§心の天秤   6 | なんてことない非日常

なんてことない非日常

スキビ非公認二次創作サイトです。
駄文ばかりの辺境館ですが、広いお心で読んでいただける方歓迎しております。

《お久しぶりです!
ずっと気にしていた一つの連載物・・・放置1年orz
誠に申し訳ない。(いや、他のもあるんだけど・・・)
読み返して辛うじてこれは何とか今月中に完結できそうと踏んで続きをアップです。
この目論見正解するのかしら・・・。


間が空いているのでこれまでのお話です。



心の天秤  1
 ・   ・   ・   ・ 

それでは、久しぶりにいってらっしゃいませ》





§心の天秤   6





 「・・・・いいのか?行かせて」



あっという間に長い足でキョーコの元へと駆けて行く蓮の背中を見つめている奏江に、飛鷹は苦虫を噛み潰した表情でそう訊ねると奏江は長い髪を風に飛ばされないように押さえながらゆっくりと振り返った。



「うん・・・悔しいけど・・・あの人が行った方がいいと思うから・・」



眉を垂れさせて、いつも強気で前を見ている奏江とは正反対の表情に飛鷹真っ黒く染まった。



「っんな顔するなら行かせるんじゃねーよ!!」



急に大声で怒り出した飛鷹に、奏江は目を丸くした。



「飛鷹君?」



「そんなにアイツのところに行かせたくないなら引き止めればよかっただろ!?なんでわざわざ監督に時間を作ることを提案してまでアイツの元に行かせたんだよっ」



悔しくて仕方が無い。


蓮に惹かれる奏江を自分に引き寄せることも、蓮よりも自分のほうがいい男だと思わせることも出来ない自分に醜い嫉妬心なんて不釣合いなのにその感情しか湧いてこないことに。

飛鷹の心の中には真っ黒嫉妬の固まりが胸も胃も圧迫して気分が酷く悪くなっていた。

その気分の悪さに顔は引きつり、眉間には皺が寄る。
涙も出そうだ。


「俺なら・・・俺ならっ」



なんて言いたいのか頭の中が整理できない。

耳鳴りだってする。
自分の声が酷く耳障りで、大きく目を見開く奏江の顔が自分を可哀想な者だと感じていないか心配で堪らない。
息も苦しくてもがくように胸元の服を飛鷹は、ぎゅううっと握って引っ張った。


「・・・私が行くより敦賀さんが行った方が撮影が順調に進むと思ったからそうしたのよ?」



奏江の声はどこかそんな飛鷹を宥めるために優しく囁いているようで、それがさらに飛鷹の感情を逆撫でした。



「撮影のためなら自分の感情なんて押し殺すのかよ!?」



「それが、役者の道だと思ってるから」



目眩を起こしながら奏江を見た飛鷹は、はっとした。

今、目の前にある奏江の表情はいつの間にかいつもの役者としての道を邁進する奏江に戻っていてそれ以上叫ぶのを止めた。


「・・・私が行くよりきっとあの子は素直に自分の感情を曝してくれるわ・・私・・気づいていたのにどこか否定したかったのかも・・・口では親友なんて恥ずかしいからやめてって言っていたのに・・実際は親友の位置にすらいなかったと思い知らされて悔しくて、敦賀さんを逆恨みして絶対役の上で見返してやるって思っていたのに・・まんまと敦賀さんの筋書き通りにことが運んでた・・・もう、敵わないよ」



「ち・・・ちょっとまて?」



「なに?飛鷹君」



奏江は目尻を光らせている涙をつ・・っと指で掬い取りながら飛鷹に首を傾げて見せた。



「お前は・・・敦賀・・さんが好き・・なんじゃないのか?」



「へ?」



「へ?って・・・お前は敦賀さんが好きで・・・あのバ・・京子に嫉妬してたんじゃ・・」



飛鷹の言葉に奏江は目をパチクリとした。


「そんな訳ないじゃない、あの二人の間に入ろうなんて・・ライオンの檻に生肉を持ってスキップして近づくようなものよ」



「・・・・・・・・その例えはどうなんだ?」



飛鷹の突っ込みに、奏江はフガっと口を歪ませた後真っ赤になった顔を横に向かせた。


「と、とにかくっ!私はそんな感情で二人を見ているわけじゃなくて・・・ともいえないか・・」



「へ!?や、やっぱり!?」



「あ・・・ちが・・『有理』の感情を入れたらそうなるのかな?とは思ったことはあるよ・・・私は『有理』だって言い聞かせて」



「・・・ああ・・・なんだ・・・」



「ただ、敦賀さんは本物の役者ね・・・『有理』から離れかけた時にさりげなく役に憑く行動をしてくれる・・・だから『私』の感情が『有理』に変換しそうになったこともあったこれが共演者キラーと呼ばれる由縁ね・・・(半分、無意識みたいだし・・・)」



奏江の冷静な分析に、飛鷹は大きなため息をついてその場にへたり込んだ。



「ええ!?だ、大丈夫!?飛鷹君!!」



「・・・・・・・・・・俺・・・超カッコワリ~・・・」



飛鷹は両腕で頭を抱え込んで、しゃがんだ足の間に抱えた頭を突っ込んだ。

奏江は飛鷹が気分でも悪くなったと思い、覗き込むと飛鷹の耳が真っ赤になっているのが見えた。


「・・・・・奏江・・」



「・・・・っは、はい?!」



真っ赤な耳が可愛いと思って眺めていた奏江は、急に名前を呼ばれ声を裏返させた。

だが、飛鷹はそれに気がついていないのか自分のことで精一杯なのかしゃがんだ膝の上に肘をつき口元を隠すように頬杖をついた。


「・・・・悪かった・・大声出して・・・」



「え?そんなこと・・・」



飛鷹が体調悪くないか屈んだ奏江の手首に、飛鷹の手がきゅっと巻きついた。

その手は以前合わせたときよりもずっと骨ばって男らしくなっており、奏江の心臓が一気に跳ね上がった。


(!?・・・な・・なに・・・これ?)



ドクドクと耳の奥で沸騰する血流の音を初めて聞いた奏江は、飛鷹の様に耳が熱くなっていくのを感じ動揺した。



「俺、この役も全力でやる・・敦賀さんにも・・京子にも負けない・・・もちろん、お前にもな?」



下から見上げながらも不敵に、ニッ・・と笑う飛鷹に奏江はさらに心臓を高鳴らせながらも笑い返した。



「もちろん!私も負ける気はないわよ?」



そう答えた奏江は、握られた手首が熱くなっていくのを悟られないように飛鷹の腕を引っ張り立ち上がらせた。
そして
お互いの士気を高めたもの同士は、ここに足りない者たちの帰還を待つことにしたのだった。