足この記事は以前noteに書いたものの再録になります。ブログの引っ越しに伴い、こちらに移しました。


可愛くてポップ。


そうした今のBLドラマの主流とはかけ離れた作風の「美しい彼」は、日本人が作る日本のBLとは何か、という根本的な問いかけのアンサーのような作品でした。 


新しいBLドラマが発表になる度に耳に入る、一部の人々の否定的な反応。地上波のドラマでは、こうした人たちの目に入る場所で放送するからこそ、配慮に配慮を重ねた、クレームの出にくい優しい世界に落とし込むのは、必然の流れとも言えます。優しくてコミカル。これは今のBLドラマには欠かせない要素です。


 しかし、ここにきてドラマ特区が持ってきたのは、凪良ゆうさんのBL小説の名作「美しい彼」。この小説の中では弱者は虐げられますし、他人を踏みつけて笑う人間が当たり前に存在します。言ってみたら、流行とは逆行する悪意に満ちた厳しすぎる世界。 


この原作をあえて持ってきた時点で、一発かましてやるぞ、という制作サイドの本気が見えるような気がして私は震えました。批判上等で優しくない世界、そしてポップではない耽美系を地上波でやろうとする意気込み。加えて、主演の一人がLDH。皆さんもうご存じでしょうが、LDHが美形を投入したBL作品にハズレなし。BL打率が高すぎるLDH。


 ともすれば、原作のきもドロ要素をごっそり抜かれるのでは、との心配は杞憂に終わりました。おそらく海外配信を意識しての、平良宅の古民家設定や、美しい日本の田園風景に彩られた世界観。地上波でやれるギリギリの塩梅でのいじめ&パシリ描写。そして一話ラストでしっかりぶっ込んできた、平良の自慰シーン。かすかに仄暗くて湿った、日本特有の粘度と苦味のある二人の関係性。 


そもそも日本のBLの始祖は「風と木の詩」と言われているので(※諸説あり)、本来こういう悪意と傷にまみれた中に咲く愛は、日本BLの十八番とも言えます。私はこのドラマの根底に、「風と木の詩」や「トーマの心臓」の鼓動を確かに感じました。今の流行とは違うけれど、古の日本BLの源流をくむ作品が地上波で流れた喜び。 


そして何より主演の二人が素晴らしかった。 子役出身でキャリアのある萩原さんは、神経の行き届いた細やかな演技で、キモいけど上品さは失わない平良を。そしてまだ演技の経験が浅い八木さんは、だからこその生っぽい感情表現で魅せること魅せること。


 常々思うのは、演技ってテクニックだけではないんですよね。その役者が確かに役を生きていると思える瞬間があって、八木さんの演技は完璧ではないけれど、清居という核をしっかり掴んだものでした。表情のつけ方がものすごくうまく、役者としての勘の良さとポテンシャルを十二分に感じました。


 それにしてもLDHのすごいところは、主人公の長谷川さん、チェリまほの町田さん、絶対BLの塩野さん、この作品の八木さんと、海外でもうける美形を惜しげも無くBLに投入できるところ。


中国で人気の片寄さんもそうですが、LDHの美形って、日本の基準からするとやや濃いめの顔立ちの方が多いです。日本の人気俳優は、日本的な塩顔とちょい癖のある顔立ちの雰囲気イケメンが多く、この手のタイプはあんまり海外ではうけません。ファン以外にはマイルドギャングくらいにしか思われていないLDHが、実は世界標準の長身美形を揃えていることは、もっと評価されてもいいのではないかと思います。


 最終回のラブシーンから逃げない姿勢と、地上波で制約がある中でどうエロティックさを滲ませるか。酒井監督の撮る美しい白昼夢のような映像美で紡がれる、平良と清居の心と体が結ばれるクライマックスは、どこか懐かしく、しかし目を見張るような鮮烈さがありました。まさに古と令和の融合。


このドラマはBLで、他に代替する何かではなく、あくまでもBLとして素晴らしいものを作る。それを最後まで貫いてくれたのが、一番良かったと思います。 


そしてもう一つ忘れてはならないのが、 BLを見ているときにたまに感じる、「ちょっと見てられない」「役者さんにこんなにやらせていいのかな」的な気恥ずかしさが、この作品にはあまり感じなかったこと。


ラブシーンをやるときに役者が一瞬でも迷い、腰が引けていると、それは必ず視聴者に伝わります。 BLのラブシーンを見ていてこちらが気恥ずかしくなるのは、役者や演出が未熟だからです。「美しい彼」にはそれがなかった。主演の二人のBLをやり切る覚悟みたいなものが、最後までバシッと決まっていたからではないでしょうか。これ、意外と難しいです。 


流行りの可愛くてポップなBLも私は好きです。数が増えた分、最近の日本のBLドラマはどれも丁寧に作られていて、見応えがあります。その中で、優しくない、悪意の存在するBLが、これほど叙情豊かに、全てのピースが有機的に組み合わさって名作となり得たことが、私は本当に嬉しいです。 


続編、楽しみにしてます。素晴らしいドラマを見せてくれて、ありがとうございました。 



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