10月の中頃、下京税務署から電話がありました。税務署からの電話は珍しくもないことなので出てみると、税理士業務実態調査で当事務所を訪問したいとのこと。この調査が存在することは当初から知ってはいましたが、開業50年目にして初めて受けるとは、いささか面喰らいました。早速税理士法を開けてみると、法41条に帳簿作成の義務として「税理士は税理士業務に関して帳簿を作成し、委嘱者別に、かつ、一件ごとに、税務代理、税務書類の作成、又は税務相談の内容及びそのてん末を記載しなければならない。2前項の帳簿は、閉鎖後五年間保存しなければならない。」また法44条には「税理士に対する懲戒処分は、次の三種とする。一・戒告、二・二年以内の税理士業務の停止、三・税理士業務の禁止」とあります。いささか緊張しますね。
毎月、法人の申告はあります。2,3月の確定申告機には個人の申告が重なります。その一件一件に、内容とその顛末を記録し、保存しておくのはかなりの手数が必要です。これを業務処理簿と言いますが、大抵の税理士は横着をかましているようです、私もその伝に漏れませんでした。しかしTKC(飯塚先生といった方がいいのか)は有り難いところで、申告書を作成するごとに自動的に出てきます。私は毎月それに目を通し捺印していますので大丈夫のはずでした。
11月9日10時きっかりにノックの音がしてお見えになりました。お互いに名刺交換をすると、「下京税務署、課長補佐○○○」とあります。比較的お若い方でした。まず最初に国税庁の使命の説明がありました。「納税者の自発的な納税義務の履行を適切かつ円滑に実現する。」そのため①内国税の適切かつ公平な賦課及び徴収の実現②酒類業の健全な発達③税理士業務の適正な運営の確保。(ここまで書いて気がついたのは、たった三行足らずの役所の文章は漢字が多くて真っ黒ですね。私の平文と比べて見て下さい。)
さて「税理士業務の適正な運営の確保」のための質問が始まりました。あとで記録を見ると45件あったようです。大別すると外形的なもの(事務所の所在地、名称の確認や看板の設置場所、職員数、会計ソフトの種類の確認、パソコンの台数など)。職員への指導監督(就業規則の有無、指導監督の実態、研修の有無)前述の業務処理簿に代表される税理士法に定められた文書の作成、保存の状況、の三つだったでしょうか。
質問は多岐に渡りましたが、昔話や雑談も交えながら淡々と進み、ほぼ1時間ほどで終えました。私はそれぞれの質問に答えながら、その証明に一つずつ書類を提示し、了解を得るものと思っていたのに、現物での確認はほとんどありませんでした。いささか拍子抜けでした。というのも業務処理簿、毎月完璧に揃っているものと思い込んでいたのですが、ところどころ抜けがあったそうです。そう言えば申告の確認は厳密にチェックしていますが、処理簿の有無までのチェックはおろそかでした。それに対し何らかの注意や意見があるかと考えていたのに、期待外れに終りました。勿論質問のすべてに裏付けを取っていれば一日では終わらなかったでしょう。
それにしてもTKCシステムを、事務処理面まで完璧に使用していれば、法的にはほぼ完ぺきに網羅できていることに改めて気づきました。それにしても飯塚事件(飯塚毅会計事務所に対し、昭和38年に脱税示唆容疑で職員4名の逮捕で始まり昭和45年に終了した冤罪事件。)は関東信越国税局の直税部長が課長補佐時代に、日米租税条約の解釈で飯塚先生に論破されたことを根に持って、明らかに飯塚事務所つぶしを目的に起こった事件なので、脱税示唆容疑はもとより、細かい書類作成の漏れ、保存状況等に至るまで徹底的に調べたはずなので、それに堪え切れたのは飯塚先生の徹底した法律の読込と、それに基づく467ページにも及ぶ「飯塚毅会計事務所・管理文書」(わが事務所にも2冊存在していますが活用できてないのが恥ずかしいですね)の有効活用の結果だということが、改めて分かりました。
この種の調査は私が所長を続けている間はまずないでしょうが、事務所の存続と顧問先への責任を考えるとき、TKCシステムを完璧に使い、事務所防衛に遺憾なきよう手抜きをしないことを、全員で改めて確認しました。