櫻井は結子さんの気持ちに答えられないと言ったけど、それは本心なんだろうか。
本当は結子さんのこと、好きになりかけていたんじゃないだろうか。
結子さんを拒んだことに、オレは関係ないと言った。
記憶がないから
記憶が戻ってないから
それは仕方ないのかもしれないけど
櫻井……
お願いだからオレを見てよ。
誰もが二人のやり取りに気を取られている中、それは起こった。
ソファーに座り、涙を拭いながら必死に櫻井に思いを伝えようとしていた結子さんが
「記憶なんか、あの時全部なくなってしまえば
よかったのに」
呟くようなその内容は、オレにはよく聞き取れなかったけど
次の瞬間、結子さんがスカートのポケットから何かを取り出し、それを大きく振り上げた。
「危ない、櫻井!」
キラリと光ったそれがナイフだとわかったのは、背中に焼けつくような痛みを感じたから。
「雅紀!」
「まぁくん!」
「お、おい、お前!!」
「櫻井……」
雅紀だよ
「え?」
「お前じゃなくて、雅紀って……」
雅紀って呼んでよ、櫻井
「お願い……だから……」
「……雅紀、」
おい、しっかりしろ!おい!
「雅紀、雅紀!」
よかった
櫻井がオレの名前、呼んでくれた。
そこでオレの記憶はプツリと途切れた。
つづく