技術の発達過程2 | 宇宙とブラックホールのQ&A

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技術の発達過程1 :https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471784189.html

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・技術にとって意匠とは
もう一つの重要な面は「意匠」である。
k:意匠(いしょう)とは、とりあえず日常語でいうデザインのことだと考えてください。
性能競争が限界にきて、製品に差がなくなってくると、価格と信頼性で競争することになるが、信頼性を高めようとすると高価格になるからこれにも限界があり、信頼性も耐用年数と見合う形で一定になるから、あと差をつけるのは意匠だけということになる。
しかも、意匠によって売れ行きは非常に変わってくるから、安定期近くになると技術開発のウエイトが意匠に移ってくる。

衣食住についてはすでに古い時期にこの段階に達し、家庭電器や自動車はいまこの段階に達している。
出発点は、性能や信頼性に差がなくなったところで商品に差をつけ、かつ付加価値によって価格低下を避けようということであったに違いないが、衣料を見ればわかるように、デザインの方にウエイトが置かれて、保温や衛生といった衣料本来の性能は当然のこととされ、その面での技術開発は特殊なものを除いては追求されなくなっている。
多種多様な製品が出回っているところでは、目的にかなった性能や信頼性および価格のものの中から、消費者の好みに応じた意匠のものが選びとられるのであって、ここまでくれば、技術は添え物のように扱われる。

しかし、これは意匠が技術にとって代わったのではなくて、技術の重心が移動したのである。
つまり性能のよさやコストを下げることだけが技術の課題なのではなくて、信頼性を高めたり、消費者の需要に応じた意匠を開発することも技術の課題なのであって、エコール・ポリテクニクや工部大学校がデッサンやデザインに相当の授業時間をとっていたのも、これらが技術にとって別のことではなかったからである。
ちなみに工部大学校での画学や彫刻の教師は全員イタリア人で、最初に赴任してきたA.フォンタネージは日本の洋画を本格的なものにした人であった。
k:エコール・ポリテクニクはフランス革命のさなかに生まれた近代的な技術者養成のための学校で、その後の世界各地に設立された工学系大学に大きな影響を与えたことが本書の他の部分で詳述されています。工部大学校もその一つで、東京大学工学部の前身です。

このように、技術は、開発当初の「おもちゃ」のような、「遊び」に似たものから「芸術」に似たものへと移って行く傾向を持っていると思われるのであって、製品や部品の設計だけでなく技術過程全体を設計しようとする開発設計では、おもちゃから芸術作品までを射程に入れて仕事をしなければならなくなった。
しかしそれによって、「デザイン」という語は本来の総合的な意味を取戻すことができるのであって、「設計」や「意匠」という語は広義の「デザイン」(技術過程全体の計画・設計)の意味の一部を切り取っただけのものに過ぎなかったと言うべきであろう。


引用はここまでです。
この章の最後の小見出しは「何をしないかが最大の問題」となっており、坂本さんの技術に関する提言として非常に重要なのですが、これまでの流れと少し変わるので省略します。


さて、坂本さんは情報技術についても他の箇所で彼のいう高度技術時代の基本的特徴の一つだとして論じています。
しかし、「技術の発達過程」に関する以上の議論の中には情報技術について触れた部分はないので、情報技術についても適用されるかどうかは不明です。
ただ、たとえば有名なムーアの法則は指数関数的成長を主張しているので、私は情報技術についても以上の議論を適用できるのだろうと考えています。
なお、wikiによれば、ムーアの法則とは「集積回路上のトランジスタ数は18か月ごとに倍になる」というものです。