圏論の簡単な入門1 | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

 目次

  0 はじめに

  1 圏

  2 小圏

  3 関手と自然変換

  4 関手の例

  5 モノ射とエピ射

  6 終対象、始対象など

  7 部分対象、商対象、積、余積

  8 おわりに

 

 

  0 はじめに

 

 圏論(けんろん)というのは、一言でいうと、矢印 → で展開する数学です。

 矢印は正式には射(しゃ)という名前が付いていて、数学的対象を別の数学的対象に写すものです。

 圏論の何が良いのかというと、数学のさまざまな分野を結び付けることができるのです。

 

 圏論では対象と射(矢印)を組み合わせた「可換図式(かかんずしき)」と呼ばれるものが重要な役割を果たします。

 可換図式に出てくる矢印は向きや長さがさまざまなので、“絵”を描かないこのブログでは圏論を展開するのは無理かと半ば諦めていました。

 でも、斜め矢印の記号を発見?して(前からあったんでしょうけど(^^;)、あまり見やすくはないものの、何とか可換図式を文字と記号で描けるようになりました。

 

 今回は、圏論の入り口のところを、例示を交えながら展開することとします。

 例示はまず集合の圏 Set から取りますが、それと対照するため私の知っている範囲で他の圏の例も示したいと思います。

 Set の例については、先に連載した次の記事を参照していただきたいと思います。

 圏論の準備としての集合論の初歩1:

https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12565811020.html

 

 

  1 圏

 圏の定義 : (category) C とは、対象(object)と呼ばれるものの集まりと(arrow, morphism)と呼ばれるものの集まりが指定されて、次の公理a~cをみたすもののことである。

 a.任意の対象x,yに対して、xからyへの射の集まり C (x, y) が存在する。

  「xからyへの射 f 」を f:x→y とも書く。

   f∈ C (x, y).

 b.任意の対象x,y,z、射 f:x→y,g:y→z に対して、fとgの合成(composition)と呼ばれる射がただ1つ存在し、xからzへの射となる。f とgの合成を gf と書く。

   f∈C (x, y) ∧ g∈C (y, z) ⇒ gf∈C (x, z).

   gf:x→z.

 次の図式が可換となります。(可換とは、xから直接gf を通ってzに行っても、 f を通ってyに行きさらにgを通ってzに行っても、同じだという意味)

      f

    x → y

  gf ↘ ↓g

       z

 c.対象xから自分自身への射の集合は、恒等射(identity)と呼ばれるただ1つの特別な射を含む。これを、1x と書く。

   1x ∈ C (x, x), 1x:x→x.

 恒等射 1x は、任意の射 f :y→x,g:x→z に対して、次の性質をもつ。

   1xf = f , g1x = g.

 次の2つの図式が可換となります。

     f

    y → x

    f ↘ ↓1x

       x

     1x

    x → x

    g ↘ ↓g

       z

 

 “category”は、哲学用語としては範疇(はんちゅう)という訳がありますが、カテゴリーという日本語も定着していますね。

 一般的には、区分、部門、部類といった意味でしょうか。

 ただ、英語の発音はキャテゴリに聞こえます。

 

 定義の中に「集まり」という用語が出てきますが、この「集まり」は一般には“大きすぎて”集合になりません。

 英語だと、"set" ではなく "class" です。

 

 ・ f:x→y について、xを f の(domain)、yを f の余域(codomain)といい、次のように書く。

   x = dom(f), y = cod(f).

 ・C (x, y) を Hom集合という。

 これは、従来は HomC (x, y)と表されていたためで、C (x, y)は最近出てきた表記です。

 (HomC (x, y)という表記は今も使われています。)

 

 圏論の思想は(と言えるほど私は数学も圏論も知らないわけですが(^^;)、普通の数学が対象の中の構造を調べるのに対して、対象間の関係、つまり射が大事だというものです。

 「人は外面が9割」という言葉(本)がありますが(少し違うかもしれないけど)、「圏論は外面がすべて!」というわけです。

 だから、対象において大事なことは全部 Hom集合に含まれているのですね。

 

 圏の例を見ていきましょう。

 集合の圏 Set では、対象は集合、射は写像です。

 群の圏 Grp では、対象は群、射は群準同型です。

 代数系の圏は、他にも、モノイドの圏 Mod、アーベル群(可換群)の圏 Ab、必ずしも単位元をもたない環の圏 Rng、単位元をもつ環の圏 Ring、体の圏 Fld などいろいろありますが、射はいずれも演算を保存する準同型です。

 位相空間の圏 Top では、対象は位相空間、射は連続写像です。

 

 集合の圏において、Hom集合 Set (X,Y) はベキ集合になります。

   Set (X, Y) = Y^X.

 向きが逆になるのがどうにも不細工ですが、仕方ありませんね。

 

 点付き集合の圏の定義 : 空でない任意の集合Xとそれに含まれる1点xの組合せ (X, x) を点付き集合(pointed set)という。 点付き集合 (X, x),(Y, y) に対して、

   f:X→Yj;x|→y

 をみたす写像を、射 f:(X, x)→(Y, y) と定義する。

 点付き集合の全体は圏をつくるので、これを Set と書く。

 点付き集合(X, x)のxを、基点という。

 

 なんで点付き集合の圏なんてものを考えるかというと、群や環など代数系の圏では単位元あるいは零元が特別な役割を果たし、その準同型(射)は単位元を単位元に写します。

 それが代数系の圏の大きな特徴の一つになっているので、演算をすべて忘れて単位元1つだけを残したものが点付き集合というわけです。

 ただの集合だとツルツルのノッペラボウなので、基点というヘソを付けたのですね。

 射はヘソをヘソに写す写像です。

 *がヘソの印かな(^_^

 後でいろいろな概念の例示を考えるときに、集合の圏 Set との違いが出てきて、ヘソのあるなしでこんなに違うのかというのが面白いです。

 ここで重要なのは、「空集合は点を指定できないので点付き集合にならない」ことです。

 同様に、点付き位相空間の圏 Top なんてものもありますが、本稿では扱いません。

 

 集合の圏 Set の恒等射は、1x:x|→x です。

 

 同型射の定義 : 圏 C の対象 x,y と射 f:x→y に対して、射 g:y→x が存在して次の性質をみたすとき、 f を同型射(isomorphism)という。

   gf = 1x, fg= 1y.

 このとき、gも同型射となり、f の逆射という。

 同型射 f:x→y が存在するとき、対象xとyは(互いに)同型(isomorph)であるという。

 

 ・ 恒等射は同型射である。したがって、すべての対象は自分自身と同型である。

 ・ 集合の圏 Set では、全単射が同型射である。

 

 群、環などの代数系で演算を保存する写像が準同型です。

 全単射である準同型が、その逆も準同型であるとき、同型といいます。

 ・ 代数系の圏では、同型が同型射である。

 位相空間どうしの間の連続写像が全単射で、逆写像も連続写像であるとき、同相写像といいます。

 ・ 位相空間の圏 Top では、同相写像が同型射である。

 

 双対概念 : 圏論におけるさまざまな概念は対象と射によって定義されますが、対象はそのままにして射の矢印の方向だけ逆にしたものを、もとの概念の双対(概念)といいます。

 双対概念の呼び方は、特別なもの(後で登場します)を除き英語ではもとの単語の頭に”co”を付けたもの、日本語では同じく「余」を付けたものとするのが一般的です。

 ”co” (コ)を「余」(ヨ)としたのは、うまい訳し方だと思いませんか(^_^

 

 双対圏の定義 : ある圏 C に対して、C と対象は同一で射の向きをすべて反転させた圏を、C双対圏(dual category)あるいは反対圏(opposite category)といい、C op で表す。

 op は opposite から取っています。

 

 ------------------------ 続 く -----------------------

 

 圏論の簡単な入門2:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12572675388.html