伝統的論理学の対当の4角形1 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)
---------------------------------
3.1階の述語論理
さて、前回はチンタラやりましたが、2千数百年前のアリストテレスの時代なら立派な論理学的成果であるものの、今どきこんなものを研究する論理学者はいません。
現代の論理(logic)は、数学の基礎と一体化し、日常言語からいったん離れたところで、形式的な記号法により展開されます。
(以前は記号論理学という呼び方もありましたが、今は記号を使わない論理学がなくなってしまいました(^_^ また、論理“学”よりただの論理という呼び方が好まれます。)
現代の論理といっても実に多彩な分野があるのですが、ここで必要なのは一番の基礎である1階の述語論理です。(命題論理は零番の基礎かな(^^)
ここでは道具として使うだけなので、公理論的な展開は行わず、例を挙げながら説明するにとどめます。
(以下、論理式の ( ) は適宜省略します。また、見やすいように適当に空白を入れます。)
E全称否定「すべてのSはPでない」は、次のようになります。
∀x (S(x) → ¬P(x)).
xは変項、SとPは述語です。
→ と ¬ は命題関数記号で、
2項関数の → は「ならば」(if then,含意)、
1項関数の ¬ は「でない」(not,否定)
をそれぞれ意味します。
∀は量化記号で、「すべての」(all,全称)を意味します。
無理に日本語にすると、 「すべてのxについて、xがSである ならば xはPでない」 となります。
¬ と → の真理表を載せておきます。真理値の1は真、0は偽を意味します。
P|¬P P Q| P→Q
1 | 0 1 1 | 1
0 | 1 1 0 | 0
0 1 | 1
0 0 | 1
¬Pは、Pの真偽を逆転させます。
P→Q は、Pが真ならばQも真ですが、Pが偽のときはQは真偽いずれもあり得ます。
(ここで出てくるPは ”Proposition”(命題) の頭文字をとっています。QはPの次の文字というだけです(^^;)
(英語だと”truth table”でいいけど、日本語なら「真偽表」の方がより適切だとわたしは思うのですが、一般的に定着している表現にしておきます。)
記号の使用を別にすると、伝統的論理学と一番違うのは、主語も述語とみなすことです。
主語、一般に名詞(体言)も、実は述語の形を変えた姿だと捉えなければいけないというのです。
「すべてのギリシア人は死すべきものでない」における「ギリシア人」も、「ギリシア人である」という述語だというのですね。
A全称肯定「すべてのSはPである」は、否定記号 ¬ を除くだけです。
∀x (S(x) → P(x)).
次に、特称命題ですが、こちらは全称命題と少し違う点があります。
O特称否定「あるSはPでない」は、次のようになります。
∃x (S(x) ∧ ¬P(x)).
2項命題関数記号 ∧ は、「かつ」(and,論理積、連言)です。
∃ は量化記号で、「少なくとも1つの」(存在)を意味します。
これも無理に日本語にすると、 「あるxについて、xはPであり かつ xはSでない」 となります。
もう少し分かりやすい日本語に直すと、 「PでありかつSでないxが(少なくとも1つ)存在する」 となります。
∧ の真理表は次のようになります。
P Q| P∧Q
1 1 | 1
1 0 | 0
0 1 | 0
0 0 | 0
主語と述語は、全称命題では命題関数 → で結ばれているのに対し、特称命題では同 ∧ で結ばれているという違いが重要です。
あと、2項命題関数記号 ∨,←→ も使います。
∨ は「または」(or,論理和、選言)、←→ は論理的同値で、真理表は次のようになります。
P Q| P∨Q P←→Q
1 1 | 1 1
1 0 | 1 0
0 1 | 1 0
0 0 | 0 1
4.対当の4角形の現代化
それでは、対当の4角形を述語論理で表現してみましょう。
対当の4角形の現代化
∀x (S(x) → P(x)) ∀x (S(x) → ¬P(x))
A全称肯定───反対対当───E全称否定
│ \ / │
│ \ / │
大小対当 矛盾対当 大小対当
│ / \ │
↓ / \ ↓
I 特称肯定───小反対対当───O特称否定
∃x (S(x) ∧ P(x)) ∃x (S(x) ∧ ¬P(x))
これらが現代の述語論理の観点からみてそのまま成り立つのか、検討していきます。
・大小対当
大小対当は、そのままでは成り立ちません。
「∃x (S(x) ∧ P(x))」は SでありかつPであるxの存在を主張していますが、 「∀x (S(x) → P(x))」は Sであるxが存在するときそれがPでもあることを主張するだけで、Sであるxの存在も、Pであるxの存在も主張しません。
大小対当を成り立たせるためには、次の命題が前提として成立することが必要です。
∃x S(x).
これを前提とすると、大小対当は次のようになります。
∃xS(x) → (∀x(S(x)→P(x)) → ∃x(S(x)∧P(x))).
∃xS(x) → (∀x(S(x)→¬P(x)) → ∃x(S(x)∧¬P(x))).
・矛盾対当
次の2つの同値を用いると、一方の真が他方の偽と同値であることを証明できます。
¬∀x P(x) ←→ ∃x¬P(x).
¬(P→Q) ←→ P∧¬Q.
ただし、←→ は同値を意味する命題関数記号。
したがって、矛盾対当はそのまま成り立ちます。
記号で書くと、たとえば次のようになります。
¬∀x (S(x) → P(x)) ←→ ∃x (S(x) ∧ ¬P(x)).
∀x (S(x) → ¬P(x)) ←→ ¬∃x (S(x) ∧ P(x)).
・反対対当
A全称肯定とE全称否定から、次の命題が導かれます。
∀x (S(x) → P(x)∧¬P(x)).
この命題は次の命題と同値です。
∀x¬S(x).
つまり、「すべてのそよそよ族は禿である」と「すべてのそよそよ族は禿でない」の両方とも真ならば、「一人のそよそよ族も存在しない」という結論になるわけです。
(そよそよ族とは、別役実の戯曲『そよそよ族の叛乱』に登場する古代の失語症民族で、「お腹がすいた」と言えなかったために絶滅したとされます。もちろん架空の存在です(^_^)
反対対当が成り立つためには、次の命題が前提として成り立つことが不可欠です。
∃x S(x).
これを前提とすると、反対対当は次のようになります。
∃xS(x) → ¬ (∀x(S(x)→P(x)) ∧ ∀x(S(x)→¬P(x)).
「少なくとも1人のそよそよ族が存在する」のならば、「すべてのそよそよ族は禿である」と「すべてのそよそよ族は禿でない」の両方とも真であることはあり得ません。
・小反対対当
伝統的な小反対対当をそのまま記号で書くと、
∃x(S(x)∧P(x)) ∨ ∃x(S(x)∧¬P(x))
となりますが、これはそのままでは成り立ちません。
「禿のそよそよ族が存在する」か「禿でないそよそよ族が存在する」の少なくともどちらかが成り立つためには、「少なくとも1人のそよそよ族が存在する」が真である必要があります。
次の命題が前提として必要です。
∃x S(x).
これを前提とすると、小反対対当は次のようになります。
∃xS(x) → ∃x(S(x)∧P(x)) ∨ ∃x(S(x)∧¬P(x)).
まとめると、4種類の対当のうち
・矛盾対当は、AE I O を述語論理化するだけでそのまま成り立つ
しかし、
・大小対当、反対対当、小反対対当については、それだけでなく、主語に関する存在命題を仮定する必要がある
というのが結論です。
★ 今日のロジバン 真偽疑問文
.i xu lo vi prenu cu mamta do
「イ ㇰフ ロ ヴィ ㇷ゚レヌ シュ マㇺタ ド」
この人があなたのお母さんですか?
― .i na go’i .i tu mamta mi
「イ ナ ゴヒ。イ トゥ マㇺタ ミ」
いいえ、あの人が私の母親です。
xu : 対象が真か偽かを尋ねる。心態詞(真偽疑問)
vi : ここに。間制詞(空間・程度・小)
prenu : (心理学上の)人である。ホモサピエンスとは限らない
mamta : x1は x2の 母親である。
na : 命題否定。文中で右に続く語すべてを否定
go’i : 直前の文の内容を意味する。代詞
tu : あれ(遠くのもの)。話者miと聴者doから離れた対象(物/人/事)を指示する
答が「はい」なら、次のようになります。
― .i go’i