†想いを伝えたい    ② | なんてことない非日常

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†想いを伝えたい    ②






 キョーコがバタバタとスタジオを飛び出していったのを蓮は動揺しながら見送った。




(・・・俺は何を動揺してるんだ?・・・本当の気持ちを彼女に聞かれただけじゃないか・・・・そうだ・・・彼女はただの後輩でそれ以上でもそれ以下でもな い・・・たまたま・・彼女との過去や彼女の本当の心に触れたから気になっているだけで・・・・・・・・気になってる?・・・いやいや・・・・あれは気にな るというより・・・・・・)




「れん?・・・・・蓮!?」




「!?・・はい?」




「どうした?ぼーっとして・・・・」




社に声をかけられ、蓮は取り急ぎ似非紳士の仮面をつけて笑った。




「いえ・・・本当に炭酸振っちゃう子なんているんだな・・・って思って?」




「・・・・ふ~ん・・・・なんか・・俺の目にはそうは見えなかったけどなあ・・・・まっ、いいか・・・・『敦賀 蓮』は紳士で温厚、誰にでも平等に愛をばら撒いてこそ・・・だもんな?」




「・・・・・ばら撒くって・・・・・・どんな風に見えたかは知りませんが、もうすぐ休憩時間も終わりですが・・・彼女が戻ってくるまで
休憩でしょうから俺も控え室に行ってきます・・」



「そうか?じゃあ・・・俺はスケジュールを確認しに行ってくるよ」




社と別れ、のそのそと自分の控え室に向かう途中、蓮はキョーコの部屋の前を通った。




『・・・っつ・・・グスッ・・・ふっぅ~~っ・・・グス・・・』




微かだが確かにキョーコの泣き声だった。


一瞬、蓮はその前で立ち止まったが、そろっとその場から離れた。




(・・・なぜ・・彼女は泣いていたんだ?)



蓮は自分の部屋に入り、イスに腰掛けると天井をぼーっと眺めた。




(さっきのことが恥ずかしくて泣いていた?・・・・・いや・・・彼女にそれはないな・・・)




キョーコのことは始め、ふざけた動機で芸能界を荒らしに来た子だと思っていた蓮だったが、病気になった社の代わりにマネージャーをしてくれ、なおかつ病気で倒れそうになった自分に親身になって回復と仕事を全うする手助けをしてくれた。


そう言えば、根性は誰よりも座ってる子だったな・・・と改めて思い返した。


でも、それ以上の感情なんてわかなかった。



しいて言えば、キョーコが復讐なんていうものではなく、純粋に芝居を楽しいと感じ、自分を作っていけると話してくれた時に嬉しさを感じただけだった。



(あれは・・・人の為になんかじゃなく、自分のために人生の時間を使って欲しかったから・・・無駄な時間を彼女が使っていることが許せなくて・・・そんなことをさせている彼も・・・確かに許せないけど・・・この感情は・・特別じゃない・・・ただ・・・彼女のことを昔から知っているから少しだけ・・他の人より気になってしまうだけなんだ・・・・だから・・・さっきのも決して嘘じゃない・・・彼女は少し手のかかる大事な後輩だ・・・・それ以上でも・・・以下でも・・・・)



悶々と考え込む蓮の脳裏に、今回蓮との共演をとても嬉しそうに笑って喜んでいたキョーコの屈託ない笑顔と、さっき蓮が振り返ったときに見た驚きの中にも悲しみが混じった顔が思い起こされた。




(あ~!!くそ!!・・・・・なんなんだ・・・この感情は・・・・・・・)




今まで出会ってきた女の子たちに感じたことのない胸の奥にくすぶる感情。

その名前がわからずに蓮は一人苛立ち、耳に残るキョーコの泣き声に胸を掻き毟った。






結局、憔悴しながらスタジオに戻った蓮は、先に戻ってきていたキョーコを目に留め笑顔で話している彼女に一安心した。



(・・・・あれ・・・?・・・・なんで俺が安心してるんだ?)



複雑に変化する感情に戸惑っていると、蓮がやってきたことに気がついたキョーコが蓮の元に走りよってきた。



「すみません!!ドジで間抜けな私のために時間を無駄に使わせてしまって!!」



来た途端、キョーコはぽきんと折れたかのように深々と蓮に頭を下げた。




「いや・・・事故・・・みたいなものだし・・・休憩時間内に戻ってきたから大丈夫だよ?」




「!・・ありがとうございます!!」



許してくれた蓮にキョーコはいつもどおり笑顔で顔を上げた。



「・・・・・・少し・・・・泣いたの?」



やっぱり・・と思いながら蓮はキョーコの目じりが少し赤くなっているのに気がつき指で触れた。




「!!・・・・こ・・これは・・・・あの・・・・た、炭酸がっ・・目に・・入って・・・・・・・」




「・・・・・・・・・・そうなの?」




「・・・・・・・・はい・・・・・」




「・・・そう・・だったんだ・・・・・・・・」



蓮はそれまでの不安が全て吹き飛んでしまうような気分になり、キョーコにふわりと微笑んだ。




「もう・・大丈夫?」




「!?・・・・は・・はいっ・・・・だい・・じょうぶ・・です・・・」



あまりにも甘やかな微笑みにキョーコのみならず、その場にいた誰もが赤面して硬直した。




「気をつけないと・・・」




「は・・はい・・・すみません・・・撮影に・・響きます・・よね?」




そんなことに気がつきもしないで蓮はまだキョーコの赤くなっている頬を指でさすっていた。



「・・・・これくらいなら大丈夫・・・・・・・!?・・・最上さん?顔・・・すごく赤いけど・・・大丈夫?」




「!!だ・・・大丈夫です!!もう、平気です!!ご心配おかけしました!!ご迷惑おかけしました!!本当に!!本当に申し訳ありませんでした!!!」




キョーコはどんどん蓮から離れながら謝り続けると、スタジオの一番隅まで逃げてしまった。




(・・・・・?・・どうしたんだ?)




硬直している蓮に社は深いため息を付いて、蓮の肩を叩いた。




「フェミニストも純情少女に向けたら、ただの嫌がらせだぞ?キョーコちゃんに嫌われても知らないぞ~?・・・・・まあ、ただの後輩なら・・・いいんだろうけど?」




「・・・・・・・・・・・・何のことかはわかりませんが・・・撮影に響かないように嫌われないようにしますよ・・・」




「・・・ふ~~~~ん・・・・撮影のため・・・・にね~~?」




社の遠い言い回しに蓮はイライラしながら、怯えるキョーコに謝りにいくのだった。