星【この記事は、2022/6にドラマがFOD配信していた時に、noteに書いたものの再録になります】



2022年初夏。スーツが慢性的に枯渇しているBLドラマ界に、救世主現れる。

『オールドファッションカップケーキ』

かつてポルノグラファーで、湿った隠微さとホラーっぽい美意識に満ちた画面作りで、一般受けとは一線をかくしたBLを配信して当てたFODが、再びやってくれました。 


長らく待ち望んだリーマンBLの良作に、久々に書かずにはいられませんでした。こういうのが見たかった。


BLドラマってどうしても売り出し中の若手を起用することが多いので、アラサーの役者を使うリーマンものって本当に少ないんですよね。日本のBLドラマのメインのファン層は、おそらく30代以降の女性なので、もうちょい大人BLの需要が掘り起こされてもいいのではないかと、常々思っていました。


若い男の子たちのわちゃわちゃを見るのは楽しいけど、やっぱり大人は大人の恋愛が見たいときもある。


加えて、現在日本の恋愛ドラマは、ほぼ壊滅状態にあります。かつて恋愛ドラマの代名詞だった月9はミステリーと医療路線に変更。ゴールデンのドラマで恋愛メインの作品ってもうすぐには思いつきません。恋愛寄りの枠は火10くらいで、あとはせいぜいお仕事ドラマに恋愛要素が付属するだけ。深夜帯は一見恋愛ドラマが多いようでいて、大抵は不倫&ドロドロ系です。


2人が出会って惹かれ合い、結ばれる。今、見たいのは、そんなシンプルな恋愛ドラマなんですよね。


でもそんなシンプルさになかなか巡り合えない。それが令和の日本のドラマの現状です。


そういう恋愛ドラマ砂漠期に、ほとんど唯一、真っ直ぐに恋愛を描けるジャンルとしての役割を、BLドラマは今、負っていると思います。


外川の半ば強引な提案によって、それまでの安全で退屈なルーティンを崩していく野末さんのあたふたぶりは、アンチエイジングというより、むしろ人生後半戦の生き直しといいますか。中年の成長物語のようにも見えます。


年齢を重ねてからの恋愛って、貴重な休日にたっぷり寝て過ごして、たまった家事を片づけ、サブスクで映画見てと、そういう無駄だけど必要なだらだらを犠牲にしてまで相手との時間を費やせるかにかかってきます。


四十路手前の野末さんの醸し出す、諦めにも似たオーラを、若い鮮烈さと熱で打ち消していく外川の対比は、ああ、恋愛ってそういやこういうものだよね、と胸の奥底をぐっと刺すものがありました。


相手の情熱や価値観に、自分が塗り替えられていく感覚。全5話の短い話数で、このドラマが描いていたのは、ひたすらに若い外川の荒々しさに満たされていく野末さんの変容でした。



これはあくまで私の意見で、全てのBLに当てはまるわけではありませんが、個人的にはBLにおいて、攻めの俳優のほうが演技力が求められる場合が多い気がします。


攻めはその名の通り攻めますので、能動的に動いて玉砕して傷ついたり、ラブシーンではリードしたりと、求められる感情や技巧の幅みたいなものが少し大きいんですね。常にアクション起こす側の外川役の木村達成さんの確かな演技力が、野末さんを変えていくストーリーに説得力をもたせていました。丁寧な態度に隠されたオスっぽい強引さがうまい。本当にうまい。


長身で濃いめのイケメン、細マッチョでBL出演となると、LDHか?と思いたくなりますが(私だけ)、舞台の方ですね。ははは。舞台役者特有の癖もなく、4話のキスシーンからの一転、崩れ落ちる慟哭は目をみはる出来。ペタっと口つけるだけのキスじゃないキスシーンは、日本では貴重なのでは?判を押したようなラブシーンでは萌えないんだよなぁ。やっぱりそこに感情の高まりをのせて欲しい。


武田さんのふわりと滲むような存在感も心地よく素敵で、2人の身長&体型差も完璧でした。仮面ライダー俳優はやはり選ばれし者だなと痛感。


地上波だと一般層に過剰に配慮する作品もたまにありますが、配信ドラマだけにその辺の問題も難なくクリアして、配信主体で日本BLを作る可能性みたいなものを、改めて感じさせてくれる作品でした。BLというジャンルは本来何でもありなので、もう少しラブコメ以外も増えて欲しいと思っていたところなので。


大人は大人ゆえに、何をすれば恥じをかくか、傷つくか、経験から知っています。見せたくない部分までさらけ出しても相手が欲しいと思ったときに生まれる迷いや揺らぎ、欲望が、やがて高まり、そしてついに結ばれる。


こんなにシンプルで心に染みる恋愛ドラマが、BLとして世に放たれたことが、何だか無性にありがたくもあり。原作も大好きなので、また実写の野末さんと外川に会えることを期待して待ちたいと思います。