正直、何が起きたのか直ぐにはわからなかった。
でも、まるで俺を庇うように倒れ込んだ彼の背中が見る見るうちに赤く染まって
その直ぐ傍には、血のついた小さなナイフを手に呆然と立っている結子がいた。
そこから先の俺は、ただ彼の……雅紀の名前を呼ぶことしか出来なくて
気づいた時にはベッドで眠る雅紀の横にいた。
結子は、迎えに来た職場の同僚って奴と一緒に帰って行った。
きっと雅紀の兄貴か、あのカズって男が連絡したんだろう。
アイツらは、結子のことを色々調べていたようだから。
俺の婚約者だというのは嘘だったけど、それでも彼女は入院中の俺を色々気遣い、支えてくれた。
いつも笑って
いつも優しく
それなのに、まさか入院することになった、記憶を失うことになった原因が
単なる俺の不注意じゃなく、全て彼女の手によって仕組まれたものだったなんて。
しかも、何も関係ない雅紀のことまで傷つけて……
だいたい俺のことなんか放っといてよかったんだ。
いくら知り合いとはいえ、わざわざ俺を庇って、負わなくていい傷まで負って
「どうしてそこまで……」
雅紀、
お前にとって俺は
俺にとってお前は
いったいどんな存在だったんだ?
つづく