初期火星の有機物は一酸化炭素から作られた | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

 アストロアーツ5月17日付記事、元は東京工業大学です。

 初期火星の有機物は一酸化炭素から作られた - アストロアーツ (astroarts.co.jp)

 

 概要>火星ローバーが発見している火星の有機物は、太古の火星大気中で二酸化炭素が分解してできた一酸化炭素が起源であることが、炭素の同位体分析から明らかになった。

 

 ローバーは rover で、惑星・月面の自動探査車のこと。

 

 >30億年以上前の火星には、液体の水をたたえた海または湖が存在していたことが判明している。さらに、NASAの火星探査車「キュリオシティ」や「パーサビアランス」による岩石の分析から、こうした湖底などで数十億年前に堆積した物質から有機物が見つかっている。しかし、この火星の有機物が生命活動で作られたものなのか、それとも火星の外から隕石などでもたらされたのか、あるいは生命と無関係な化学反応でできたのか、といった起源については謎だった。

 

 今の火星は赤茶けた砂漠のような風景が広がり、ときに巨大な砂嵐が荒れ狂います。

 しかし、「30億年以上前の火星には、液体の水をたたえた海または湖が存在していた」というのですね。

 

 「キュリオシティ」は2011年11月26日に打ち上げられ、2012年8月6日に火星着陸。

 「パーサビアランス」は2020年7月30日に打ち上げられ、2021年2月18日に火星着陸。

 それぞれ、curiosity(好奇心)、perseverance(忍耐強さ、不屈(の努力))のカタカナ表記です。前者は中学生英語だったかな・・・

 どちらも現在なお火星表面で稼働中。

 10年以上稼働を続けているというのは大したものです。

 

 ここで、アストロアーツ掲載の上の画像をご覧ください。

 有機物が検出された火星の岩石です。

 左は、NASAの探査車「キュリオシティ」がゲール・クレーター内で、ドリルで穴を開けてサンプルを採取・分析した岩石「カンバーランド(Cumberland)」。

 右が、NASAの探査車「パーサビアランス」がジェゼロ・クレーター内で、ドリルで穴を開けてサンプルを採取・分析した堆積岩「ワイルドキャット・リッジ(Wildcat Ridge)」です。

 

 >この謎を解くヒントとして、有機物に含まれる炭素原子の「種類の違い」を調べる方法がある。炭素の原子核には、中性子が6個の「炭素12(12C)」、7個の「炭素13(13C)」、8個の「炭素14(14C)」という3種類の「同位体」があり、12Cと13Cが安定な同位体、14Cは放射線を出して窒素14へと崩壊する放射性同位体だ。太陽系内の物質では、炭素原子の約99%が12C で約1%が13C であり、14C は1兆分の1以下とごく微量だ。

 

 元素は、原子核に含まれる陽子の数で決まります。

 中性子の数は質量の差となりますが、不安定な場合には放射線を出して別の元素に崩壊します。

 同位体が isotope、放射性同位体が radioisotopeで、どちらもアイソトープ、ラジオアイソトープというカタカナ日本語にもなっています。

 

 >放射性同位体は時代とともに崩壊して数が減っていくが、安定同位体は数が変わらない。だが、物理過程や化学反応の中には、同位体によって反応の起こりやすさが違い、結果として安定同位体の「比率」を変えるものがある。そこで、特定の元素の安定同位体比を調べれば、どんな作用でその物質ができたかがわかる可能性があるのだ。

 

 「物理過程や化学反応の中には、同位体によって反応の起こりやすさが違い、結果として安定同位体の「比率」を変えるものがある」というのは、あくまでも例外的なのですね。

 

 >火星の有機物の場合、12C に対する13C の比率は0.92%~0.99%だが、これは生物によってできた地球の堆積有機物や大気中のCO2での比率(約1.04%と約1.07%)に比べると極端に低い。また、隕石中の有機物での比率(約1.05%)とも大きく違う。そのため、火星の有機物は宇宙空間での化学反応や生物の働きとは別の反応でできたと推測できる。だが、具体的に13C の比率をこれほど強くかたよらせる反応は、一つも知られていなかった。

 

 有機物の場合には、炭素の同位体に着目するのが自然です。

 (有機物というのは炭素を含む物質なので。)

 炭素の同位体はほとんどが12C で、13C は例外的でごくわずかな存在です。

 それでも火星の有機物、地球の堆積有機物、地球の大気中のCO2、隕石について炭素同位体の比率を分析すると、明らかな違いが存在し、火星の有機物では他と比べて12C に対する13C の比率が低いということです。

 

 しかし、これまでは「具体的に13C の比率をこれほど強くかたよらせる反応は、一つも知られていなかった」のです。

 

 >東京工業大学の上野雄一郎さんたちの研究チームは、惑星大気の中で有機物が作られる反応に注目し、大気化学反応で炭素の同位体比がどう変わるかを室内実験と理論計算で調べた。その結果、火星を含む地球型惑星の大気では、太陽光の紫外線がCO2を分解する「光解離反応」によって、13C の存在度が非常に低い一酸化炭素(CO)が生成されることがわかった。

 

 今回の研究成果の一つは、「太陽光の紫外線がCO2を分解する「光解離反応」によって、13C の存在度が非常に低い一酸化炭素(CO)が生成される」ことが分かったことです。

 

 ここで、アストロアーツ掲載の真ん中の画像をご覧ください。

 残念ながら、拡大しません。

 実験とモデル計算で明らかになった火星の有機物の生成プロセスの図解です。

 CO2が光分解され、13Cの比率が非常に低いCOができます。

 そのCOが大気中の還元性のガスと反応して様々な有機分子が合成され、13Cの少ない有機物を含む堆積物ができたと考えられます。

 

 >現在の地球や火星では、光解離でできたCOはほとんどが酸化され、再びCO2に戻る。だが、酸素がほぼなかった40億年前までの地球や初期の火星では、大気はむしろ物質を酸化させるよりも還元させる働きが強い環境だったと考えられている。実際、水素ガス(H2)などを多く含む初期の惑星大気では、COが還元反応を受けてホルムアルデヒド(HCHO)や有機酸等の有機分子になることが別の実験からわかっている。つまり、初期の火星の堆積物に含まれる13C の少ない有機物は、当時の火星の大気中でCOから作られたものだと考えられる。

 

 地球や火星を含め初期の惑星大気は水素ガスを多く含む還元的な環境だったため、COは酸化されず還元反応を受けてホルムアルデヒド(HCHO)や有機酸等の有機分子になったと推測されるのですね。

 

 >さらに、今回の実験結果と上記の最新の知見をもとに、初期の火星で起こる炭素循環のモデル計算をしたところ、当時の火星では、火山活動などで大気に流入したCO2のうち、最大で20%もの量がCOを経て13C の少ない有機物へと変換され、地表に堆積する可能性があることがわかった。

 

 >今回初めて明らかになった、CO2 → CO → 有機分子という化学反応は、生命が発生する前の初期地球でも同じように起こったと考えられる。そのため、今回の成果は、生命がどのように発生したのかという根源的な人類の問いに対しても重要なヒントを与えるものと言える。

 

 >現在、NASAとヨーロッパ宇宙機関は共同で、史上初めて火星のサンプルを地球に持ち帰る「マーズ・サンプル・リターン・ミッション(Mars Sample Return Mission; MSR)」を計画しており、パーサビアランスはMSR用のサンプルを帰還容器に格納する活動も火星表面で行っている。今回の推定が正しければ、火星の堆積物には有機物が想定外の量で存在している可能性があり、今後の探査やサンプルリターンミッションでそれらの有機物を詳しく調べることで、生命の発生以前の惑星でどんな有機分子がどのようにできたのかなどが明らかにされると期待される。

 

 「火星の堆積物には有機物が想定外の量で存在している可能性があ」り、

 「生命の発生以前の惑星でどんな有機分子がどのようにできたのかなどが明らかにされると期待される」とのことです。

 楽しみですね。

 

 >また、系外惑星の生命探査といった分野でも、地球外の天体に存在する有機分子の由来を特定するために、13C 同位体のかたよりは有用な手がかりになるだろう。

 

 最後に、アストロアーツ掲載の下の画像をご覧ください。

 今回の研究成果を元に復元した初期火星の想像図です。

 30億年以上前の火星には海もしくは湖が存在し、大気中では有機分子が一酸化炭素から作られ、地表に堆積していたと考えられ、それを描いています。

 

 

 ★ 本日6月6日(木)、千葉県木更津市「竜宮城スパホテル三日月」で山崎(やまさき)隆之八段が藤井聡太棋聖に挑戦する第94期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負の第1局が行われ、90手で後手藤井棋聖の勝利となりました。後手番にもかかわらず理想的な藤井曲線の将棋で、初戦勝利です。山崎八段はタイトル戦挑戦は2度目ですが、タイトル獲得はできていないため、もし奪取に成功すれば初タイトルとなります。一方、藤井棋聖は今期防衛に成功すれば、棋聖戦5連覇となり永世棋聖の称号を得ることができます。次は6月17日(月)に棋聖戦第2局、そして6月20日(木)に運命の叡王戦第5局が控えています。