X-QUEST『愛だ』 | カラサワの演劇ブログ

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X-QUEST2017秋公演『愛だ』 於新宿村LIVE

 

司会者「劇団員たちの高い身体能力性を活かした高速アクション.ダンスなどのパフォーマンスを売り物にしている、トクナガヒデカツ率いる劇団X-QUESTの『愛だ』です。……ちょっと変わったタイトルですが、これはヴェルディのオペラ『アイーダ』のもじり、ですね。主人公のアイーダとラダメスが、最後、二人の間にあるのは“愛だ”と気付く、というのがタイトルの由来です。ストーリィは基本、原作のアイーダと同じ、古代エジプトとエチオピアの争いの中で生まれ、政治状況の中で引き裂かれる若い二人の関係を描いていますが、この劇団の特長で、やたら早口でまくしたてられるセリフと、ストーリィの荘厳さとはかなり落差があるバカギャグの連発で成り立っています。あと、アクションはさすがですね。動きがとにかく見事です」

 

2.5次ファン「演出が『悪ノ娘』の舞台版を演出したトクナガヒデカツだというので観に行ったんだけど、『イムリ』の舞台版に出演していた塩崎こうせいと高田淳もいて、びっくりしたわ。……前から演劇ファンの人に聞いていたけど、本当に演劇の世界って狭いのね」

 

演劇ファン「『アイーダ』だから『愛だ』、とタイトルにしちゃうというセンスはお世辞にもいいとは言いがたくて、どうかな、と思いながら観に行ったのだけど、内容はきちんとまとまっていて、非常に見応えがありました.今年の秋の演劇の中では思いがけない拾い物と言えると思います」

 

小劇場演劇ファン「いや、内容がきちんとしているというのは当たり前で、なにしろ元ネタがクラシックオペラの名作中の名作で、それをそのままなぞっているのだから。むしろ、それの翻案の割にこの劇団ならではの飛躍や新解釈の乏しいのが残念だった。ラストにいきなり“東京の新宿”などというセリフが出てきて、これが病気で眠っている少女の見た夢なのでは、という設定が出てくるが、これを活かすなら、冒頭は実際、日本の病院のシーンにすべきだろう。少女の死によって離ればなれになってしまう二人の恋人が、時空を超えて古代エジプトに転生し、そこで死を共にする二人の運命を享受する……とすれば平仄があう」

 

商業演劇ファン「残念ながら、現代をワクにする方式はすでに『劇団四季』のアイーダがやってしまっています」

 

演劇学校の生徒「確かに。この作品では話の“ワクづけ”として、アイーダの兄のウルティモが魂となって4000年の間、時空をさまよって愛の形を見続けてきた、という設定が入ってますが、あまり活かされてなかったですものね」

 

X-QUESTファン「そういう話のおさまりをここの劇団に求めるのはお門違いだと思うわ。もともとトクナガヒデカツの舞台は時間ワクが恣意的に前後したりして、一度見ただけではよく理解できないとされているの。今回は極めてわかりやすい方よ。ここはとにかくキレッキレのアクションとダンス、これを楽しめば、ストーリィの整合性なんかは添物にすぎない」

 

演劇ファン「時間ワクの前後と言えば、神官の二人がドサ回りの役者だったところを策謀家のソラリスに拾われて、都合のいい神託を告げるための神官に仕立て上げられるところなどがそうでしたね。演劇らしい、なかなかいい演出でした」

 

アニメファン「神官が男女二人で“アシュラ”という名前なのは、『マジンガーZ』のあしゅら男爵がモチーフなんだろうけど(衣装も左右で対称の色分けがされていた)、ならアニメのように2人ダブってしゃべらせんか、と思った」

 

昆虫マニア「将軍ソラリスのセリフで、エチオピアの兵士たちに“このスカラベどもが”というのがあって、“どういう意味だ”と聞かれ“フンコロガシ”と答えるシーンがあった。これは理屈に合わない。エジプトではフンコロガシが糞の玉を転がしながら運んでいく動作に太陽の運行を重ね合わせ、再生や復活の象徴としていたんだ。古代エジプトの装飾品や壁画などには、このフンコロガシをモチーフにしたものが非常に多い。あの時代のエジプトではフンコロガシを神として扱っていたので、そこの将軍であるソラリスが相手を罵倒する言葉に“スカラベ”を使うことなどあり得ない」

 

歴史マニア「それで言うと、王の病気や暗殺などといった事態に対する意識が完全に“いまの日本”の感覚で、エジプトぽくはなかったですね。古代エジプトにおいては、死は終わりではなく、復活を待つ間の期間とされていた。ピラミッド内部に、王の生前の生活を模した副葬品が収められていたのも、ミイラ化された殉死者が大量に同葬されたのも、復活を待つ間、生前と同じ生活が死の世界でできるように、という意味を持っていた。ピラミッドはそのために建立されたもので、ソラリスは王を殺すことよりも、むしろその復活を恐れなくてはならない」

 

オペラファン「……まあまあお二人とも。そもそもが原作のオペラそのものが、考古学者のオーギュスト・マリエットが台本に関与しているにも関わらず、ストーリィそのものは史実に関係ない完全なフィクションだ。エジプトがエチオピアに侵略した歴史はあるが、エチオピアの方からエジプトに戦争を仕掛けた歴史はないんです。だから、さらにその翻案であるこの作品に細かな時代考証を求めても意味ないですよ」

 

歴史ファン「いや、だからこそ、最後、地下に生きたまま閉じ込められるアイーダとラダメスが、生命の復活を念じ、“君の名前、アイーダが素晴らしい意味を持つ国に転生しよう。君の名が愛を意味する言葉の国に”というセリフで〆れば、『愛だ』というタイトルも凄く生きると思うのですよ。この舞台では単なる偶然にしちゃってましたが」

 

アクション好き「演技陣、ことにX-QUEST劇団員の肉体の動きの凄さはハンパないです。ラダメス役の清水宗史が、舞台奥の台から、ジャンプでなく、ふっ、と身体を落っことすようにして舞台に降りる。この動作が美しくてカッコよくて、見惚れてしまいます」

 

演技好き「……いや、だからこそなんだけど、もっと見せ方を工夫した方がいい。チャンバラシーンなど、最初は凄いと思っても、全員が達者なので、逆に単調に感じられる。個性がないんだな。アイーダの侍女のメタリカ役の小玉百夏のカンフーが目立ったくらいか。クライマックスのアクションシーンは延々と続き過ぎて、ちょっと眠くすらなってしまった。後ろの席で見てたんで、前の方の観客席が上から見渡せる形になっていたんだが、そこらでときおり、客電の落ちた暗い中でピカッ、ピカッと光るものがあるんだな。観客がスマホを開いて、時間を確認しているんだ。劇団新感線の舞台など観ると、長いアクションシーンで退屈させないように、間にいろいろストーリィ展開を混ぜている。やはりここら、うまいと思う」

 

イケメン好き「その点だと、門野翔くんが演じたサンホラとムンバサの2役が、1人チャンバラとでもいうような演技とアクションで、1人で感動の兄弟の別れを演じたりしたのがサイコーだった! あれは熱演賞ものだわ」

 

コメディ好き「それだけに、そこにもっとツッコミを入れて欲しかったなあ。2役ギャグがちょっと空回りしていたところがあった。あれは門野のボケを拾ってやらない周囲が悪い」

 

美術関係者「セットが、舞台奥に階段状(横向き)になったパイプ作りの台が置かれているだけ、というシンプルなものなのですが、これが王座になり逃走経路になり戦場になり、と非常に効果的に使われていましたね。見栄えはともかく、使用法としては素晴らしい」

 

役者ファン「女優では王女アムネリス役の遠藤沙季がオーラ発してました。存在感が他とは一頭地を抜いていた。並ぶと、アイーダ役の古川小夏がちょっと気の毒だったと感じたくらい。原作のオペラでも、アイーダよりもアムネリスの方が儲け役と言われているみたいだね。あと、ファラオ役の豊田茂の自由奔放すぎるギャグは凄まじい(笑)。てっきり、お笑い系の劇団の人かと思っていたら、パンフに『劇団青年座』とあってびっくり仰天した。こういう人もいるんだね、青年座」