△水素の21cm線て何のこと? | 宇宙とブラックホールのQ&A

宇宙とブラックホールのQ&A

2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

Q 天文学では、水素の21cm線というのが出てきますが、これは何なのでしょうか?
また、超微細構造遷移放射という難しそうな言葉も見かけるのですが、同じ意味なのでしょうか?


A 宇宙空間の水素といっても、水素分子 H2、中性水素原子 HI、電離水素 HII (陽子と電子からなるプラズマ)という3種類があります。
このうち、中性水素原子 HI は、陽子1個だけからなる原子核の周りを電子1個が回っています。


原子や分子はミクロの存在なので、量子論により決まったエネルギー準位しかとれません。
あるエネルギー準位から別のエネルギー準位に移ることを遷移(せんい)といいます。
原子や分子などは、高いエネルギー準位からより低いエネルギー準位に遷移するときに、その差に相当するエネルギーをもつ電磁波を放射し、これはスペクトル中の輝線として観測されます。
△輝線や吸収線て何のこと? | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)


水素原子のエネルギー準位は基本的には1個しかない電子がどの軌道にいるかで決まり、遷移により紫外線、可視光、赤外線領域の電磁波を放射します。
しかし、低温の場合にはほとんどの水素原子はエネルギー準位が最低の基底状態にあるため、より低いエネルギー準位に遷移して電磁波を放射することはありません。

ところが、一つだけ例外があります。
量子論によれば、素粒子(電子など)や複合粒子(陽子など)はスピンという量をもちます。
スピンはマクロでいう自転(正確には角運動量)に相当するのですが、量子論的な量なので、決まった値しかとれず、この場合は素粒子論で使われる単位で整数か半奇数(1/2が付く値)となります。
水素原子を構成する陽子と電子は、どちらもフェルミ粒子といって、スピン1/2をもちます。
水素原子内では、電子のスピンは陽子のスピンの向きと同じ(↑↑平行)か正反対(↑↓反平行)のいずれかです。
そして、水素原子のエネルギー準位は、平行の方が反平行よりわずかに高いのです。
このため、スピンが平行状態の水素原子は極めてまれに反平行状態に遷移し、その際に電磁波を放射します。


水素原子の基底状態のエネルギー準位が、スピン平行状態と反平行状態に分かれていることを超微細構造といい、その間の遷移による放射を正式には超微細構造遷移放射といいます。

 

この電磁波は、周波数が約1 420MHz、波長が約21.106cmで、電波の領域にあります。

このため、この電磁波を水素の21cm線と呼びます。
遷移までにかかる平均的な時間は約1000万年ですが、宇宙空間には水素原子が極めて多数存在するため、電波望遠鏡でこの21cm線を観測することにより、水素原子の多い領域を知ることができるのです。