鍛冶俊樹の軍事ジャーナル

(2025年12月17日号)

*トランプは変節したか?

 現在進行中の日中対立において、トランプ大統領が日本寄りの発言をしないので、米国の姿勢について疑問の声が挙がっているようだ。1970年代のニクソン訪中、1990年代のクリントン訪中と過去幾度かに渡って米国は、日本を見捨てて中国に着くという戦略転換を成し遂げているから、この疑問はある意味で当然だと言えよう。

 

 だが現在のトランプの対日姿勢は、戦略転換ではない。そもそもトランプは日本の台湾に対する姿勢が不満なのだ。というのも日本の物流の8割は台湾海峡を通っている。従って台湾海峡が封鎖されて直接的な打撃を受けるのは日本であって米国ではない。

 ならば、台湾有事に際して台湾を守るべきは日本であって、米国ではない筈だ。ところが日本は「台湾を守る」とは絶対に言わない。高市答弁も台湾有事は日本の存立危機事態になる可能性を言っているだけで、従来の政府見解と変わらないのである。

 

 だが、高市答弁に対し中国総領事の薛剣が暴言を吐いて、国外追放の危機が生じたため、習近平がトランプに電話で泣きついた。

習近平「高市が台湾を守ると暴言を吐いたのが、そもそもの原因だ。高市に答弁を撤回するように圧力を掛けてくれ」

トランプ「高市がそんなことを言ったのか。そりゃー凄い。わかった。すぐに確認する。」

翌日トランプは高市に電話して「日本が台湾を守ると、言ったんだって?」

高市「そんな事、言ってないわよ。存立危機事態というのは、米国の軍艦を守れるだけだから、台湾有事には先ず米国が参戦しなければ、日本は動けないのよ」

トランプ「なんだ。従来の立場と変わらんじゃないか」

 

 とまあ、こんな会話が公開されているわけではないが、大体の想像は着こうというものだ。

つまり従来の立場を何ら変えようとしない日本に対して、トランプは不満を抱いている筈で、そのトランプに日本寄りの発言を期待する方が無理筋なのである。

 軍事ジャーナリスト鍛冶俊樹(かじとしき)

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鍛冶俊樹の軍事ジャーナル

(2025年12月12日号)

*「ドイツは反省」のウソ

 8日、中国の王毅外相は、ドイツのワーデフール外相と北京で会談し「ドイツと異なり日本は戦後80年経っても侵略の歴史を徹底的に反省していない」と日本を批判したという。中国得意の言い付け外交だが、独外相も内心居心地が悪かっただろう。

 というのも、1日、ベルリンで開かれたドイツ・ポーランド首相会談の議題の一つは歴史問題だったのだ。いうまでもなく第2次世界大戦は1939年、ドイツがポーランドに侵攻して始まった。

 つまり第2次大戦の直接的な切っ掛けとなったポーランド侵攻についてさえ賠償問題が解決していないのである。つまり「ドイツが侵略の歴史を徹底的に反省している」などというのは大嘘だと言っていい。

 

 ちなみに日中間においては1972年の共同声明で賠償問題はとっくに解決済みだ。王毅は賠償問題が解決済みなので、「反省」という国際法上、無意味な言葉を持ち出して日本を非難した訳だが、これでは却ってドイツに対する嫌味にしか聞こえない。

 空自機に対するレーダー照射といい、中国の対日攻勢は、ことごとに裏目に出て、中国自ら泥沼にはまっているのである。

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鍛冶俊樹の軍事ジャーナル

(2025年11月26日号)

*習近平の断末魔

 昨今の日中関係において、「中国優勢、日本劣勢」と言った報道姿勢には、ウンザリさせられる。一見強硬な中国の態度に習近平の断末魔を見ない様では、国際情勢は皆目見当が付かなくなろう。

 習近平国家主席の任期は2028年までである。もともと習近平は2013年に国家主席に就任した。国家主席の任期は1期5年で、当時の憲法で2期10年までと決められていた。ところが習主席は憲法を改定して無期限とし、2023年3期目に突入した。

 

 憲法を改定してまで任期を引き延ばした理由は、台湾併合を3期目に実現すると言うものだ。従って2028年までに台湾を併合できなければ公約違反となり、解任させられる公算が高い。

 そこで2028年までの台湾侵攻を目指して軍拡路線を加速させてきたが、台湾侵攻の主戦力となる筈の空母は、3隻ようやく揃ったものの、揃いも揃って実戦には役立たないポンコツ空母ばかりである。

 

 つまり2028年までに台湾を併合するという党内公約は実現困難で、このままでいけば2028年、公約違反で解任される。もし解任されれば、反習近平派の報復が待っている。

 それを避けるためには、有力な幹部を次々に粛清して、異論を封じ独裁体制を確立して4期目に突入する他ない。

 米中首脳会談の後、トランプは同席した習近平側近を指して「こんなに怯えた人たちを見たことがない」と述べたのは、まさにこの事をトランプが認識していることを示している。

 

 要するに、現在、中国では、かつてスターリン体制や毛沢東体制下で行われたような共産主義体制特有の大粛清の嵐が吹き荒れており、習近平側近と雖(いえど)もいつ粛清されるか分からない状態なのである。

 日中関係の悪化は中日友好を推し進めてきた幹部の粛清の好機なのだ。従って「習主席は高市総理に相当怒っている」などというニュースはフェイクと見て差し支えない。実態は国内の権力闘争なのであり、日本にとっては対岸の火事なのである。

 

 軍事ジャーナリスト鍛冶俊樹(かじとしき)

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