土性骨のタカ派 【訃報・奥野誠亮】 | カラサワの演劇ブログ

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元自民党議員(文部大臣、法務大臣、国土庁長官)の奥野誠亮氏死去。103歳。

 

ニュースでの写真を見て「誰だこのお爺さんは」と思う人も多いと思うが、私の世代だとこっちの写真を見ればアア、と思い出す。現役の議員時代はしょっちゅう舌禍事件を起こしてはマスコミをにぎわしていた。


左派マスコミにとっては、ちょっとカマをかければすぐ失言をしてくれる、便利な人でもあった。日支事変を侵略ではないといい、従軍慰安婦を職業婦人であるといい、靖国参拝を明言し、憲法改正を主張し、夫婦別姓に反対し……という絵に描いたようなタカ派保守系人間だったが、ここまで徹底するとある種の愛嬌もあった。


失言で国土庁長官を辞するとき、職員たちから持ちきれないほどの花束を受け取り、満面の笑顔で退庁する写真が新聞に載った。直情型の、部下に愛される人格の持ち主だったのだろう。また、言いたいことを周囲を慮って自制する、というようなことが出来ない性格だったのだろうと思う。


山藤章二氏が週刊朝日に連載していた似顔絵塾に、この人のいい笑顔の似顔絵が投稿されたことがあり、山藤氏が「新聞などに載る似顔絵の表情とまるで違う、こういう一面をとらえた絵は珍しい」と評したことがあった。憎まれていなかった証拠だろう。


ある意味、もっとも政治家に向いていない性格であり、若い頃の私は「言いたいことはわかるが、しかしTPOが理解できないのは困ったものだ」と思っていた。しかし、失言にかこつけてこういう“本音”を漏らしてくれた議員がいたから、保守的人間は自民党に信頼がおけたし、世論もその後変化してきた。そのきっかけを創った一人だと思う。


持論に対しても、反証を示されると素直に誤りを認める素直さも持ち合わせていたという。「土性骨が据わった」という言い回しが最も似合う、こういう政治家は最近、保守系の方にもいなくなってしまった気がする。昭和が遠のいたという実感をひさびさに味わった訃報だった。ご冥福を祈る。