「必ずしも真実を知ることがいいとは限らない」
なんて言ってはみたものの、カズの言いたいことは十分過ぎるほどわかる。
わかっている。
あの女がしたことは本当なら警察沙汰もんで、到底許されることじゃない。
櫻井だって、本当に一歩間違えれば俺達の元に帰って来れなかったかもしれないし
雅紀だって......
「だいたい、忘れるとか有り得ないだろ」
それも、あの女にとって都合の悪いとこだけ覚えてないとか
「マジで有り得ないし」
でも、雅紀は
俺の弟は、それでいいと言う。
「別に無理して思い出すことないよ」
もしかしたら、いつか思い出す日が来るかもしれないけど
「それまでは......ね、」
「......ったく」
優し過ぎるというか
人が良過ぎるというか
今よりもっと大人になった時、その優しさが仇にならなきゃいいが。
会社宛に送られてきた櫻井からの退職願い。
ずっと保留のままだったけど
「もう必要ないよな」
こんなのを送り付けてきたことさえ、アイツは覚えていないかもしれないし。
引き出しから取り出した白い封筒を、俺は迷うことなくシュレッダーにかけた。
「さぁて、」
新年を迎えたら、散々心配させられた分
「これまで以上にこき使ってやらないとな」
覚悟しとけよ、櫻井。
つづく