時の止まった軍隊【訃報:モート・ウォーカー】 | カラサワの演劇ブログ

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アメリカのマンガ家、モート・ウォーカー、1月27日死去。94歳。

 

海外マンガの和英対訳シリーズで知られた鶴書房のツル・コミックはなんと言ってもチャーリーブラウンとスヌーピーの『ピーナッツ』が有名だが、私が初めてこのシリーズを読んだのはこれではなく、モート・ウォーカーの『ビートル・ベイリー』シリーズだった。親戚の結婚式に連れて行かれて退屈していた私に、叔母がホテルの書店で買ってくれたのだった。1971年、私が中学生のころのことである。

 

まだアメリカに徴兵制があった時代(廃止は1973年)、架空の陸軍基地キャンプ・スワンピーを舞台に、なまけものの二等兵ビートル・ベイリーと、食いしん坊で暴力的なスノーケル軍曹の漫才みたいなやりとりを中心に、プレイボーイのキラー、反抗的なロッキー、ちょっと足りないゼロなどの二等兵仲間、陸軍省から無視され続けている老将軍ハーフトラック准将など、多彩なキャラクターが登場する作品で、私がお気に入りだったのは、士官学校卒のエリートだが子供っぽさが抜けない(バスタブにアヒルのオモチャを浮かべたり、ペンの代わりにクレヨンを使ったりする)フーズ中尉だった。

 

もともとウォーカーは大学生のビートルを主人公にしたマンガを新聞に連載していたが、やがて彼を徴兵させて軍隊に入れたことでブレイクした。1950年、朝鮮戦争勃発の年である。

 

日本にも『ロボット三等兵』などのダメ軍人マンガはあったが、やはり非日常性が強く、それはかなりのカリカチュアを加えなければ、あの悲惨な戦争の記憶をギャグに昇華させることが難しかったからだろう。それに比べるとこのビートル・ベイリーは、軍隊の不条理さを描いているとはいえ、なんともノンキというかほのぼのとしたもので、戦勝国の軍隊はやはり違ったものだ、と思ってしまった。

 

実際にはこの時期からアメリカは朝鮮戦争、ベトナム戦争と続く泥沼の戦争連鎖の時代に突入していく。それだけに、陸軍省から忘れられ、どこの戦場にも駆り出されることのないキャンプ・スワンピーの物語は、一種のファンタジーとしてニーズがあったのだろう。ビートルたちはベトナム戦争終結後もひたすら、時が止まったまま軍隊生活を続け、その連鎖期間はなんと70年近くに及んだ。

 

ウォーカーは子だくさんで、最初の妻との間に7人の子をなした。晩年はその子供たちがビートル・ベイリーのシリーズを手伝っていた。おそらく、彼らが引き継いで、これからもビートルたちはキャンプ・スワンピーで軍事訓練を続けていくことだろう。戦場におもむくことない、ファンタジーのキャンプで。