物心がついた時には既に父親はいなくて、母ひとり子ひとりの生活だった。
小学生になって、その頃から時々母さんが体調を崩すようになったけど
「これくらい大丈夫よ」
「雅紀は心配しなくていいからね」
母さんはいつも笑っていたから
まさか、そんなに悪い病気だったなんて、死んでしまうほど悪かったなんて全然知らなかった。
母さんがいなくなると同時に、翔さんがオレの前に現れた。
母さんの弟で、オレの叔父だと言ったその人は、直ぐにオレを自分の戸籍に入れた。
「相葉雅紀」から「櫻井雅紀」になったオレ。
戸籍上、翔さんはオレの父親で、オレは彼の子どもになった。
さっき潤さんが言った
「お前はこのうちの子」
それは嘘じゃない。
嘘じゃないけど……
オレは多分、翔さんに嫌われている……と思う。
あからさまに無視されるとか、暴言を吐くとか、そんなことは一度もないし、むしろ、欲しい物や必要な物は全て買い与えてくれるけど
オレを見る目が時々
時々冷たく感じることがある。
嫌われてるくせに
なのに、翔さんのことが好きだなんて
誰にも言えない。
このうちの子でいるなら
翔さんの傍にいたいなら
絶対誰にも言っちゃいけない。
「よし、出来た!」
誰もいないのに、意味もなく明るく振る舞ってみる。
赤と緑、色違いのハンカチで包んだ弁当を前に、オレは今日も自分の感情に蓋をした。
つづく