0.はじめに
4角形の一種に、「凧形(たこがた)」という面白い形があります。
「凧形」の凧は西洋凧kiteカイトです。
日本の奴凧を思い浮かべてはいけません(^_^
4角形については小学校の算数で勉強したはずですが、凧形については触れられなかったと思います。
実は、多面体シリーズの続編としてカタラン立体という多面体の解説をする予定なのですが、そのいくつかの面の形として凧形が出てくるので、この際、先行的に紹介しておくことにしました。
凧形と他の4角形の関係について説明するとともに、4角形に関する小学校の算数の復習も行います(^_^
例によって幾何の説明なのに画像なし証明なしですが、4角形なので、以下の説明に基づきいらない紙に手書きで描いてもらえれば、十分ご理解願えるかと思います。
万一誤りを見つけた方は、ご指摘いただけるとありがたいです。
多角形では、頂点の数と辺の数は等しいので、
4角形と4辺形は同じものであり、注目する点が異なるだけです。
4角形の4つの内角の和は、360°です。
4角形には、凸4角形と凹4角形があります。
凸(とつ)4角形とは、4つの角がすべて180°未満の4角形のことです。
凹(おう)4角形とは、1つの角が180°を上回る4角形のことです。
ここで、ある図形が凸というのは、図形内部の点どうしを真直ぐ結ぶ線分が必ず図形内部に含まれる場合をいいます。
逆に、図形が凹であるとは、図形内部の点どうしを真直ぐ結ぶ線分が図形からはみ出すことがある場合です。
通常、4角形というと凸4角形を指します。
以下、4角形とは凸4角形を意味するものとします。
4角形の隣り合わない2辺を対辺と呼びます。
隣り合わない2角を対角と呼びます。
(「対」は「向かい合う」の略記です。)
4角形ABCDの対辺ABとCDが平行であることを、次の記号で表します。
AB // DC.
(CDではなくDCにしたのは、頂点どうしを対応させるためです。長さであれば向きは無関係ですが、平行という関係では向きが大事です。)
1.凧形とさまざまな4角形
4角形ABCD でAB=BC,CD=DAをみたすものを、凧形といいます。
4角形ABCDに関して、次の3つの条件は同値です。
・凧形である。
AB=BC,CD=DA.
・2本の対角線ACとBDが直交し、BDはACを2等分する。
AC⊥BD,AE=EC ただし、EはACとBDの交点。
・1組の対角が等しく、2本の対角線は直交する。
∠BCD=∠DAB,AC⊥BD.
1組の対辺が平行である4角形を、台形といいます。
AB // DC.
2組の対辺が平行である4角形を、平行4辺形といいます。
AB // DC,BC // AD.
平行4辺形は台形の一種です。
4角形ABCDについて、次の4つの条件は同値です。
・平行4辺形である。
・2組の対辺が等辺である。
AB=CD,BC=DA.
・2組の対角が等しい。
∠ABC=∠CDA,∠BCD=∠DAB.
・2本の対角線ACとBDがそれぞれの中点で交わる。
AE=EC,BE=ED ただし、EはACとBDの交点。
4辺の長さが等しい4角形を、菱形(ひしがた)といいます。
AB=BC=CD=DA.
4角形ABCDについて、次の3つの条件は同値です。
・菱形である。
・2本の対角線ACとBDはそれぞれの中点で直交する。
AC⊥BD,AE=EC,BE=ED ただし、EはACとBDの交点。
・台形でありかつ凧形である。
AB // DC,AB=BC,CD=DA.
菱形は平行4辺形の一種です。
また、菱形は凧形の一種です。
4つの角がすべて等しい4角形を、長方形といいます。
このとき、4つの角は直角となります。
∠ABC=∠BCD=∠CDA=∠DAB=90°.
長方形は平行4辺形の一種です。
4角形ABCDについて、次の3条件は同値です。
・長方形である。
・平行4辺形であり、かつ1つの角が直角である。
・2本の対角線ACとBDは長さが等しく、かつそれぞれの中点で交わる。
AE=EC=BE=ED ただし、EはACとBDの交点。
長方形でありかつ菱形である4角形を、正方形といいます。
AB=BC=CD=DA,∠ABC=∠BCD=∠CDA=∠DAB=90°.
4角形ABCDについて、次の条件は同値です。
・正方形である。
・2本の対角線ACとBDは長さが等しく、かつそれぞれの中点で直交する。
AC⊥BD,AE=EB=CE=ED ただし、EはACとBDの交点。
以上で示した各概念間の関係を、集合論の記号で表現します。
{〇}を、〇である4角形全体の集合とします。
{平行4辺形}⊂{台形}.
{菱形}⊂{平行4辺形}.
{菱形}={台形}∩{凧形}.
{長方形}⊂{平行4辺形}.
{正方形}={長方形}∩{菱形}.
集合間の包含構造を束として示します。
/{長方形}―{平行4辺形}―{台形}\
{正方形} / {凸4角形}
\ {菱形} ― {凧形} ――――― /
―、/、\のいずれも、⊂に置き換えてみてください。
私は、近年、長方形よりも菱形の方がエライと思うようになりました(^_^
2.凧形双角錐
4角形だけでおしまいだと少し寂しい気がするので(^_^、凧形から構成される多面体を紹介します。
カタラン立体と呼ばれる種類の多面体に、凧形24面体と凧形60面体があります。
しかし、カタラン立体は別途まとめて紹介する予定なので、今回は凧形双角錐をご紹介します。
“Trapezohedron”でググって、英語のwikiを開き、”Form”という項の1行目”Polyhedron”を見ていくと、凧形からなる多面体が載っています。
これが凧形双角錐(trapezohedron)です。
本来の双角錐とは、底面が同じ正多角形からなる角錐2つを底面どうし貼り合わせてできる多面体のことです。
そのうち、正3角形の面だけからなるものとして、 双正3角錐、双正4角錐(正8面体)、双正5角錐の3種類があります。
双正4角錐は正8面体なので、正多面体に分類されます。
双正3角錐と双正5角錐は、ジョンソン立体です。
面の形を正3角形から一般の2等辺3角形に広げれば、双正6角錐以上も構成することができます。
その場合は、もちろん正多面体やジョンソン立体にはなりません。
凧形双角錐は、見た目が双正角錐とよく似ていますが、2等辺3角形(正3角形)ではなく、凧形(4角形)から構成されます。
上半分と下半分が互いに食い込み合っているので、本物の双角錐とは異なり、全体を上下2つに分離することはできません。
また、双正角錐とは異なり、上半分と下半分が半分ずつずれています。
立方体は、凧形双角錐の一種です。
この場合は面が正方形であり、正多面体となります。
しかし、立方体以外の凧形双角錐の面(凧形)は正方形ではなく、正多面体やジョンソン立体にはなりません。
反正角柱の双対は、凧形双角錐となります。
反正角柱とその双対の凧形多面体、双正角錐について、面、稜、頂点の数などを比較します。
反正角柱、凧形双角錐、双正角錐の比較
面F 稜E 頂点V 面の内訳 対称性
双正n角錐 2n 3n 3n+2 F3=2n Dnh
凧形双角錐 2n 4n 2n+2 F4=2n Dnd
正n角反柱 2n+2 4n 2n F3=2n,Fn=2 Dnd
面の内訳は、たとえば「F3=2n」は3角形の面が2n枚あることを意味します。
対称性を表すのは、シェーンフリース記号(Schoenflies notation)です。
いずれの多面体も、底面の中心と天井の中心あるいは頂上点を結ぶ垂直な主軸がn回回転軸となります。
この対称性がCnです。
nは、天井あるいは底面が正n角形であることを表します。
加えて、主軸に垂直な2回回転軸(C2)をn本もつとき、Dnとなります。
さらに、Dnhのhは、「水平な(horizontal)」の意で、主軸に垂直な鏡映面をもつことを意味します。
Dndのdは、「対角的な(diagonal)」の意で、鏡映面が隣り合う2本のC2軸の2等分線と主軸を通ることを意味します。
たとえばn=5のとき、正5角反柱はD5d、凧形双角錐もD5d、双正5角錐はD5hです。
n=3の凧形多面体の特別な場合が、立方体です。
n=2の場合は、線分を正2角形とみなすと、正4面体が凧形双角錐の特別な場合となります。
なお、その双対の正2角反柱も正4面体です。
★ この記事も、前回の「反台塔」と同じく、多面体シリーズの番外編という位置付けです。
♪空は夏の色に染まる 白いカイトも揺れている~ (My Little Lover「白いカイト」)