「氷見の寒ブリはちょっとちゃうで」と誰かに聞いたのは何時のことだったでしょうか。何故かその記憶には富山湾から真っ白にそそり立つ、真冬の雪の立山連峰とセットになっています。その「ヒミノカンブリツアー」に2月17、18日と行って来ました。
17日は一日中横殴りの大雨で、この調子では雪の立山連峰は無理だろうなと思いながら就寝、夜中に目を覚まして空の様子を窺うと、なんと「月にむらぐも」、早く流れる雲の間から明るいお月さまが時折顔をだしています。この調子なら朝は快晴になりそう、立山連峰からの日の出が見られるかも知れない、とひそかに期待して再度床につきました。朝6時起床、カーテンを開けるとまだ暗い中、漁火が点々と灯っています。
ここ氷見の「くつろぎの宿 うみあかり」は道路一本をへだててすぐ富山湾、私たちの部屋は4階の一番奥、じっくりと夜明けを楽しめそうです。中空にはほとんど雲が無く、立山連峰のかたちそのものに黒い灰色の雲が覆っています。漁火が一つ二つと消えてゆくとようやく、雲の上にぽっと薄いピンクの明るみが顔を出しました。
それから小一時間、連峰をほぼ覆って動かぬ雲と、その上を左から右に流れていく形を変えてゆく黒い雲が、素晴らしいスペクタクルを見せてくれました。流れてゆく黒い雲はお日様が昇るにつれ、黒から灰色に、灰色から白に、そして白から金色になって空に飲み込まれてゆきます。次から次へと流れる雲は一つとして同じ形ではありません。そのうちうごかぬ山腹の雲から一点強い光が差し込みました。動かぬように見えた山腹を覆う雲も動き出したのです。
次から次へと雲たちが光を浴びて色、形を変えてゆくのを眺めているうちに、不思議なことに気付きました。太陽が昇って来るのではなくて、雲が太陽が光っている方へ傾いていっている。ややこしい言い方をしましたが地球が自転しているので、高い方の雲から順に色が変わっているのだと感づきました。当たり前のことながら大発見をしたような思いにちょっと興奮していました。そして陽が昇り切ると暗い海面に真っすぐ私に向かって金色の光の帯が走りました。しかし残念ながら山々は雲に隠れたままでした。
肝心の寒ブリですが昨夜のディナーはぶり懐石、刺身、しゃぶしゃぶ、ステーキと三役そろい踏み、特にステーキは初めての触感、誠にグーでした。ぶり以外も地元の食材がほとししゃも、青のり、昆布かまぼこなどなど。地方へ行くと京料理まがいの豪華(風)な料理が多い中で、朝食も含め天ぷら、茶碗蒸しが無いという徹底ぶりでした。
昨日はサンダーバードで金沢駅下車、すぐ観光バスに乗り換えて千里浜なぎさドライブウェイ、妙成寺、花嫁のれん館を経て、「くつろぎの宿 うみあかり」へ。千里浜なぎさドライブウェイは世界で三か所しかないという渚ドライブ、砂の粒子が固まってアスファルトのようになる微妙な偶然が珍しいドライブコースを作っています。当日は日本海を吹き渡る強烈な西風のため中止。
妙成寺は北陸で唯一五重の塔を持つ日蓮宗の古刹、解説には日像上人が日蓮上人の命により妙法を京都に広めんとして1294年都上がりの途中、一寺を建立、とありますから、前々号で紹介した本法寺より100年ほど古いのでしょうか。十棟の堂塔伽藍を持つなかなかの寺院、特に高台にそびえる五重塔は優美かつ壮大、奈良京都の五重塔に決してひけはとらない佇まいでした。
花嫁のれんは能登・加賀・越中で続いている婚礼の風習だそうです。実家の紋を入れた花嫁のれんを婚家の仏間の入口にかけてくぐります。ご先祖にお参りした後、結婚式が始まります。加賀友禅で染められた数々ののれんは見事でしたが、式後ほとんどの家では箪笥の奥にしまわれ二度と使われませんでした。振袖とほぼ同じ価格だそうで最近では少なくなっているようです。
さて今日はひたすら帰るだけ。氷見から新高岡までは「べるもんた」、新高岡から金沢へは北陸新幹線に15分乗車、金沢からはサンダーバードで一路京都へ。べるもんたという聞きなれない愛称は、Belles montagnes et mer(ベル・モンターニュ・エ・メール・・・フランス語で「美しい山と海」)の略称だそうです。富山湾から一気に聳える立山連峰を30分ほど車窓に見る眺めは、決して名前負けはしていません。しかし朝方の黒い雲が、白い雲に変わっただけで、白銀の山々は姿を表しませんでした。聞けば姿を表すのは一年で22日だけだそうです。
氷見駅で列車待ちをしている間、興味のあるものを見つけました。「氷見のちゃんばち」分厚い白色の大振りの陶器に、青で「虻が島と立山連峰」が描かれています。も一つには「網起こし」朝見ていた漁火を思い起こさせました。「ちゃんばち」は茶碗鉢がなまったものか。氷見の漁師は2食分の握り飯とこのちゃんばちを持って沖に出るそうです。とれた魚で汁をつくり、ちゃんばちに掬っておかずにする。野趣にあふれた形と図柄に魅かれて氷見青年会議所から後日送ってもらいました。これで食事をするのを楽しみにしています。