伝統派空手のみならず、殆どの空手では
型(形)
があります。
型は空手の伝統を継承する上で欠かせない稽古法です。
よって、本質的な意味では「型があってこそ空手」と言えます。
しかし組手に勝つ事を目的とする場合、型稽古の効果がわかりずらいと感じる人が多くいます。
中には型稽古を全くしない人もいます。
その事から、空手の先生の中でも、組手に齎す型稽古の効果について意見が分かれます。
そこで今回は、各流派による型への考え方ではなく、
スポーツ的観点による型稽古の効果
について解説します。
・ボディコントロール
ボディコントロールとは、
「身体をイメージ通りに動かせるか?」
という事です。
ボディコントロールは、立つ、歩く等のようなシンプルな段階から、
複雑な型の動きを演じる事ができる
組手中に思い通りに動く事ができる
といった高度な段階まであります。
当然、いきなり複雑なボディコントロールをしようとしても、多くの人はできません。
稀に初めから複雑なボディコントロールをできてしまう人がいますが、そのような人は通称“天才”と呼ばれます。
しかし多くの人は天才ではない為、シンプルな動きからボディコントロールを確認する必要があります。
元陸上競技選手の武井壮氏は
「スポーツは、まず技術練習する前に、自分の身体を思ったように動かす練習をしておくのが一番大事」
と主張しています。
ボディコントロールの例として、
「目をつぶった状態で両腕を水平な位置に上げる」
を紹介しています。
完璧に水平な位置に挙げる事ができるようになれば、
「水平を基準にちょっと上、ちょっと下も思い通りにコントロールできる」
と述べています。
逆にイメージと実際の動きに乖離がある状態で技術を覚えても、正しい形や動きを覚える事ができないと言えます。
このボディコントロールの考え方は空手の基本稽古や型稽古が当てはまります。
例えば、
正拳中段突き
拳の高さは鳩尾前
という動き一つとっても、最初は鳩尾前に突けていない場合があります。
そこで、先生に指摘を受けたり、鏡を見る等によって修正し、鳩尾前を覚えます。
鳩尾前の高さを正確に覚えれば、
膻中(胸部中心)
首下
等、突く場所が異なっても調整ができるようになります。
但し、一度基本動作のフォームを覚えた際、その後惰性で基本動作を反復すると、返ってボディコントロールが低下する場合があります。
例えば、突く高さを鳩尾前で覚え、その後惰性で反復した場合、
膻中の高さに突く
首下の高さに突く
と指示されても、突く高さが鳩尾前のまま変わらない場合があります。
この現象は簡単に述べると「癖になった状態」です。
ひいてはボディコントロールの観点から、
「身体をイメージ通りに動かせていない状態」
になっているのです。
このような「癖になった状態」を防ぐには、基本動作を行う中で、流派の規定として突く高さが定められていたとしても、
(今日は鳩尾前の高さの一ミリ上)
(今日は鳩尾前の高さの一ミリ下)
と、微調整する意識を持ちます。
そうすると、惰性化による癖を防ぎ、ボディコントロールの低下を防ぐ事ができます。
・SAQトレーニング
SAQトレーニングを一言で述べると
「スピードを高めるトレーニング」
です。SAQとは、
スピード(Speed)
アジリティ(Agility)
クイックネス(Quickness)
の頭文字からきています。
スピードとは重心移動の速さ
アジリティとは運動時に身体をコントロールする能力
クイックネスとは刺激に反応し速く動く能力
の事を言います。
これら能力は全て型稽古で高める事ができます。
型稽古では前、横、斜め等、様々な方向への重心移動を行います。
よって、重心移動の速さ、すなわちスピードの向上に繋がります。
型稽古では様々な動きを行いながら素早い方向転換を行います。
よって、運動時に身体をコントロールする能力、すなわちアジリティの向上に繋がります。
型稽古には様々な種類の型があります。
よって、ランダムで指示された型を行う事で、刺激に反応し速く動く能力、すなわちクイックネスの向上に繋がります。
・クロストレーニング
クロストレーニングとは1つの種目にとらわれず、複数種目の運動を行う事です。
例えばまランナーは毎日走るのではなく、水泳や自転車等の走る以外のトレーニングに取り入れます。
特定の競技を毎日行っていると、鍛えられる筋肉や機能などに偏りが生じます。
その偏りが原因となって、不調や怪我に繋がる事があります。
そこで、特定の競技だけでなく、複数種目の運動を行うクロストレーニングによって、普段使っていない筋肉や機能に刺激が与え、バランスよく鍛える事ができます。
ひいては不調や怪我の予防に繋がる事が期待できます。
空手に於いても同じ事が言えます。
組手に主軸を於いた稽古は、どうしても左右差に偏りが生じます。
よって空手家も、空手以外のランニングや水泳などを行う事はクロストレーニングの観点に於いて効果的です。
その観点に於いては、
組手稽古をメインに取り組んでいる人が型稽古を取り入れて行う
事も、クロストレーニングと同様の効果が期待できます。
組手と型は動きが異なります。
「何故異なるのか?」については本題と異なる為割愛します。
純粋にスポーツ的観点で捉えた際、組手と型の違いは、時に混乱や疑問を証座させるデメリットがあります。
しかしクロストレーニングの観点に於いては、
「組手と型の動きの違い」
「多種多様な型の存在」
は、普段使っていない筋肉や機能に刺激が与えられ、効果的に働きます。
このように型稽古には、
・ボディコントロール
・SAQトレーニング
・クロストレーニング
の効果があります。
型に対する考え方や捉え方は各流派によって違いがあります。
ここではあくまでスポーツ的観点から見た型の効果について解説しました。
参考にしていただけると幸いです。
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