目次
1.伝統的論理学
2.対当の4角形
3.1階の述語論理
4.対当の4角形の現代化
1.伝統的論理学
伝統的な論理学では、「対当の4角形」と呼ばれるものがあります。
対当は「たいとう」と読み、英語の”opposition”の訳です。
(反対という意味ではありません。)
対当関係は、三段論法と並ぶ伝統的論理学の成果です。
この記事では、まず伝統的な形で紹介し、その後で現代の記号法に直すとどうなるかをみていきます。
伝統的論理学では、命題は一般に「SはPである」という形をしていると考えます。
(命題と判断を区別する議論もあるのですが、ここでは余計なことを言わずに命題で統一します。)
ここで、Sは主語(Subject)、Pは述語(Predicate)を意味します。
(Pは伝統的論理学用語としては本来、賓辞(ひんじ)と訳されますが、耳慣れないので、述語にしておきます。)
たとえば、 「ギリシア人は死すべきものである」 という命題において、「ギリシア人」がSで「死すべきもの」がPです。
(日本語では英語 mortal の訳語として普通は「死すべきもの」なんて言葉は使いませんが、これが出てくると一挙に古めかしい伝統的論理学らしくなります(^^)
ただ、これだけでは完全な命題ではなく、真偽を決められません。
主語であるギリシア人の範囲を決める必要があります。
たとえば、 「すべてのギリシア人は死すべきものである。」 であれば、真偽を決められます。
不死のギリシア人はいないので、真ですね。
「すべての」を全称(ぜんしょう)といいます。
もう一つは、 「あるギリシア人は、死すべきものである。」 という形の命題です。
この「ある」を特称(とくしょう)といいます。
これまで出てきたのはいずれも肯定形でしたが、それぞれの否定形もあります。
「すべてのギリシア人は死すべきものでない。」
「あるギリシア人は死すべきものでない。」
そうすると、全称か特称かと肯定か否定かの組合せで、2×2=4種類の命題ができることになります。
これを次のような記号で表し、名称で呼びます。
記号 名称 形態
A 全称肯定 すべてのSはPである
E 全称否定 すべてのSはPでない
I 特称肯定 あるSはPである
O 特称否定 あるSはPでない
肯定 否定
全称 A E
特称 I O
英語も載せておきます。
A全称肯定 : Universal Affirmative
E全称否定 : Universal Negative
I 特称肯定 : Particular Affirmative
O特称否定 : Particular Negative
wikiによると、AとEはラテン語の肯定 affirmo 、 I とOは否定 nego からとられた記号とのことです。
(Uはないの?と聞きたくなります(^_^が、2×2=4 なので、5番目はありません。)
2.対当の4角形
AE I O それぞれの真偽は内容によりますが、内容とは無関係に AE I O どうしの論理的関係で決められることもあります。
たとえば、A全称肯定が真であれば、 I 特称肯定も真であり、またE全称否定やO特称否定は偽です(ということに、伝統的論理学ではなっています。)。
対当とは、AE I O という4種類の命題間の論理的関係のことです。
(このとき、SとPはそれぞれ1種類で、固定されてます。)
英語だと、AE I O という記号を使う方が見やすいのですが、日本語では漢字4文字で表すことができ分かりやすいため、以下では記号と漢字を並べて使います。
AE I O を長方形の四隅に置き、その間を線で結んで論理的関係を表示したものを
「対当の伝統的4角形図式」(the diagram for the traditional square of opposition)
といいます。
対当の伝統的4角形図式
すべてのSはPである すべてのSはPでない
A全称肯定───反対対当───E全称否定
│ \ / │
│ \ / │
大小対当 矛盾対当 大小対当
│ / \ │
↓ / \ ↓
I 特称肯定───小反対対当───O特称否定
あるSはPである あるSはPでない
4角形には4つの頂点があるので、それらを結ぶ線は全部で 4×(4-1)/2=6本存在します。
つまり、6つの対当が存在しますが、そのうち AO と E I は同じ性質をもち、A I とEOも同じ性質をもちます。
したがって、対当は4種類となります。
以下、順に説明していきます。
なお、この節の各種矢印→は説明の便宜上のもので、厳密な意味は持ちません(論理記号ではありません)。
・大小対当(subalterns)
大小対当とは、全称命題から特称命題が導かれるというものです。
「すべてのSはPである」 ならば 「あるSはPである」。
「すべてのSはPでない」 ならば 「あるSはPでない」。
(「「 」が真である ならば 「 」も真である」としてもよい。)
ただ、全称命題が偽の場合は、特称命題は真であることも偽であることもあり得ます。
対当の4角形では、上下(左辺と右辺)の関係となっています。
大小対当 大小対当
A全称肯定 ─→ I 特称肯定, E全称否定 ─→ O特称否定
・矛盾対当(contradictories)
矛盾対当とは、一方が真であれば他方が偽、一方が偽であれば他方が真であるという関係です。
「すべてのSはPである」が偽である と 「あるSはPでない」が真である とは同値である。
「あるSはPでない」が真である と 「すべてのSはPである」が偽である とは同値である。
AとOの関係を示しましたが、Eと I の関係も同様です。
対当の4角形では、対角線の関係となっています。
矛盾対当 矛盾対当
A全称肯定 ←→ O特称否定, E全称否定 ←→ I 特称肯定
・反対対当(contraries)
反対対当とは、どちらの命題も同時に真であることはあり得ないという関係です。
「すべてのSはPである」かつ「すべてのSはPでない」は 偽である。
ただし、 「すべてのSはPである」も「すべてのSはPでない」もともに偽である こともあり得ます。
対当の4角形では、上辺の関係となっています。
反対対当
A全称肯定 ←→ E全称否定
・小反対対当(subcontraries)
小反対対当とは、少なくともどちらの命題は成り立つという関係です。
「あるSはPである」あるいは 「あるSはPでない」。
なお、 「あるSはPである」も「あるSはPでない」もともに真である こともあり得ます。
対当の4角形では、下辺の関係となっています。
小反対対当
I 特称肯定 ←→ O特称否定
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★ この機会に「論理と言語」というテーマを新設し、この記事と昨年末に書いたロジバンの記事を一緒に入れることにします。
テーマが増えすぎるきらいはあるけど、十数年もやってきて記事の数が多いので、仕方ないかと。
★★ 今日のロジバン
lo mu verba cu kelci lo re bolci
「ロ ム ヴェㇽバ シュ ケㇽシ ロ レ ボㇽシ」
5人の子どもは2個のボールで遊ぶ。
verba : x1は x2(年齢)の x3(観点)での 子どもだ
kelci : x1は x2(道具/方法)で 遊ぶ
bolci : x1は x2(素材)の 球体/ボールだ
冠詞 lo と内容語の間に入った数は、「何個/人の」という意味になります。