§ルートX 69
「「はあ?!なにそれ!!?」」
社と奏江は、離れた場所に居ながらも目の前の人物が話した内容に目くじらを立ててそう叫んでいた。
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亡霊のようなキョーコに憑りつかれて、これ以上纏わり憑かれては心身の健康上よくないと奏江は事のいきさつを聞くことにした。
「ひっどい話ですね~~」
千織は毒ノートをスタンバって、口を尖らせるのをキョーコは苦笑した。
千織は、キョーコが話しはじめて直ぐにラブミー部室へ入ってきたため事の経緯をそのまま聞くことにしたのだ。
「逆恨みの上、とばっちり・・・しかも相手も芸能人だから訴えれば大事になる・・・」
「それだけじゃないよね~・・京子はまだまだ新人タレント、一方相手は新人といえど人気急上昇中のビジュアルバンドのボーカル・・・・」
「「勝ち目ないわね~~」」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
現実をわざわざ明るみに出してくれる友人二人に、苦い顔をするキョーコはまた大きなため息をついた。
「・・・・私・・・ダメ男に好かれる周波でも出てるのかしら・・・」
どんより落ち込むキョーコを前に、奏江と千織は顔を見合わせた。
「敦賀さんは違うじゃない」
「そうそう、何だかんだでアンタのこと心配して手を差し出しているでしょう?」
「優しさの塊!って感じだし・・」
「そう?私はそれだけじゃない気もするけど・・・話を聞いた限りでは、今までの男たちよりは幾らかましな気がするわ」
奏江たちの会話を聞きながらキョーコは、先日レイノが言い放った言葉を思い出していた。
『それは・・どうかな?・・・・血に染まったその手は、もしかしたら次はお前を捉えるかもしれないぞ?』
(・・コーンが・・・私を?・・・・・そんなことあるはずない!・・ないって・・・思いたいけど・・・・・)
時折、激昂する蓮を目の当たりにしているのと言い得ぬほど冷たい空気を蓮が持っていることにキョーコは気が付き始めていた。
(・・・もしかしたら・・・今までの誰よりも・・・・・)
キョーコは蓮の冷たく固い声も思い出していた。
『アイツか?・・・君を襲ったのは・・・』
『・・・・どうして君は・・・』
(アイツに襲われたことよりも、コーンの声を聞いた時の方がずっと・・ずっと怖かった・・・・・コーンを・・・・『キケン』だと頭が判断した・・・)
「ちょっと!?大丈夫!?顔色悪いわよ!?」
思考の小部屋に迷い込んでいる間に、肩を震わせ身を抱きしめているキョーコに奏江と千織が心配そうに覗き込んできた。
「へ・・・平気!・・アイツ、変な電波でも送ってるのかしら!?ちょっと温かい飲み物でも買ってくるね!?二人にも買ってくるから待ってて!」
気丈に振る舞って、部屋を飛び出して行ったキョーコの態度に奏江と千織は見つめ合いため息を吐くことしかできなかった。
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「大丈夫なのか!?キョーコちゃん・・・」
「ええ・・・もう心配ないと思います」
蓮から大まかな出来事を聞いた社は、心配そうにオロオロして見せた。
すると蓮がクスリと笑みをこぼして、そう補足したのだ。
「ならいいけど・・・・・・」
取材も終わり、事務所の駐車場に戻ってきた二人は車から降りて事務所内に足を進めた。
「しっかし、キョーコちゃん危なっかしいな・・・お前・・ちゃんと見てないと彼女また碌でもないのに掴まるかもしれないぞ?!」
「・・・・・・わかってます・・・彼女のことは俺がしっかり守りますから・・・」
前を見てスタスタ歩きながらそう言い放った蓮の横顔を見て、社は押し黙った。
(あんな表情の奴に守られるなんて・・・キョーコちゃんって・・本当に男運ないかもしれないな・・・・)
先ほど、女性記者をビビらせた表情になってしまった蓮に社はただただキョーコの不運を憂うことしかできなかった。
するとふ・・・と蓮の表情から硬さが取れた。
「・・・・あれ?・・・・キョーコちゃん?」
「え?・・・あ!本当だ・・キョーコちゃん!!」
飲み物を買いに出たキョーコは、突然名前を呼ばれ驚きながら蓮たちを見つけ笑顔を作った。
「コ・・・敦賀さん・・・社さん・・・・・・今、お仕事終わりですか?」
「そう、とりあえずね・・・」
「とりあえず?」
社の言葉に、キョーコが首を捻ると蓮が苦笑した。
「この後、仕事の話で夕食を一緒させてもらうんだ・・・・俺にとってはどんな仕事よりもハードなんだよ・・・会食って・・・・」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
蓮が決死の表情でそう語るのを、キョーコと社は半目で聞き流した。
「ところで・・キョーコちゃんは・・仕事終わり?」
「いえ・・・雑用を椹さんか仰せつかっていて・・・でも、その前にモー子さんたちとお話を・・・」
キョーコの言葉に、蓮は何かを感じ取ったのか眉間に皺を寄せた。
「・・・・・この間のこと?」
「えっ・・・あ・・・・うん・・・」
キョーコは顔を逸らしながら頷くと、蓮は小さなため息を付いた。
「・・・・そう・・・君の周りでも知っている者がいた方が、いいと思っていたところだったんだ・・・」
「そう・・・だね・・・・ありがとう・・・心配してくれて・・・」
「いいよ、それより仕事・・・戻らなくて平気?」
蓮にそう尋ねられて、キョーコは慌てた。
「あっ!二人に飲み物買いに来たところだったんだ!!」
「クスクス・・・じゃあ、早く買っていかないと怒られちゃうよ?」
「うん!じゃあ・・ね?コー・・・敦賀さん・・・・社さんも失礼します!!」
何か言いたそうな表情のキョーコは、それを無理に押しこめたように笑うと二人に手を振って走り去っていった。
その後ろ姿を、蓮も何か言いたそうな雰囲気で手を振って見送っていた。
(・・・なんだ?)
聞くに聞けない二人の雰囲気は、実は軽井沢から帰ってきてから既にできつつあったのだ・・・・・・
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