって・・らっしゃい・・・・」



京太は気合入れ直して、蓮の所へと向かった。



「敦賀さん!すみません・・ガタガタ言って・・・僕は何をすればいいでしょうか?!」



キーンと響くような大声で、蓮にそう叫んだ京太の顔は先ほどのような腑抜けたものではなく引き締まっていた。



「・・・・・・・じゃあ、これと・・この資料取ってきて・・・・それから・・これも・・・」



「それでしたら、こっちの方がカバーできると思います」



京太は自分のパソコンから資料を呼び出し、蓮に見せた。



「・・・まとめたのか・・・いつの間に?」



「えっ・・・この間・・です・・・重複する内容なのに、別ファイルされてるからおかしいなって・・・」



「助かる!ありがとう最上君!!」



さっきまでの煮えたぎるような鬼の形相が一変して、満面の笑顔で京太の頭をくしゃくしゃと撫でまわした。



「よくやった!!」



その笑顔と掌の大きさに、心臓がバクバク言うのは仕方ないことなのだとキョーコは自分に言い聞かせた。



(なんて言ったって・・・『一晩でもいいから関係を持ちたいいい男』だし・・・ね?)



キョーコは何度もそう言い聞かせ、自分のこの鼓動と感情はリンクしないものだと決めつけることにした。



「あ・・・ごめっ・・撫でまわし過ぎた」



「へ?」



頭をぐっしゃぐしゃにされたことに、京太はようやく気付いて慌てて直した。



「悪い・・・さっきまですごいムカついてたから・・・・」



「だ・・大丈夫です!!(ひ~!!髪型少しいじってキョーコから京太にチェンジしてるからすぐに女顔になっちゃうよ~!!)」



サカサカ直している京太に、蓮は再度謝った。



「悪かった・・・調子のった・・・なんか・・・最上く・・・・・・・京太なら許してくれるような気がして・・・さ・・・」



「!・・・・え?」



突然の名前呼びに、京太が驚いていると蓮が少し顔を赤くしてまくし立てた。



「明日はコンビ初のコンペだからな?まだ他人行儀じゃどうかって思っただけだよ・・・・・いや?」



蓮は不安そうに眉根を寄せ、京太を覗き見た。



「いっ嫌じゃないです!!むしろ・・・・」



「むしろ?」



「あ・・・その・・・仲間に・・なれた気がします」



「クスクス・・もうとっくに大事な仲間だよ」



蓮は嬉しそうにまた京太の頭を撫でまわした。

必要なものが揃っていることを確認すると二人で会社を出て行った。



「・・・どうした?貴島・・止まったまんまか?」



二人が出ていっても、呆然と立ち尽くしている貴島に社は怪訝な顔をした。



「・・・ありえない・・・・」



「は?」



「俺が・・・・トキメクなんて・・・・・女の子・・以外には・・・」



「・・・はあ?どうした?具合でも悪いのか?」



しかし社の言葉も聞こえていないのか、貴島は先ほど見た京太の嬉しそうに顔を赤くした笑顔を思い出しては沈没していたのだった。




************



「・・・着きましたね・・・長崎・・」



「ああ、ホテルこっち」



「あ、はい!!」



長崎駅に着いた京太は、周りをキョロキョロとしながらスタスタ先を行く蓮の後ろを付いていった。



「明日朝一に間に合わせるために、夕食を終えたら俺の部屋でコンペ内容を確認してもう少し詰めよう」



「わ、わかりました!!」



初旅行に、初出張、そして初異性とのホテル滞在(部屋は別だが)にキョーコは少々浮かれていた。



(わーわー・・・長崎初めて来たけど・・・路面に電車が通ってる~!!すごい坂が上まで続いてる!!)



タクシーに乗り込んでも、キョーコは落ち着くことが出来ず小さな声で歓声を上げながらウィンドウに張り付いていると蓮が噴出した。



「ぶっは!・・もう無理・・・・くくくくくっ・・・」



「え?・・・え??」



なぜ急に蓮が噴出したのかわからない京太は、混乱した様子で蓮を見た。



「新幹線の中でもずっと窓に張り付いてるし・・・そんなに旅行楽しい?」



「っ!・・・べ・・別に・・・旅行とか・・・あんまり行ったことなくて・・・」



「そう・・なんだ・・・・・」



「はい・・・・!!えっ!?すご!!こんな坂道登れるんですか!!?」



細い路地の坂道にタクシーが乗り込んでいくと、京太が驚きの声を上げた。



「ぶっは!!京太・・・興奮しすぎっ」



腹を抱えて笑い出した蓮に、京太は顔を真っ赤にした。



「京太って・・・末っ子?」



「え?・・・いえ・・・一人っ子です」



「そうなんだ・・・俺も一人っ子だけど・・・お前みたいな弟いたら楽しいのにな」



蓮はそう笑いながらまた、京太の頭をワシャワシャと撫でまわした。



「主任!やめてくださいって!」



「おっ?上司に反抗する気か?」



「わっわああ~!!」



さらにワシャワシャと頭をかき回す蓮の指の間から京太は、蓮の顔を覗き見た。

そこには無邪気に笑う蓮がいて、キョーコの心臓を飛び跳ねさせた。



(な、なんて笑顔・・・旅先マジック?!)



会社で見たような笑顔とも、仕事終わりに飲み屋で見た笑顔とも違う屈託ない蓮の笑顔にキョーコは増々落ち着かない気分に陥ってしまったのだった。




************



「京太、すぐに来いよ?」



「は、はい!」



シングルの部屋を会社が二つ隣同士で取っていたらしく、夕食後シャワーを浴びたらすぐに蓮の部屋に集合ということになった。



「着替えなんてないし・・・」



あるのはコンビニで買ったボクサーパンツと、肌着(もちろん男用)のみでスーツが皺にならないようにするにはホテル備え付けの浴衣を着るしかなかった。



「・・・でも・・・・肌着が・・・・」



いつもキョーコは胸の部分にストレッチのパッドが当ててある肌着を着て、なけなしの胸を潰していたのだ。

しかし、真っ赤になりながら買ったコンビニの肌着ではそんな機能はなく・・・しかもブラジャーが無いとなると・・・・・



「うっぎゃああ~!!ムリムリムリムリムリ!!!敦賀さんの前でノーブラとかありえない!!」



例えなけなしでも、もし・・・女だとばれてしまったら・・・・


キョーコはそう考えて、先ほど見た屈託のない蓮の笑顔を思い出していた。



「・・・・・あれは・・・『京太』だから・・見せてくれたんだろうな・・・」



男だから・・・可愛い後輩だから・・・弟みたいだから・・・・

キョーコは、急に胸の中に黒い塊が現れて苦しくなるような気がした。



「そ、そうだ!今日買ったのを下に着ていつもの肌着を上に着よう!!・・寝る時に脱げばいいよね!?」



その塊を拭うように、独り言を叫びながらそう決めるとキョーコは急いでシャワーを済ませ京太に戻り蓮の部屋に向かった。


チャイムを鳴らすと、少し間があり扉が開いた。

そして、京太はギョッとした。



「悪い!今風呂から上がったんだ・・・先に座ってて」



バスタオルを腰に巻いただけで、まだ濡れた状態で現れた蓮に京太は口から心臓を飛び出させ半ば放心状態で奥にあるソファーに腰かけた。



「適当に何か飲んどけ・・どうせ会社もちだからな」



「あ・・はい・・・」



京太は緊張を紛らわせるために、冷蔵庫からウーロン茶を取りだしちびちびと飲み始めた。



「おまたせ!さて・・・どうするか・・・」



いつものように、しっかりとセットした髪ではなくまだ乾ききれていない状態で京太とテーブルを挟んでドカリと腰を下ろした蓮に京太は思わず噴き出した。



「しゅ・・・主任・・・浴衣・・・つんつるてん・・・」



肩を震わせ、声も震わせそう言うと、蓮はムスッとした。



「しょうがないだろ・・・どこに行ってもこの状態なんだよっ・・・フロントでいつも一番大きいのを借りるんだけど・・・これが最大らしい・・」



「主任、背が高いですからね・・・」



「京太はぴったりで羨ましい」



「・・・それ・・・僕がチビだっていうことですか?」



「・・・そうともいう」



「むきいい!!」



「あははははは!」



じゃれあいながらも、しっかり仕事はこなし二人は時計の針が午前0時を回る頃ようやく一息ついた。



「結局いつもの残業時間ですね?」



「だな・・・」



欠伸をしながら蓮が伸びをしていると、携帯に着信が入った。

携帯を取り、蓮は立ち上がり京太に背を向け話しはじめた。



「はい、敦賀です・・・社さん?どうしたんですか?」



心配をした社から電話がかかってきたのを京太は、残ったウーロン茶を飲み干しながら漏れ聞いた。



「ええ、大丈夫ですよ?京太と二人でさっきまでプランの最終打ち合わせしましたし・・・これでアカトキから奪い取って見せますよ」



『お・・穏便に行けよ?』



「何言ってるんですか・・・いつも穏便じゃないですか?・・大体、あっちが先に仕掛けてきたんですよ?」



『それはわかっているけど・・・とにかく京太も一緒にいるんだから、ちゃんと勉強させてやれよ?』



「それもわかってます・・・けど・・京太のやつ・・・・・」



蓮は今日の京太のことを社に言おうとしたが、思わず固まった。



『蓮?・・・京太がどうしたって?』



「え・・・?・・・・あ・・・いや・・・長崎は初めてみたいで・・・はしゃいでましたよ」



『そうか・・・あんまりハメ外すなって言っておけよ?・・じゃあ、明日頑張れよ?』



「はい、終わったらまた連絡します」



蓮は携帯を終えると、息をついた。



(俺・・・なんで止めたんだ?)



社に京太の無邪気な様子を伝えようとしたのだが、あの時の笑顔やふくれっ面を誰かに教えてやるのは惜しい気がして思わず言い淀んでしまった。


それでも、なんだかもったいないような気がしたのだ。

しかし、なぜそう思うのか蓮が考える暇などなかった。



「おーい・・京太・・・寝るなら自分の部屋に行け~」



ソファーの上で、すっかりくたびれている京太はクー・・・という寝息をたてダウンしていた。


あどけない寝顔と、ここに着くまでのはしゃぎっぷりを思いだし蓮はクスクスと笑った。



「急な出張・・・お疲れ様」



グシャグシャと京太の頭を撫でると、蓮は京太を抱き上げ部屋に連れてベッドへと入れてやり明日のため自分の部屋に戻るとすぐに眠ったのだった。


それが良かったのか、はたまた蓮の鋭い眼光のお蔭かコンペは文字通り蓮たちLMEグループがアカトキグループからもぎ取った。


血の雨は降らなかったが、その場にいた全員が血の気も引くような捨て台詞を残して去っていく蓮たちを見送ったことを京太は記憶から抹消することにした。



「お疲れ~俺、寝るから着いたら起こして?」



「あ、はい!」



蓮の隣でまだ興奮冷めあらぬといった様子の京太は、帰りの新幹線の中で背筋を正していた。



「クスクス・・・良かったな?獲れて」



「はい!アカトキの方は最後何も言えなくなってて、爽快でした!!」



「うん・・京太のお蔭だ・・・」



「いえ!ほとんど敦賀主任が一人でやってきたことです・・・僕は何も・・・」



「つべこべ言うな・・・お前が来てから、仕事しやすくなって助かってるんだ」



蓮の言葉に、京太はドキリとした。



「あの・・・まだ・・・ありますか?・・・例の・・『告白』」



京太の質問に、蓮は小さく頭を振った。



「いや・・・ああ・・・まだ・・・たま~にあるけど・・・最近は社さんとも飲みに行くことが多くなったし・・・ほぼ毎日夜に予定があるからな・・・断り続けたら言われなくなったよ」



「そうですか・・・よかった・・・・」



本来の『仕事』を全う出来ていることに京太は、一安心した。


ほう・・と息をついた京太の顔を、蓮は興味深そうに覗き込んだ。



「・・・そんなに安心できるほど嬉しい?俺が・・・『告白』されなくなって」



「え!?・・・・ええ・・・まあ・・・こ、こうやって仕事の成果がよくなっていますし・・・」



「・・・・今までも実力でこうやってきたけど?」



「え?!そ、そうですよね!!?す・・すみません・・・」



肩肘ついて顎を手の甲に乗せながら、京太をじっと見つめる蓮と先ほどの冷酷無比の蓮が重なり京太は青ざめた。



「え・・・っと・・・あの・・・ですね?僕は敦賀主任がモテなければいいとか思っているわけではなくて・・・その・・・あの・・・・・」



「ぶっは!」



「・・・え?」



「悪い悪い・・・京太なんか俺に隠し事があるような気がして、つい意地悪になった」



蓮のその言葉に、京太は心臓が口から飛び出しかけた。



「え?!かっかくしっごとなっん」



完全に声が裏返って焦る京太に、蓮は愉快そうに笑って見せた。



「そうやってバレバレなの・・・もう少しうまく誤魔化せるようにならないと・・・社会人としてやっていけないぞ?」



「は・・・・はいっ・・・・・」



「で?・・・お前の秘密ってなに?」



「!!・・・そ・・・それ・・・は・・・・・・・・」



「・・・・・・・・・・・」



「・・・・・・・・・・・」



京太は縮こまってどうしたらいいか考え込んだ。



(どうしよう・・・どうしよう!本当のことを・・・・言う?)



ドクンとキョーコの心の中で重い鉛が、酷い音をたてた。



(い・・やだ・・・・・本当のことを知られて・・もし・・・ううん・・きっと敦賀さんは私を・・・冷たい目でみる・・・)



もうあんな風に笑ってくれんないだろうと考えただけで、涙が出そうになってくる。



(・・・私・・・なんで泣きそうになっているの?・・・せっかく仲良くなった上司から裏切り者だと思われるのは・・・誰だって・・嫌・・・だよね?)



「あ・・・のっ・・・ですね?・・・わ・・・私!」



ドン・・・



「!?」



京太の肩に急に重みがかかり、驚いて振り返った。

すると蓮がいつの間にか寄りかかって、眠っていたのだ。


もう本当のことを言わなくていいという安堵と、言えないという罪悪感・・そして、不意にかかった重みと温もりにキョーコはドキドキと心臓が忙しなく動くのを終点に着くまでにどう収めるかで頭を悩ませるのだった。



************



「敦賀主任・・・・着きましたよ?主任・・」



ユサユサと、肩を揺すられ蓮は目を覚ました。



「京太・・・ああ・・悪い・・・もう着いたのか・・・こんなに熟睡したの久しぶりだよ」



蓮は大きく伸びをして、カバンを掴むと立ち上がった。



「今日はもう直帰していいよ?」



「主任は?」



「俺も報告が終わったら帰るよ」



また仕事していくのではないかと心配そうに見上げる京太の頭を、蓮はいつものようにぐしゃぐしゃと撫でまわした。



髪を乱され怒る京太に、笑顔を見せ会社に向かうため地下鉄に乗り口に向かう蓮の背中に京太は思わず声をかけていた。



「主任!」



「うん?・・なに?」



「・・・・あのっ・・・昨日・・言っていたじゃないですか?」



「・・・うん?なんか言ったっけ?」



首を傾げる蓮に、京太は意を決して聞いた。



「まだ・・・たまに『告白』されるって・・・」



「あ・・・ああ・・・うん・・」



「その・・時は・・・・もしかして・・・・」



そこまで聞いて京太が言いにくそうにしている事に蓮は思い至って、頭を振った。



「いや・・・もう『あんな』ことにならないように全部断ってるよ?」



「でも・・・」



今まで、粘り強い者たちがいたから京太が現れる状況になったことを暗に示すと蓮は言いにくそうにしながらも京太の疑問に答えた。



「・・・まあ・・・・どうしても・・・納得しない子には・・・・キスで済まさせてもらってる・・・・・」



「キ・・・・・そう・・・ですか・・・・・」



「うん・・・」



変な沈黙が二人を雑踏の中に置いた。



「す、すみません!!変なこと聞いて」



「いや・・京太には協力してもらってるのに・・・それでも一晩相手するよりはずっとわだかまりないみたいなんだ・・・みんなキスの方がすっぱり諦めて仕事に向かってくれるみたいだ」



「そう・・なんですか・・・・」



蓮から聞かされた意外な事実に、京太は呆けると通行人にぶつかった。



「うわっ!?」



「京太!」



バランスを崩した京太を、蓮がすかさず抱えた。



「何やってるんだ・・・・ほら、今日はもういいから帰れ」



「す・・・みません・・・じゃあ・・・お疲れ様でした」



「うん、お疲れ様・・・本当に頑張ったよ、お前」



「主任こそ・・・・本当に報告のみにして早めに上がってくださいね?」



「わかってる・・・・じゃあ・・・明日・・・」



「はい・・・・」



そう言いながらもなぜかお互い動かないため、同時に苦笑いをこぼした。



「ほら・・・早く帰れって」



「僕は新人なので、主任の背中を送ります!」



「なんだそれ・・・変なところで律儀だな・・・人の部屋で寝こけたくせに」



「え!?も・・もしかして・・・主任が・・運んでくれたんですか?」



「・・・・・自分で帰ったと思ったのか?」



「・・・無意識に戻ったのかと・・・・・」



青ざめる京太に、蓮は笑い声を上げた。



「どおりで、次の日何にも言わないと思ったよ」



「すっすみません!!!ご、ご迷惑を・・・」



慌てる京太に、蓮は意地悪心が起きて顔を近づけてニイ・・・と笑った。



「よだれ流して寝てたぞ?」



「!!?」



青かった顔が一気に真っ赤になるのを、蓮は目の当たりにして目を見開いた。



「すっ・・・そんっ・・・はあわっ」



真っ赤になって、日本語にもならずにアワアワする京太から赤面が伝線した気分になった蓮は顔を離して口元を手で覆いそっぽを向いた。



「あ~・・・だから・・・疲れてるだろうから・・・そんな見送るとか考えなくていいから・・・お前はもう少し肉付けろ」



そう言って蓮は細い京太の腕をムニムニと揉んだ。



「!?・・・はっ・・・い・・・」



「ん・・・じゃ・・・な?・・・・・・お疲れ」



「お、お疲れ様でした!!」



お互い赤面しながらもようやく別れ、京太は帰路に蓮は会社に向かいながらお互いの行動を思いだしまた赤面しては悶えるのだった。




***************



・・・アノ時のことがあって、私が誤解して・・・敦賀さんも誤解して・・・・・


それから誤解も解け、京太の本当の姿を知るものも社内で味方が出来て企画営業課でこれまで以上に働けるようになった。


何の問題もなく・・・・・・



(さっきまでは・・・何の問題もなく・・・・・・)



京太は自分が置かれた状況を呆然と眺めていた。

そんな京太に、蓮が困惑気味に声をかけた。



「え・・・っと・・・・・どう・・しようか?」



明らかに蓮の方も戸惑っているようだった。


なぜなら・・・あの日以来、蓮にキョーコの存在がバレてから初めての出張でまさか蓮と同室のツインルームに泊まることになるとは全くの想定外だったからだ。





つづく




§ルートX    68




ズル・・・・

ズル・・・・・・・

・・・ズル・・・・・・・・



「・・・・・・・・・・・怖いわ!何してんのよ!?」



奏江の声が、LME事務所の廊下にこだましても声をかけられた本人はゾロリと体を反転させただけで口から何かを出していた。



(ゾンビ!!?)



ふしゅ~・・・と魂を半ば出しながら、黒い影を背負うキョーコにびくつきながらも奏江はさらに叫んだ。



「ちょっと!?何があったの!!?」



奏江のその言葉に、キョーコは体もカバンも引きずりながら近づいてくると奏江に巻き付いた。



「モ~子さぁ~~~ん・・・た~す~け~て~~~~」



その顔色は完全に土気色で、生気を感じられず奏江は全身の鳥肌が立った。



「ひっ・・・・ひぃぎゃああああああああ~~!!!!」




*************




「ひっど~いモー子さ~ん」



キョーコはたんこぶのできた頭を自ら撫でて、涙目で奏江を恨めしそうに振り返った。



「ヒドイはこっちの台詞よ!まだ鳥肌立ってるのよ!?」



奏江は細腕をキョーコの前に差し出しながら、まだ怒りモードを解かなかった。



「酷いよ~ちょっと落ち込んでいたところに、大親友のモー子さんが通りかかったんだもの藁をもつかむ思いって奴なのにぃ~」



(なにが『ちょっと』よ・・・死霊がまるで取りつくかのように人に絡みついてきたくせに!!)



奏江は心の中でそう叫んだが、それを口にすればたちまちまた憑りつかれるのは解りきっているため自分の中に留めておいた。



「・・・で?・・・アンタがそんな風になった原因がその・・・・『レイノ』?っていう人なの?」



「・・・・うん・・・・」



キョーコの言うことはこうだった。


先日、ドラマのロケで偶然会った『レイノ』という男に逆恨みされて襲われ(なんですって!?)かけたが・・・

数日後には、なぜか気に入られて今後も襲うと宣言された。

しかも、帰ってきてからは教えてもいないのに携帯の番号が知られていて毎日何十件と着信が入ってくるらしい・・・。



「・・・・警察に相談できるレベルよ?それ・・・」



「そう・・・・なんだけど・・・」



ラブミー部の部室内で、キョーコのお詫びの品であるミネラルウォーターを飲みながら奏江はさも当然とそう言った。

しかしキョーコは、途端に口ごもった。



「・・・・・そう・・・なんだよね~・・・」



「なによ・・・何か問題でもあるの?」



するとキョーコは、突然ガマの油よろしくダラダラと冷や汗をかき始めた。



「・・・問題・・・あるのね?」



奏江の言葉に、キョーコは凍りついた。



「なに?その問題って・・・」



「い・・いえない・・・・・・・・」



「はあ?」



固まったままのキョーコは、さらに顔色が悪くなる一方で・・しかしここで何も聞かずに終わるのは根本的になんの解決にもならない。



(・・・また後日あんな風に憑りつかれるなんてまっぴらよ!)



キョーコは固まったままで、それ以上話す様子はなかった。

そんなキョーコに、奏江は冷たい視線を投げた。



「あっそう!・・・私とは親友だのなんだの言い寄る癖に、心の中では相談事も持ちかけられない薄っぺらい間柄よね?!」



「!?」



奏江は立ち上がると黒く瑞々しい髪を、バサリと手の甲で払い目を見開いているキョーコを見下ろした。



「アンタのこと・・少しは友人と認めようと思っていたのに・・・もう・・・いいわよっ」



奏江は少しだけ涙を滲ませた目元を光らせて、強気に背を向け部室の扉に向かいかけた。

が、キョーコにカバンの持ち手を掴まれすぐに立ち止まった。



「行かないで~~マイフレンド~~~!!!」



「・・・・・・・・・・・じゃあ、事の経緯をちゃんと、順番に、包み隠さず、しっかりと教えなさい!」



「・・・・・はい・・・・」



奏江の問い詰めに、キョーコは項垂れたまま小さく頷いた。

それを見届けて、奏江は自分の席にドカリと腰を下ろした。

その頃には、目元に光っていた涙など微塵もなくなっていた。



「さあ、正直に全部吐きなさい」



「うっ・・・・じ・・・実は・・・・・・・」




***************




「うっ・・・ううっ・・・・・」



「すみません!!すみません!!」



社は真っ青になって、目の前で嗚咽を漏らす女性に何度も頭を下げていた。



「ひっく・・・つ・・るが・・・さんはっ・・・まるで・・・春の日差しのような笑顔で、紳士の振る舞いをっ・・・ぐす・・・欠かさない人だって・・・聞いてたのに~~!!」



「すみません!!アイツ体調悪いみたいで!!」



わああっ!と泣き出したのは、女性雑誌のルポライターの方で取材を受けるはずだったのだ。



(しかし・・・本日の蓮さんはすこぶるご機嫌斜めで・・・・・・)



未だに目つきが鋭いままのため、控室に閉じ込めているのを思いだし社は大きくため息をついた。



「カナちゃん・・・いくら敦賀君でも、体調悪い時があるよ・・・・」



「うっ・・・うう・・・そう・・・ですよね・・・でも・・・・・・今日しかなかったのにぃ~~!!」



目の前で泣くルポライターに、社もカメラマンもお手上げだった。



(やばいよ蓮!!仕事相手に心象悪くなる一方じゃ・・・・・)



「すみません・・・高月さん・・・濱崎さん・・・」



「つ、敦賀さん!?」



社が頭を抱えていると、控室から出てきた蓮が申し訳なさそうに二人に謝った。



「俺のせいで・・・お二人に迷惑を・・・」



少し気怠さが残りながらも、笑顔を作って頭を下げる蓮は弛めたのか乱れたシャツの胸元も髪をかき上げる仕草も妖艶さが濃く混じり男のカメラマンでさえゴクリと喉を鳴らすほどだった。



「・・・・敦賀さんって・・・真夏の夜の夢のようです・・・」



「・・・は?」



すっかり蓮の妖艶な仕草と表情に騙されたルポライターと、仕切り直しの取材を受けた蓮はその後社に直角のお辞儀で謝った。



「すみません・・・社さん・・・・」



むー・・・と、眉間に皺を寄せたままの社に取り繕うことが出来ないため蓮は困り果てた。



「どうせ・・・」



「は?」



考えあぐねている内に、社が口を開くと蓮が咄嗟に反応して首を捻った。

すると社は拗ねたように口を尖らせた。



「どうせ、今回もキョーコちゃん絡みで俺には何にも教えてもらえないんだろう?」



「え・・・・・・」



「どーせどーせ、二人のことは二人だけのヒ・ミ・ツですよね~」



「え?・・・や・・社さん?」



「俺はお前のマネージャーなのに、肝心なことなんかな~んにも知らない蚊帳の外ですよ~~だ」



社のいじけっぷりに、蓮は冷や汗をかいた。



(・・・社さん・・・・軽井沢の時、置いてけぼりにされたこと根に持ってたんだ・・・・)



完全にいじけた社を宥めるために、ある程度話さなければいけないのかと蓮はため息と共に腹をくくることにしたのだった。




69へ




















 

†Marriage end blue   13





 『・・・・キョーコの場合はそれだけじゃないんだ・・・』



クオンの頭の中にローリィが以前言った言葉が蘇ってきていた。

今の状況を理解するには、その言葉しか当てはまらないと理解したからだ・・・・・




**************



クオンがそんな考えに陥る数時間前に時間が遡る。


松太郎との思い出を語っていたキョーコだったが、突然体調に異変をきたし始めた。

震える声、体、瞳孔が開いてきて青ざめる顔色にクオンは思わず叫んでいた。



「・・・・ちが・・・ショー・・・ちゃ・・・ない・・・・・だれ?・・・たすけて・・・くれた・・・男の子・・・・・・」



「ごめん!もう聞かない!!忘れて!キョーコちゃん!!」


しかしその言葉が逆にキョーコの反応を変えさせた。

ビクンと体を震わせ、驚いた表情でクオンをじっと見つめ始めた。



 

「・・・・・コー・・・ン?・・・」


「え・・・・・」



それはかつてキョーコが幼い時に会って呼んでいてくれていたクオンの呼び名だった。

もう既に記憶の中に封じ込められているだけだと思っていた言葉に、クオンはそのまま目を閉じて倒れ込むキョーコに反応するのが遅れた。



「・・・!?」



パイプ椅子からぐらりと倒れ込むキョーコを咄嗟に抱きとめた。


ガタン!!バサバサバサバサ・・・・


書類と椅子と・・・コーヒーを淹れたマグカップを倒し、蓮は意識のないキョーコを抱え込み息をついた。



「・・・・これは・・・怒られるな・・・」



先ほどまでキョーコがせっせと綴じていた冊子は、零れたコーヒーまみれでもう使えない状況だった。

するとキョーコが身じろぎした。

小さく呻いてゆっくりと目を開けた。



「起きた?・・・これは・・不可抗力というか・・・コーヒーまみれなのは・・」



「・・・・・あなた・・・だれ?」



「・・・・・・・・・・は?・・・」



蓮に抱え込まれたまま、キョーコは床に手をついてじっと蓮を見上げてそう聞いてきた。



(・・・冗談?それとも・・・怒りのあまり記憶が?・・・・・でも…様子が・・・)



目の前で、蓮に囲われた格好のままでも逃げることも叫ぶこともなくじっと見上げてくるキョーコを蓮はじっと見つめ返した。

するとキョーコは、ふわりと笑った。



「私は最上 キョーコ!あなた・・お名前は?」



「!!」



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『木に登ってる妖精さん!あなた綺麗ね・・』



キョーコに初めて会ったのはもう10年も前の出来事だった。

祖父たちの間で勝手に約束を交わした、自分の婚約者が日本なんてところから今日やってくると聞いて屋敷を抜け出しお気に入りの大木に登り昼寝を決め込んでいた時だった。



『私は、最上 キョーコ!妖精さん、あなたのお名前は?』



花のように笑う女の子だと思った。

鈴を転がしたように耳に心地いい笑い声も、自分を妖精だと本気で思い込んで色々想像を膨らませている姿も・・・婚約者の姿を想像して楽しみにしてきたと素直に恥ずかしがる姿さえ愛らしいと思った。


捻くれた自分には、なんと不釣り合いな少女なのかと・・・感じた。




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「お名前・・・いえないの?」



キョトンとするキョーコ目の前で、蓮はいつの間にか過去に意識を飛ばせていたらしい。

はっとして、なんて言おうか迷った。


懐かしい空気に、思わず『クオン・ヒズリ』だと名乗りかけた。

しかし今の姿は、『敦賀 蓮』だった。

もし記憶がこの状態で上書きされるなら、蓮の正体を学園内では限られた人物にしか知られてはいけない状態ではヘタに名前を教えて学校で呼ばれても困るし・・・。



(・・・・というか、ココまだ学校だった・・・・・)



「えっと・・・俺は・・・」



言い淀んでいると、キョーコは壁時計に視線が飛んだ。



「!!5時過ぎてる!!大変!門限が!!」



「え?」



「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう!!私、帰らなきゃ」



ばっと立ち上がって、そういうキョーコを蓮は咄嗟に捉えて引き留めていた。



「ちょっと待って!帰るってどこに!?」



「お家よ?」



「・・・・・家?」



二人で暮らし始めてから門限なんて作ったことがない。

そもそも、宝田家でも門限はなかったはずだ。

なぜなら、車で送り迎えしキョーコの周りの安全を固めていたから・・・。


門限なんて一人で外出する人間のみに与えられるルールだ。



「早く帰らないとお母様に怒られちゃうの!」



しかしキョーコ自身は本気で焦っているのは、掴んだ腕を必死に振り払おうとしていることで解った。



「待ってくれ…君の・・・お母様は・・・」



キョーコは実母も、義母もすでに側にはいない。



「お母様はお仕事されて大変だから、私がいい子でいなくちゃいけないの・・・門限を破るなんて、テストで80点以下を取るのと同じぐらいしちゃいけない事なの・・・」



(待って・・・なんか変だ・・・この話し方も・・・まるで・・・まるで・・・・・)



蓮は、頭の中に浮かんだ考えを振り払ったがそうしている合間にもキョーコが『帰ろう』としているため慌てた。



「君っ・・・今、いくつ?」



咄嗟に、けれど意を決して蓮は聞いていた。

するとキョーコは、目を見開いて怪訝な顔をした。

そして、こう言ったのだ。



「7歳、小学校2年生」



やっぱり・・・と、まさか・・・と、どうして・・・がない交ぜになって蓮の頭の中を真っ暗にした。



(逆行性!?いや・・でも・・・・)



「お兄ちゃん、本当に離して!?」



「・・・キョーコちゃん・・・俺は・・・君を預かってるんだ・・・」



「え?」



グルグルと考えている間に、行ってしまいそうになるキョーコを引き留めるために蓮の口は勝手に動いていた。



「宝田の叔父さん・・・知ってる?」



「え?・・・・うん・・・お母様のお仕事先の人で、皇貴さんのお父様なでしょう?」



「うん・・・その人から・・・君を預かって欲しいって・・・お母さん仕事で帰って来れないからって・・・・」



「え!?そうなんだ・・・・ごめんなさい・・・知らなくて・・・」



「・・・・・いいや・・・説明中に倒れちゃったから仕方ないよ・・・・えっと・・・ここ、片付けたら一緒に帰ろう?」



「うん!」



蓮は良心の呵責で痛む胸を押さえながらも、無邪気な笑顔を見せるキョーコに微笑んで見せ散らかった部屋をテキパキと片付けた。



(・・・・・・・・彼女・・・これからこのままなのかな・・・・・俺・・・どうしたらいいんだ・・・)



ニコニコと立って待っている姿は、17歳のキョーコなのに中身が出会ったころ・・もしくは出会う直前である7歳児になっていることに蓮はため息しか出ないのだった。




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