鍛冶俊樹の軍事ジャーナル
(2026年8月7日号)
*インド太平洋戦略の終焉
前号では大紀元に掲載された拙稿「中国vsインド:新たな世界大戦の構図」の前半を公開したが、本号では後半を公開する。
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3 焦燥感に駆られたインド
中国が南太平洋にミサイルを撃ち込んだ翌日すなわち7月7日、インドのモディ首相はインドネシアの首都ジャカルタで同国のプラボー大統領と会談し、インド製の巡航ミサイル、ブラモスと空対空ミサイル、アストラの輸出で合意した。
人口で既に中国を上回ったインドは、経済においても、中国のライバルである。経済成長の鍵は海外市場の獲得であり、そのためにはシーレーン防衛は、必須の条件となる。
インド洋と太平洋の交点に位置する海洋大国インドネシアにとってもシーレーンは生命線であり、中国の海洋進出は深刻な脅威である。つまりインドとインドネシアは共通の利害と脅威を有しており、それがゆえにインドの武器輸出拡大で合意に至ったのだ。
モディ首相は、その足でオーストラリアに向かい、アルバニージー首相と会談、日米との協力拡大を共同で声明した。日米豪印の防衛協力の枠組みクワッドの強化を意味するが、ここで重要なのは、豪印だけでクワッドの強化を声明している点だ。
本来であれば、日米豪印4首脳が揃って共同声明を出すのが望ましいのだが、それが出来ないので豪印で見切り発車した形なのである。
4 インド太平洋戦略の終焉
クアッドは、安倍晋三総理(当時)が提唱し実現したもので、やはり彼が提唱したインド太平洋戦略の骨格をなす。2021年以降、オンラインと対面を合わせて計7回、首脳会合が行われている。
ところがトランプ政権下では首脳会合は1回も開かれていない。トランプはクアッドに後ろ向きなのである。もともとトランプは孤立主義者であって、2017年に第1次トランプ政権が成立したが、それ以前は在韓米軍や在日米軍を撤収させると公言して憚らなかった。
そんなトランプの懐に飛び込んだのが当時の安倍総理である。安倍にほれ込んだトランプは孤立主義を封印し、安倍の提唱するインド太平洋戦略を米軍の戦略として採用させるに至った。2018年5月には米太平洋軍を米インド太平洋軍に変更したのである。
ところが2022年、安倍が亡くなるとインド太平洋戦略は失速する。この戦略は安倍の外交力によって支えられていたのだ。
第2次政権下でトランプのインド太平洋戦略への言及は激減している。6月には米軍はインド太平軍を再び太平洋軍に変更した。これは米国がインド太平洋戦略を放棄したことを示す。
米国のイラン攻撃は物議をかもしたが、トランプとしては、イランの核開発の芽をつめば米軍を中東から全面撤退できるとの思惑がある。欧州からの米軍撤退は既に表明されている。トランプは完全に孤立主義者に戻ったのだ。
イランとウクライナが落ち着けば、トランプは東アジアからの米軍撤退を視野に入れて中国との交渉を本格化させる。豪印首脳の共同声明は、それに歯止めを掛けたい思いから発せられたのである。
軍事ジャーナリスト鍛冶俊樹(かじとしき)
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