正多面体と群1 | 宇宙とブラックホールのQ&A

宇宙とブラックホールのQ&A

2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

目次
 0.はじめに
 1.群の基本
 2.巡回群
 3.2面体群
 4.正多面体に関連する群
 5.置換、対称群、交代群
 6.3次回転群とその有限部分群
 7.3次直交群とその有限部分群
 8.立体の対称性と両立する模様
 9.おわりに


 0.はじめに
一辺が5cmくらいの立方体、つまり大きいサイコロのようなものを想像してください。
ただし、とりあえず各面は無地だとします。
上下の面の中心(以下、面心という)を親指と人差指で軽く押さえて、クルクル回してみます。
次に、向かい合う頂点2つを同じく親指と人差指で軽く押さえて、回してみます。
こっちの方がずっと回しやすいですね。
最後に、向かい合う稜(りょう、立体の辺のこと)を同じように押さえて、クルクル回してみます。
面のときは1/4回転で元の形に重なりますが、頂点では1/3回転、稜では1/2回転で元の形と重なります。
一般に、図形のこうした性質を回転対称性といいます。
元の形に重なる操作を合同変換といいますが、回転は合同変換の一種です。

合同変換は回転だけではありません。
向かい合う2本の稜を含む斜めの平面で立方体を切ると、真っ二つに割ることができます。
その平面の両側は、右手と左手のように鏡に映したような関係になっています。
この平面を鏡映面といいます。
実は、立方体では別のタイプの鏡映面もあって、鏡映面は2種類存在します。
いずれについても、同じ鏡映(鏡のように映すこと)を2回繰り返すと、元に戻ります。
また、別の鏡映を2回続けて行うと、回転の一つと同じ結果になります。

以上で述べたようなことを研究する数学の分野が群論です。
群論とは、標語的にいうと「対称性の科学」です。
川崎徹郎著 『文様の幾何学』第4章の冒頭部分で幾何学における群の役割を要約しており、的確な解説だと思うので、引用しておきます。
>図形の対称性とは、その図形をそれ自身に写す合同変換の全体であると考えることができる。それらは合成という演算に関して閉じている。そのような変換の集まりを抽象的に定義したものが群である。・・・

本稿をまとめる際に参考にしたのは、『文様の幾何学』と小林正典著『線形代数と正多面体』の2冊です。
ただし、両者は用語や記号法に違いがあります。
また、この分野は物理や化学、地球科学、特に結晶学に応用され、その際に用いられる記号法が複数種類あります。
しかし、今回は数学的扱いに興味があるので、参考にした数学書2冊の記号法を取捨して採用します。
このため、必ずしも一般的でない記号もあるので、ご注意ください。
(実際は、「物理や・・・結晶学」の本数冊がいずれも段ボール箱の中から出てきそうもないので、今手元にある数学書だけに頼っているという体たらくです(^^;)

以前掲載した『文様の幾何学』の書評とは重複する箇所も多いですが、本稿の方がより詳細に展開しています。
『文様の幾何学』 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)


以下では、例によってちゃんとした証明はほとんど付けないので、ご了承ください。
また、数学では重要な結果を「定理」、そうでないものを「命題」、定理の証明のために必要なものを「補題」、定理や命題から派生するものを「系」と用語を使い分けますが、私は事柄の軽重が分かるほど群論を知っているわけではない(^^;ので、ここではほとんど全部「定理」と呼んでいます。
回転の表し方は、回した角度で2π/3回転あるいは120°回転と呼ぶ流儀もありますが、本稿では分かりやすさを重視して1/3回転と表記することにします。
記号∪と∩は、集合の合併と共通分を、-は数の差だけでなく集合の差も表わします。


 1.群の基本
群(group、グループ)というのは、次のような変換操作の集まりです。
(0) どの2つの変換をとっても、それらを続けて行うことができ、その結果はまた変換となる。(合成)
(1)  3つの変換を続けて行うとき、それらの組合せ方を変えても同じ結果となる。(結合法則)
(2) 「何も行わない変換」が存在する。(恒等変換)
(3) どの変換に対しても、それを打ち消して何も行わなかったことにする変換が存在する。(逆変換)

より一般的、抽象的には、群を次のように定義します。
群とは、集合の要素の間に演算×が定義されていて、次の3つが成り立つものです。
(1) 結合法則
  (x×y)×z = x×(y×z)
(2) 単位元 e の存在
  x×e = e×x = x
(3) 逆元の存在
  x-1×x = x×x-1 = e
ここでは演算を乗法記号×で表わしましたが、別の記号でもかまいません。
単位元(identity element)は、数であれば 1 で表すのが自然ですが、本稿は図形の変換を扱うので e で表わします。
e は、ドイツ語の 1 を表わす単語 Eins アインスの頭文字から来ています。

交換法則  x×y  =  y×x が成り立つ場合、この群を可換群(かかんぐん、commutative group)またはアーベル群(abelian group)といいます。(アーベルは26歳で早世した19世紀ノルウェーの天才数学者。天才は早死にしても歴史に名を残しますが、我ら凡人は何も残らないので、せめて長生きしたいものです(^_^)
可換群では演算は乗法記号×ではなく加法記号+で表示する場合もあり、逆に慣習として加法記号+を使ったらその演算は可換と考えて間違いありません。
演算として加法をとる場合には、単位元は 1 ではなく 0 となります。単位とはそもそも 1 のことなので、0 を単位元と呼ぶのは奇異に感じられますが、そういうものだと思ってください(^_^
一般には、群は非可換です。

上着を脱ぐのとズボンを脱ぐのはどちらを先にしても構いませんが、上着を脱ぐのとシャツを脱ぐのとでは前者を先に行う必要があります。
また、将棋では後から指すべき手を先に指してしまうことを「手順前後(てじゅんぜんご)」と言い、敗因の一つとされます。(囲碁はよく知らないけど、やっぱりそういうものでしょ。)
変換の順序を変えれば結果も変わってしまうのが通例です。

f と g を変換とし、x をその対象とします。
fg と書いたときは、変換 g をまず行った後に変換 f を行うことを意味するものとします。
これは一見逆のようですが、「変換 fg が対象 x に働きかける」とは次の意味だと考えれば納得できます。
  (fg)x = f(g(x))
(でも、逆の記法をとる数学書もあるようなので、ご注意ください。)

群の要素の数を、その群の位数(いすう、order、オーダー)といいます。
位数が有限の群を有限群(finite group、ファイナイト・グループ)といい、無限の群を無限群(infinite group、インフィニト・グループ)といいます。
本稿の主な目的は立体(空間図形)の対称性を表わす有限群をご紹介することですが、それに関連して他の有限群や無限群もご紹介します。

群の定義から、すべての群は単位元 e を含みます。
逆に、単位元 e しか含まない群も考えることができ、これをEで表わすことにします。
  E = {e}
空集合は群になり得ないため、これが最小かつ最も簡単な群です。
2つの群GとHがまったく同じ構造をしているとき、同型であるといい、次のように書きます。
  G
数学的定義としてはいい加減だし、本当は同型よりも準同型という概念の方がずっと重要なのですが、今回はこれだけで済ませておきます。


 2.巡回群
図形のもっとも簡単な例として、正3角形を考えましょう。
正3角形の中心周りの 1/3 回転と 2/3 回転は、合同変換です。
単位元である恒等変換と合わせて、これらは位数3の群をつくります。
たとえば、1/3 回転の次に 2/3 回転を行えばちょうど 1 回転ですから恒等変換となり、2/3 回転を2回繰り返せば 1/3 回転となります。
(正3角形に切った紙をテーブルの上に置いて、グルグル回してみてください。)
この群を位数3の巡回群といい、C3 で表わします。
また、このような対称性を3回回転対称性といいます。

正方形、正5角形、正6角形、・・・についても同様に合同変換となる回転を考えることができます。
一般に次の回転たちは正n角形の合同変換となります。
  1/n回転、2/n回転、・・・、(n-1)/n回転
これらの回転すべてと恒等変換 e からなる群を Cn と書き、巡回群(cyclicgroup、サイクリック・グループ)と呼びます。
巡回というのは、ある平面上でグルグル回る(回す)イメージです。
正2角形はありませんが、代わりにひし形をとり上げてその半回転を考えれば、C2となります。
また、 EをC1 とみなすことにすれば(無理はありますが(^^)、1以上の整数すべてについてCn が存在します。
Cn の位数はnです(n≧1)。
また、このような対称性をn回回転対称性といいます。

次に、正3角錐を考えます。
以前の連載では正多角形の面だけからなる立体を扱っていたので、正3角錐=正4面体でしたが、ここでは一般的に側面は2等辺3角形からなるものとします(正4面体は別に出てきます。)。
底面の正3角形の中心(以下、面の中心の意味で面心という)と上の頂点を結ぶ軸を中心とした回転を考れえば、正3角錐の合同変換となる回転の全体はC3 をつくることが分かります。
同様に、正n角錐の回転対称性は巡回群Cnで表わされます。

巡回群C6 は、単位元と 1/6、2/6=1/3、3/6=1/2、4/6=2/3、5/6 回転を含みます。
このうち、恒等変換と半回転はC2 を構成し、恒等変換、1/3、2/3 回転はC3 を構成します。
このことを、「C2 とC3 はC6 の部分群である」と表現し、次のように表わすことにします。
  C2 C6, C3 C6
一般に、群Gの部分集合HがGの演算で群になるとき、HをGの部分群(subgroup、サブグループ)であるといい、HGで表わします。
HがGの部分群、J がHの部分群ならば、J はGの部分群です。
  J G  →  J

単位元だけからなる群 E はすべての群に部分群として共通に含まれます。
また、すべての群Gは自らを部分群として含みます。
  E G, G
この2つを自明な部分群(trivial subgroup、トリヴィアル・サブグループ)と呼びます。(「自明な(trvial)」は、ニュアンスとしては「当たり前すぎてつまらないけど、基本なんだから忘れないでね!」というところかと。)

一般に次の定理が成り立ちます。
定理2-1 : 巡回群の部分群は、巡回群である。
定理2-2 : mがnの約数であるとき、巡回群 Cm は巡回群 Cn の部分群である。
  Cm Cn
定理2-3 : 群Hが群Gの部分群である(HG)とき、Hの位数はGの位数の約数である。
(これだけは、巡回群に限定されない一般的な定理です。)
定理2-4 : 巡回群はアーベル群である。
定理2-5 : nが素数のとき、位数nの群は巡回群Cnの1種類である。その部分群は自明な群に限る。
定理2-6 : nが素数のとき、位数n2 の群は巡回群Cn2 とCn×Cnの2種類であり、いずれもアーベル群である。


 3.2面体群
正3角形の回転合同変換は、その正3角形を含む平面内のものだけではありません。
正3角形△ABCを空間内で考えると、ある頂点Aと対辺BCの中点を結ぶ軸の周りで半回転させれば、頂点Aはそのままで、他の2つの頂点BとCが入れ替わり、また裏表が引っくり返ります。
このような半回転は、全部で3つあります。
C3 の回転3つに、これら3つを加えた回転の集合は、やはり群をつくります。
この群をD3 と呼びます。
D3 の位数は6です。

正n角形についても、空間内で半回転させて裏表を引っくり返す合同変換を考えることができます。
一般に、正n角形の空間内における回転合同変換すべてからなる群を Dn と書き、2面体群(dihedral group、ダイヘドラル・グループ)と呼びます。
2面体という呼称の由来は、正n角形の表と裏をそれぞれ1つの面とみることができるからです。
Dn の位数は2nです。
なお、D2はひし形の回転合同変換すべてからなる群であり、位数4です。

D3の対称性をもつ立体の例として、正3角柱があります。
その側面は、長方形です。
天井と底面の正3角形の面心どうしを結ぶ軸を中心にした 1/3 回転と 2/3 回転は合同変換であり、この軸を垂直軸と呼ぶことにします。
一方、側面の長方形の面心とそれに向かい合う稜の中点を結ぶ軸を中心とした半回転も、合同変換です。
この軸を水平軸と呼ぶこととし、正3角柱には水平軸は3本あるので1~3の番号を付けます。
正3角柱の回転合同変換は次の6個です。
  ・恒等変換、・垂直軸周りの 1/3 回転、・同 2/3 回転、
  ・水平軸1周りの半回転、・同2回りの半回転、・同3回りの半回転
これらの全体は2面体群 D3 を構成します。
一般に、正n角柱は2面体群Dn の回転対称性をもちます。
ただし、nが奇数の場合にはD 3でみたように水平軸が1種類なのに対して、nが偶数の場合には側面の向かい合う面心どうしを結ぶ軸と、側面の向かい合う稜の中点どうしを結ぶ軸の2種類があり、両者はどんな合同変換でも重なりません。
一般にDnでは、nが奇数の場合と偶数の場合とで性質が異なります。

定理3-1 : D2 以外の2面体群は非可換である。
これは、垂直軸周りの回転と水平軸周りの回転を順次行うとき、順番を変えると結果が異なることから分かります。
ただし、D2 C2×C2 なので、D2 だけはアーベル群です。
巡回群はすべてアーベル群であり、また位数4の巡回群C4 と同じく2面体群D2 は同型ではないので、次の定理が得られます。
定理3-2 : 2面体群と巡回群は同型ではない。

2面体群でも、巡回群のときと同様に次の定理が成り立ちます。
定理3-3 : mがnの約数であるとき、2面体群 Dm は2面体群 Dn の部分群である。
  Dm Dn

また、巡回群と2面体群の間には次の関係が成り立ちます。
定理3-4 : 巡回群 Cn は2面体群 Dn の部分群であり、両者の位数の比は 1 : 2 である。
  Cn Dn

次の定理は、2面体群の特徴を表わしています。
定理3-5 : 2面体群 Dn は、nが奇数のとき部分群として C2 をn個含み、nが偶数のとき同じく(n+1)個含む。
これを次のように表わすことにします。
  nが奇数のとき、 nC2 Dn,
  nが偶数のとき、 (n+1)C2 Dn
偶数のとき1つ多くなるのは、垂直軸周りの半回転が存在するからです。
先ほどの正3角柱の例でいえば、
  {恒等変換、水平軸1周りの半回転}、{恒等変換、水平軸2周りの半回転}、
  {恒等変換、水平軸3周りの半回転}
の3つがC2 部分群です。

定理3-6 : nが3以上の素数のとき、位数2nの群は巡回群C2n と2面体群Dn の2種類である。


 4.正多面体に関連する群
巡回群と2面体群は有限群の典型ですが、有限群としては他に正多面体に関連する群もあります。

まず、正4面体を取り上げます。
向かい合う稜の中点どうしを結ぶと、3本の軸ができます。
この軸を中心に半回転させるのは合同変換なので、これらの軸はC2 の対称性を備えています。
また、頂点と向かい合う面心を結ぶと、4本の軸ができます。
この軸を中心に 1/3、2/3 回転させるのは合同変換なので、これらの軸はC3 の対称性を備えています。
回転全体をまとめると、恒等変換も含め次のようになります。
 Ta.恒等変換 : 1
 Tb.稜中点軸周りの半回転 : 3
 Tc.頂点・面心軸周りの 1/3、2/3 回転 : 4×2=8
したがって、正4面体の回転による合同変換は、
  1 +3 +8 = 12
となり、全部で12個あります。
これらの回転を続けて行うと、その結果もまた合同変換である回転なので、12個のいずれかとなります。
したがって、正4面体の回転全体は群をつくります。
この群を、4面体群(tetrahedral group、テトラヘドラル・グループ)と呼び、T12で表わします。(12は群の位数です。)

同様に、立方体についても合同変換となる回転を列挙すると、
 Oa.恒等変換 : 1
 Ob.稜中点軸6本の周りの半回転 : 6
 Oc.頂点軸4本の周りの 1/3 回転、2/3 回転 : 4×2=8
 Od.面心軸3本の周りの 1/4、1/2、3/4 回転 : 3×3=9
  1 +6 +8 +9 = 24
つまり全部で24個です。
また、正8面体についても合同変換となる回転の数は24個で同じです。
ただし、立方体と正8面体では、cとdつまり頂点軸と面心軸とが入れ替わります。
これらの全体も群をつくります。
この群を8面体群(octahedral group、オクタヘドラル・グループ)と呼び、O24で表わします。(下添字の24は群の位数です。)
立方体と正8面体の対称性は、いずれも8面体群に従います。

正12面体についても同様に、
 Ia.恒等変換   : 1
 Ib.稜中点軸15本の周りの半回転   : 15
 Ic.頂点軸10本の周りの 1/3回転、2/3 回転   : 10×2=20
 Id.面心軸6本の周りの 1/5、2/5、3/5、4/5 回転   : 6×4=24
合同変換となる回転の合計は
  1 +15 +20 +24 = 60
また、正20面体についても、cとdが逆になるだけで、合計60です。
これらの全体がつくる群を20面体群(icosahedral group、アイコサヘドラル・グループ)と呼び、I60で表わします。(60は群の位数です。)
正12面体と正20面体の対称性は、いずれも20面体群に従います。

8面体群、20面体群の代りに立方体群、12面体群と呼んでもよいように思いますが、正3角形からなる方をとって 8面体群、20面体群と呼ぶのが慣例です。

以上の考察から分かるように、たとえば4面体群は巡回群C2 を部分群として含みますが、稜中点軸は全部で3本あるので、3つの異なるC2 を含んでいます。
4面体群、8面体群、20面体群の部分巡回群は、全部で次のようになります。
  3C2 T12, 4C3 T12,
  6C2 O24, 4C3 O24, 3C4 O24
  15C2 I60, 10C3 I60, 6C5 I60

4面体群T12、8面体群O24、20面体群I60 を合わせて正多面体群と呼びます。
また、巡回群Cn、2面体群Dn、正多面体群T12,O24,I60 を合わせて多面体群と呼びます。
定理4-1 : 3つの正多面体群T12,O24,I60 はいずれも非可換である。
定理4-2 : 5種類の多面体群は互いに同型ではない。

多面体群T12,O24,I60 どうしの包含関係は、次の関係となっています。
定理4-3 : 4面体群は8面体群の部分群であり、20面体群の部分群でもある。
  2T12 O24
  5T12 I60
しかし、24は60の約数ではないので、8面体群 O24 は20面体群 I60 の部分群ではありません。

---------------------- 続 く -------------------

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