小説です。「百輪村物語」の第三部です。

 

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登場人物名は、アルファベット表記です。

(和名と英名の、覚えやすい方で読んでください)

 

 
【今回の登場人物たち】
百輪村の人
V(元SE・パートタイマ) 美々 ビビ
D(大工)         大吾  デイビッド
E(村長・教諭)     栄一  エデン
K(理容師・Eの妻)    加恵  カーラ   
 
草切村の人
草切マーケット・店長  (No Name)
α(パートタイマ・気弱) 在子  アルマ
δ(パートタイマ・賛同) 丑実  グロリア
γ(パートタイマ・強気) 寅代  デイジー

 

 

 

見えないみかた(2)

 
 
 

パートの仕事が終わり、私は百輪村に向かいます。

 

足取りが重いです。

なんか、もう、あそこのパートやめようかな、

っていう気分になってきました。

 

なんでこんなに、気分が重いのかしら。

γさんとδさんの話を聞いてから、なのよね・・・。

 

百輪村と草切村の間にある川の橋の上で、

買ったばかりの煙草を一本吸いました。

 

「悩みがあるなら、誰かに相談しろよ」

って言ってたDさんの声を思い出します。

 

「・・・誰かに相談しろ、って言われても。

 相談できる人なんて、いないし。

 シティでも、百輪村でも、草切村でも、

 どこへ行ったって、うまく立ち回れない。

 この橋の真ん中にしか、居場所がないわ・・・」

 

手すりに頬杖ついて川面を見ながら、

ぼけーっと煙草を吸っていると、

「V」って声をかけられたので、振り向きました。

 

声の主は、スーツ姿の百輪村の村長、Eさんでした。

 

ふだんは穏やかで、でも誰の話にも耳を傾ける人。

たまに村同士の会議があるそうなので、

今日はその帰りなのかも。

 

「おいしそうに吸ってるね。一本もらっていい?」

「え?村長も煙草を吸うんですか?」

「昔はよく吸ってたけど。今は全然だよ」

「へー、そうですか。もちろん、どうぞ」

 

私が箱とライターを差し出すと、

礼を言った村長は手馴れた様子で吸い始めました。

 

橋の手すりに片腕を載せて、

ゆうゆうと煙を吐く姿は、

ちょっとどこかのメンズモデルみたいな村長です。

 

「・・・Vは仕事がきついのかなぁ?」
しばらくしてから、村長が
川の向こうに目線を向けたまま、ぼそっと言うので、

なんとなく、今考えてることを言いたくなりました。

 

「レジ打ち自体は、あくびが出るほど簡単ですよ。

 でも、人間関係って、そんな単純じゃなくて」

 

「うん」

 

「私って、どこに行っても浮いちゃうんですよね。

 いっつも言われるんですよ、『空気が読めない』

『冷たい』『変わってる』って・・・。

 

 言ってる人は、気づいてないかもしれないけど、

 それって、悪口ですよ、私にとっては。

 

 いろんな意見があってもいいはずなのに、

 私の意見って、いつも拒否された上に、

 人格否定までされちゃうから、凹みますよ」

 

「職場で言われたの?」

 

「ええ、そう。前にアチダ国で

 システムエンジニアやってたときもだし、

 さっきもパート先で言われたし。

 

 百輪村でも私の改善案が一つも通らないし。

 なんか、色々、うまくいかないですよ」

 

「そうか・・・」

 

私はちょっと涙目になったけど、

村長の前で泣くわけにもいかず、ぐっとこらえました。

 

村長はまたひとつ煙を吐いて、

少し黙っていましたが、こんなことを言いました。

 

「・・・ねえ、V、

 百輪村の名前の由来、覚えてるかい?」

 

「えっと、一つの善意が百の輪に広がる、っていう、

 波紋の意味ですよね?」

 

「そうそう。

 私が思うに、Vの存在は、

 うちの村の名前と同じで、

 一石を投じる役目があるんじゃないかな」

 

「一石を投じる?」

 

「周囲に、何かしらの変化を与えるんだよ。

 

 Vが、思いやりの気持ちで発言してるなら、

 それは絶対に、良い波紋になる。

 

 だから、大丈夫だよ。

 君は君のままでいて、いいんだよ」

 

「・・・そうですかねえ」

 

私は手すりから川の流れをじっと見て、

(だったらいいけど)と思いました。

 

 

(続く)