『生物学的文明論』3 | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

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   第8章 生物の時間と絶対時間
この章は本川さんの生物学的時間論なので、時間の看板を掲げている者としては見逃せないところです(^_^

本川さんはアリストテレスを援用して「時間を感じるのは心臓だ」といいます(k:これがアリストテレスの解釈として正しいかどうかは保障できかねます(^^;)。
したがって、心拍数が違えば感じ取る時間も異なってくるはずです。
私たちの心臓は1分間におよそ60~70回打っています。
一拍1秒ですが、同じように動物の心拍を調べると、ハツカネズミ0.1秒、ウマ2秒、ゾウ3秒とサイズの大きい動物ほど一拍の時間が長くなります。
スケーリングの方法で計ると、心臓の時間は体重の1/4乗に比例します。
体重が16倍になれば時間は2倍になり、体重が10倍になれば時間は約1.8倍になります。

肺の動く時間、腸の蠕動の時間、食べてから排泄されるまでの時間、懐妊時間、成獣に達するまでの時間、寿命も体重の1/4乗に比例します。
つまり、「動物の時間は体重の1/4乗に比例する」のです。
動物の心臓の動きを時計として計ると、どんな動物でも肺が1回動くのに要する時間は心臓4拍分です。
腸が1回蠕動する時間は心臓時計11拍分、血液が全身を一巡して戻るまでの時間は心臓84拍分、子が生まれるまでの時間は親の心臓2300万拍分、同じく寿命は心臓15億拍分です。

時間が体重の1/4乗に比例するのに対し、体重当たりのエネルギー消費量は前章の基礎代謝率から計算して体重の1/4乗に反比例するので、両者を掛け合わせると体重に依存しないどの動物にも共通な一定量になります。
たとえば心臓1拍の間の体重当たりエネルギー消費量は2J(ジュール)です。
エネルギー消費量に寿命という時間を掛けると、一生の間に使うエネルギーは30億Jと計算されます。
一生の間に使えるエネルギーはみな定まった量なので、早い時間の動物は短命なのです。
生物においては、エネルギーを使うと時間が流れます(第10章p.215)。
だから「生物はエネルギーを使って時間を生み出している」のです。

生物の時間は心臓の鼓動や肺の呼吸など元に戻る「回転する周期」であり、古典物理学の時間は「直線的時間」です。
生物個体の一生の時間は一方向に進んで元に戻りませんが、世代交代という視点で眺めれば時間はクルクル回って元に戻ります。
古代ギリシア人は、前者の1回きりの命にビオス、後者の親から子へと受け継がれていく命にゾーエーという言葉を与えて、言い分けていました。
(k:ビオスは βιοs、ゾーエーは ζωη です。)


「第9章 「時間環境」という環境問題」「第10章 ヒトの寿命と人間の寿命」ではそれまでの章で展開したことから教訓を引き出しています。
人間の一生で心臓が15億拍打ってもまだ41歳なので、ヒトの寿命は本来40歳だということです。
したがって、それ以降の人生は人工的に延ばされたものなのです。
老眼になり歯が抜け髪が薄くなり閉経が起こることを考えれば、自然界では生き延びられないことは納得できます。

「第11章 ナマコの教訓」では、本川さんのライフワークであるナマコの研究が紹介され、人間の生き方に対してナマコの脱力的!生き方が賞賛されます。
巻末に本川さん作詞作曲の「ナマコ天国」という歌の楽譜と歌詞が掲載されているので、ナマコの生き方を垣間見られる程度に引用してみましょう。
「見ない 耳ない 鼻もない 筋肉あっても 超少ない 見ててもさっぱり 動かない」「心臓もなければ 脳もない」「砂に住まって 砂を食う」
こういう生き方は確かに超面白いのですが、無脊椎動物であっても他にいろいろな種がいるわけで、いきなりナマコに学べと言われてもちょっと困ります。
人間やめられないしね(^^;


本書は具体例を通してユニークな生物学的文明論を展開していますが、事例の大部分は省略せざるを得ませんでした。
本川さんの主張どおり具体例こそが重要なので、興味をもたれた方はぜひ直接手にとってお読みいただきたいと思います。