三角関係、及び、仲良し3人組というのは不毛なものです。3は割り切れない数字ゆえに、必ず1人が余り、弾かれます。


言い換えれば、3人の関係には、必ず勝者と敗者がいるということ。平等な関係ではないからこそ、そこにドラマが生まれるわけで。


男性カップル×女性の三角関係は、最近だと「プリズム」が放送されたばかりです。あちらは出産云々の展開にはなりませんでしたが、「モアザンワーズ」も含めて、橋口監督の「ハッシュ!」が、時代を越えてもう一度巡ってきている感じがあります。


 

 


「プリズム」は良くも悪くも、NHKらしいお行儀のいい終わり方で、3人がそれぞれ新しい未来を歩んでいく、前向きなお別れエンドでした。3人のうちの誰も弾かれず、等しく痛みを分け合って成長して去っていきました。


一方で、三角関係の不平等さ、弾かれた1人の苦しみと淡い地獄を描いているのが「モアザンワーズ」。


(下差し以下、ドラマのネタバレ有)


高校の同級生で親友の美枝子と槙雄。槙雄はバイト先で永慈と出会い、恋に落ちる。周囲に交際を反対される中、美枝子は2人が一緒にいられるために、2人の子どもを産もうとする。


あらすじだけ読むと、なんでそうなる?てなりますよね。随分苛烈な話というか。


でも実際にドラマを見ると、いい意味でそれほど劇的な話ではないんです。長い一生のうちの、若者だった頃の一時を、こんなことがありました、とすくい上げている感じ。


連続する長回しとだらだら続く会話。今時だけどどこか懐かしい音楽。東京とは違う、京都の町並みや川辺の景色が、なんだかすっと胸に染み込んでいく。


BLとして萌えるとか萌えないとか、見てると段々どうでもよくなってくるんですよね。そもそも前半は、厳密にはBLではないですし。


ひと昔前の映画「ハッシュ!」のほうが、むしろ令和の今の感覚で、新しい家族像を提示していたのに対し、「モアザンワーズ」のほうは、男性カップルが別れ、一方がヒロインと夫婦になって家庭を持つという、従来のオーソドックスな家族像に収束していくのが興味深かったです。


相変わらず濁った透明感(矛盾する言葉だけど)ほとばしる藤野涼子の演技力が、このドラマを牽引してます。美枝子役は下手な女優がやったら、ただのひねくれた地雷女になるところを、なんか周りが放っておけなくなるような、危うい繊細さを出しているのがさすが。


あとファッションのセンスが好きでした。ちらっとしか出てこない萌歌ちゃんの着こなしとか可愛くて。


2人のためを思って行動した結果、マッキーから全てを奪うことになる美枝子というヒロインを、どう見るかで、このドラマの受け止め方は変わってくる気がします。


でも個人的には、父親に別れろと告げられたときに、親の会社なんて辞めて、マッキーと一緒に生きていくと啖呵を切れなかった永慈が、一番弱かったと私は思います。


マッキーの犠牲の上に成り立つ家庭の幸せを、わりと素直に受け取ってしまう美枝子と永慈の残酷さは、原作を読んだときに正直ぞっとしました。永慈よ、君は一体誰が好きだったんだ。ドラマはその辺の2人の葛藤が、少し足されていたのでホッとしました。


久々に三角関係の敗者が味わう地獄を、ドラマで見た感じ。でもこれが本来の結果で、3人いれば、やはり1人は負けるわけです。この不平等さこそが、3という数字の末路。


あとこれは書いておきたいのが、ラブシーンが終始攻めてて、本当にこれ日本のドラマか?と目を疑いました。やればできるじゃん!なんでいつもやらないんだよ…!(心の叫び)


3人が一緒にいるために、他に必ず方法があったはずなのに、それを考えられなかった若さと浅はかさを、愚かだと笑うのは簡単だけど、そういう後悔や誰かを切り離した苦味を抱えて、それでも人生は続いていく。


良い俳優、音楽、映像が3つ揃った、痛みの深い若者たちの青春ドラマです。Amazon prime制作。


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