初期宇宙の巨大ブラックホールは成長が止まりがち | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

 ・初期宇宙の巨大ブラックホールは成長が止まりがち

 アストロアーツ3月15日付記事、元は東京大学です。

 初期宇宙の巨大ブラックホールは成長が止まりがち - アストロアーツ (astroarts.co.jp)

 

 概要>約122億年以上前の銀河のX線画像から、この時代の銀河と中心ブラックホールの成長率が求められた。銀河に比べて中心ブラックホールはほぼ成長しない状態だったようだ。

 

 >現在の宇宙では、銀河の中心に存在する「超大質量ブラックホール(Supermassive Black Hole、以下SMBH)」とその母銀河の間に、「銀河の質量が重いほどSMBHの質量も重い」という、ほぼ正比例の関係(マゴリアン関係)がある。これは、SMBHと母銀河が互いに影響しあって「共進化」した結果だと考えられているが、具体的にどんなしくみでこうした関係ができたのかは大きな謎だ。

 

 マゴリアン関係とは、巨大ブラックホールの質量は銀河バルジの質量の0.1~0.2%程度だというものです。

 巨大ブラックホールとその母銀河の共進化の仕組みを明らかにすることは、天文学の重要な課題の一つです。

 

 ここで、アストロアーツ掲載の上の画像をご覧ください。

 巨大ブラックホールの成長を示したイラストです。

 巨大ブラックホールは周囲の物質を飲み込む際に「降着円盤」を作り、ここからX線などが放射されます。

 さかんに物質を取り込んで成長する巨大ブラックホールはX線を強く出し、クエーサーなどの活動銀河核として観測されます。

 巨大ブラックホールの成長率が小さい普通の銀河では、X線はあまり放射されません。

 画像クリックで表示拡大します。

 

 >もし過去の宇宙でもこの正比例の関係が見られるなら、銀河とSMBHは長い時代にわたって同じペースで質量を増やしてきたことになる。一方、もし過去の宇宙で正比例の関係が崩れているなら、両者はかなり複雑な進化を経てきたのかもしれない。ここで過去の様子を調べるうえで問題となるのが、過去(=遠方)の宇宙の銀河にあるSMBHは、「クエーサー」のようにきわめて明るい例外を除くとまず地球からは見えないことだ。このため、過去のSMBHの質量を見積もる方法はほぼないのが実情である。

 

 遠方銀河の巨大ブラックホールは、クエーサーのような極めて明るい例外を除くと、暗すぎて地球から見えないため、そうした巨大ブラックホールの質量を見積もる方法がこれまではなかったというのです。

 

 >東京大学の松井思引さんを中心とする研究チームは、銀河とSMBHの質量を求める代わりに、両者の質量の「時間変化率」を観測から見積もることを考えた。

 

 正面から攻めるのではなく、搦め手から行こうというわけです。

 詳しくはこの後で。

 

 >マゴリアン関係でSMBHの質量に正比例している「銀河の質量」とは、正確には「銀河を形づくる『楕円体成分』の質量」のことである。渦巻銀河の場合は円盤部分を除いた「バルジ」の質量、楕円銀河の場合には銀河全体の質量がこれに当たる。楕円体の部分にはガスはほとんどなく、恒星たちがその質量を担っている。

 

 したがって、渦巻銀河のバルジが楕円銀河の全体に相当すると考えてよいだろうと私は理解しています。

 

 >そこで松井さんたちは、銀河質量の時間変化率とほぼ同じ意味を持つ値として、銀河の「星形成率」(1年間に生まれる新たな星の総質量)を使うことにした。銀河の星形成率は、紫外線や赤外線で銀河を観測すれば容易に求められる。

 

 ここで疑問に感じるのは、銀河の星形成率を銀河質量の時間変化率の代わりに使うのはよいとしても、星形成率って現在のものしか分からないのではないかという点です。

 

 >一方、SMBH質量の時間変化率は、その銀河をX線で見たときの明るさから推定できる。SMBHに引き寄せられた物質は高温の降着円盤を作り、X線を放射するため、急速に物質を取り込んで急成長するSMBHほど強いX線を出すのだ。

 

 巨大ブラックホール質量の時間変化率は、X線の明るさで代替できるというわけです。

 でも、これも現在のものしか分からないのでは?

 答を書いておくと、遠方宇宙=初期宇宙の銀河と巨大ブラックホールについてデータを取ったというわけです。

 

 ここで、アストロアーツ掲載の真ん中の画像をご覧ください。

 左は、現在の宇宙での様々な銀河の質量(赤:渦巻銀河のバルジの質量、黒:楕円銀河の質量)と、その中心にある巨大ブラックホールの質量を描いたグラフです。

 重い銀河ほど巨大ブラックホールも重いという比例関係(マゴリアン関係)が見られます。

 右は、銀河と巨大ブラックホールの質量の時間変化率を描いた概念図です。

 過去の銀河とSMBHの質量増加率をプロットしたとき、中央の右上がりの直線上に集まれば過去の宇宙でも双方は比例関係にあったことになります。

 左上に集まる場合はSMBHの成長の方が銀河より早く、右下に集まる場合は銀河の成長の方がSMBHより早いことを示します。

 画像クリックで表示拡大します。

 

 >ただし、100億光年を超えるような遠方になると、クエーサーなどでない「普通の銀河」のSMBHが出すX線は非常に弱く、観測できない。そのため、松井さんたちは「X線スタッキング」という手法を使った。これは、ほぼ同じ距離にあるたくさんの銀河のX線画像を重ね合わせて、銀河たちの「平均的な」X線像を作り出すものだ。こうすることで画像のノイズが減り、淡いX線の像が浮かび上がってくる。

 

 スタッキングは stacking で、「積み上げる」という意味です。

 「X線スタッキング」という手法は、学界で認められているのでしょうね。

 

 >松井さんたちは「チャンドラX線天文台」のサーベイ観測データを使い、赤方偏移zがおよそ4から7(122億~130億年前)の時代にある約1万2000個の銀河について、zや見かけの明るさごとに銀河をグループ分けしてX線画像を重ね合わせ、平均的なX線像を求めた。

 

 チャンドラは、NASAが1999年7月に打ち上げたX線観測衛星(Chandra X-ray Observatory)。

 近地点は約1万km、遠地点は約14万kmという極端な楕円軌道を回っています。

 名前は、白色矮星の質量の上限を求めたインド出身のアメリカ人天体物理学者チャンドラセカール(Subrahmanyan Chandrasekhar)からとっています。

 また、チャンドラはサンスクリット語で月の意味でもあります。

 

 >解析の結果、いずれのグループでも予想以上にX線は弱く、合成後の画像からX線成分を検出することはできなかった。この結果から、SMBHの質量増加率の「上限値」を求めて銀河の星形成率と比べたところ、どの時代・明るさについても、SMBHの質量増加率は「正比例の関係」が成り立つのに必要な値の1割以下しかないことがわかった。

 

 「検出できない」ことから、巨大ブラックホールの質量増加率の上限値を求めることができるわけです。

 

 ここで、アストロアーツ掲載の下の画像をご覧ください。

 今回の解析方法の説明図です。

 左は、122億年前の一般的な銀河を撮影したX線画像の例です。

 各画像の中央に銀河がいるはずですが、一般の銀河はX線ではほとんど写りません。

 右上は、これらの画像を見かけの明るさごとにグループ化し、多数の銀河のX線画像を重ねる「X線スタッキング」でS/N比を向上させたもの。

 右下は、右上の合成後の画像から求めた巨大ブラックホールの質量増加率の上限値をグラフにプロットしたもの。

 いずれのグループもX線は検出されず、巨大ブラックホールの質量増加率の上限値は、比例関係を示す直線の1割以下にとどまったことを示しています。

 画像クリックで表示拡大します。

 

 >つまり、122億~130億年前の宇宙では、銀河とSMBHは同じペースでは全く成長しておらず、銀河の方はさかんに星を生み出して成長しているのに、SMBHの方はほとんど成長が止まっていたようなのだ。

 

 122億~130億年前の宇宙では、銀河はさかんに星を生み出して成長しているが、その中心にあるはずの巨大ブラックホールはほとんど成長していなかったというのですね。

 

 >言い換えれば、現在の銀河とSMBHにマゴリアン関係が存在するためには、過去のあるタイミングで銀河がSMBHを急成長させる時期がなければならない。この結果は、銀河とSMBHの単純な共進化モデルに修正を迫るものだ。

 

 銀河と巨大ブラックホールの単純な共進化モデルとは、銀河と巨大ブラックホールが誕生直後の初期からほぼ同じ率で成長してきており、ずっとマゴリアン関係を保たれていたというものでしょう。

 今回の研究によれば、それは誤りで、巨大ブラックホールの方は初期には成長していなかったことが判明した。

 しかし現在はマゴリアン関係が成り立つのですから、途中のいずれかの段階で急成長したはずだと。

 

 さて、本当のところはどうなんでしょうか。

 本研究の主張通り、巨大ブラックホールの成長が後からご銀河の成長に追いついたのかもしれません。

 それが確認されれば、共進化の歴史の重要部分が解明されたことになります。

 しかし、素人考えで恐縮ですが、今回の研究に穴があって否定されるという展開も可能性としてはあり得るように思います。

 

 

 ★ 気温の変動が激しい時期で、昨日は寒かったのですが、今日は夏日、明日はさらに暑くなるようです。体調を崩さないよう、衣類などの調整に気を付けましょう。

 昨日終わった名人戦第2局ですが、アマ有段者あるいは元奨の方々の解説動画を何本か見ても、なお細部の理解が困難です。それだけ藤井・豊島お二人の対局の内容が高度だったということなのでしょう。ボケを心配するにはまだ早すぎるかと(^^;

 

 ★★ 今日のロジバン 不思議の国のアリス193

   .i .ei mi pensi .i xu mi me mi ca lo nu mi cikna binxo ca lo zi cerni

  考えてみなくちゃ。今朝起きたときには、同じだったっけ?

 .ei : 義務。義務/当然だと見なす気持。心態詞(命題態度)UI1類

 cikna : 目覚めている,x1は。-cik- [生命・生理学・振る舞い]

 binxo : 成る/変身する,x1は x2に x3(条件)の下で。-bix-, -bi’o- [過程]

 zi : (時間的に)少し前/先。間制詞(時間・程度・小)ZI類

 cerni : 朝だ,x1は x2(日)・x3(所)の。-cer- [時間・日]

 

 アリスの自問自答の続きで、2つの文からなりますが、最初の文は短いので説明略。

 2番目の文は主述語が { me mi } 「私だ」、そのx1が mi で、全体が真偽疑問詞 xu により疑問文となっています。

 後ろに ca が導く間制節と間制句があります。

 間制節は { me mi } に掛かっており、その中の主述語は、tanru { cikna binxo } 「目覚める」で、そのx1が mi です。

 間制句 { ca lo zi cermi } 「この朝に」は、 { cikna binxo } に掛かっています。

 全体で「私は今朝目覚めたときの私なのか」と訳せます。

 cikna は「目覚めている」という状態で、tanru { cikna binxo } は「目覚める」という動作になります。それを一語の合成語lujvoにすると、cikybi'o です。

 ちなみに、「起こす(目覚めさせる)」は cikygau 、「寝ている」は sipna です。cikna と sipna は子音2字だけの違いで似ていますね。

 出典は、

 lo selfri be la .alis. bei bu'u la selmacygu'e (lojban.org)