算数の世界6 | 宇宙とブラックホールのQ&A

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 第7章 乗法とは?
「乗法が使われる場面は三種類」
本書によれば乗法が使われる場面には、a.正比例型 、b.複比例型 、c.倍拡大型 という三種類あります。
三つの型は、乗法としていずれが正しい・間違っているとか優れている・劣っているというものではありません。
しかし、根本的な違いがあるので、どれを採るかによって乗法のイメージが変わってきます。

 a.正比例型 : 小学校
・カメさんが道を毎分2mの速度で歩いています。3分経つと、何m歩きましたか?
   2m/分 × 3分 = 6m
これは、y=ax という正比例関数として表されます。
この場合、x と y とが基礎的な量(3分、6m)で、a は比例定数(2m/分)として媒介的に現われるのが普通です。
「等速運動は正比例」
次も同じ構造ですが、分離量の場合です。
・ウサギさんの耳は2本です。ウサギさんが3匹いると、その耳はいくつあるでしょうか?
   2本/匹 × 3匹 = 6本

 b.複比例型 : 主に中等教育以上
・重さ2gのものを3m動かす仕事量は?
   2g × 3m = 6gm
(重さなので、正確には「g」ではなく「g重」ですが、小学生用表現です(^^)
これは z=xy という複比例関数として表されます。
この場合、x と y とが基礎的量(2g,3m)であって、それらを結合させて新しい量 z (6gm)が形成されます。
複比例が難しいのは、新しい量の定義となっているからです。
また、正比例関数が一変数関数であるのに、複比例関数は二変数関数であることにも基本的違いがあります。
他の例として、社会科の輸送量トンキロ、中学の理科に出てくる運動量(質量×速度)、モーメント(長さ×重さ(力))があります。
竹内さんによれば、経済学における次の関係も複比例の典型です。
   価格 × 数量 = 金額
小学校の長方形の面積も、複比例型の「退化」したものです(退化というのは、本来は x と y が異なる種類の量であるところ、たまたま一致してしまっているということ。)。
・縦2cm、横3cmの長方形の面積は?
   2cm × 3cm = 6cm2

 c.倍拡大型: 小学校
・2mの線分を3倍に拡大したら何mになりますか?
   2m×3 = 6m
ここでは、基礎的な量は一種類(2m)しかなく、拡大(3倍)が操作となっている点に特徴があります。
x’=xr として正比例の一種と考えられないこともありませんが、日本の表記法では比例定数 r を書く位置が逆になりますし、基礎にした量との関係も違って、むしろ操作に重点があります。
   Three times two = 2の3倍
      3×2   =  2×3

乗法が加法の繰り返し、すなわち累加(るいか)だというのは、最後の倍拡大型の場合のことです。
   2m+2m+2m = 2m×3 = 6m
でも、「3倍するというのは同じものを3回加えることだ」といいますが、この場合には+の記号は2回しか出てきませんね(植木算)。
+が3回出てくるのは数え足しの極端な解釈で、この場合には+2mという操作を3回繰り返したことになります。
   +2m +2m +2m = (+2m)×3 = +6m
このため、現在でも倍拡大型乗法が小学校での主流です(少なくとも本書出版時までは)。
しかし、この場合には乗法の交換法則 2×3=3×2 が本質的に自明ではありません。
また、0の処理が難しいことや操作と量との混乱などが生じやすいなどの問題があります。

乗法というのは、本質的に二次元的性格をもっているので、イメージとして倍拡大型に固執していては苦しくなります。
乗法の交換法則が成り立つのは、b.の複比例型乗法の基礎が積集合であって、x と y の対等互換性があることによっています。
(と本書には書いてあってそのとおりだと思いますが、上の例のような連続量の場合、積集合を具体的に定義して互換性を示すのは相当面倒です。)
これに対して、正比例型では、基礎となる量 x とそれに付着している量 a とは区別されていて、それが0などの処理をやさしくし、除法との関係を与えています。
・ウサギさんの耳は2本、ウサギさんが0匹だと、耳も0本。
   2本/匹 × 0匹 = 0本

乗法に関わる英語の名詞でも、上記に対応した言葉・イメージの違いが見られます。
product(プロダクト)は「積」で、一般的には異質なものどうしの掛け算の結果であり、新しい量が関係します。
製品という意味はよく知られていますが、化学での生成物という意味もあります。たとえば、塩酸と水酸化ナトリウムを反応させれば、食塩というまったく異なる物質が生まれますね。
一方、multiple(マルティプル)は「倍数」で、足し算を繰り返した結果ですから、新しい量は出てきません。
電気回路の並列も意味するということです。
(どちらの単語も可算名詞なので、単数であれば冠詞を付け、複数形は語尾に"s"を付けます。)

K日本語の「掛ける」に当たる英語の動詞は multiply です。
   5に6を掛ける : multiply 5 by 6
旧約聖書創世記で第6日に神が人間の男女を創造して「生めよ、増えよ、地に満ちよ」と呼びかけたときの「増えよ」は multiply です。
同じ種類のものが増える(を増やす)という意味なのですね。
日本語では「八掛け」(0.8倍する)などの用法にみられるように「掛ける」という動詞自体に増やすという意味はありませんが、英語の multiply には増やすという意味があるのです。
このため、英語圏では、真小数・真分数(整数部分が0である小数・分数)や負の数を掛けたときに、なぜ元の数よりも小さくなることがあるのか、子どもは最初理解しづらいということです。

k倍拡大型の乗法を一般化すると、「環上の加群(かぐん、module)」や「体上のベクトル空間(線型空間)」におけるスカラー倍となります。

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