『銀河物理学入門』2 | 宇宙とブラックホールのQ&A

宇宙とブラックホールのQ&A

2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

『銀河物理学入門』1 :http://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/48454720.html
-------------------------------------------------------------

「第7章 銀河から見た宇宙」では、銀河同士の相互作用が主題です。
銀河群、銀河同士の遭遇と合体、銀河団が解説されています。
銀河団については、ヴィリアル平衡を仮定して計算すると、
>銀河団には、ダークハローを含めた銀河の全質量の、さらに10倍のダークマターが詰まっている
ことが分かってきたということです。

銀河団の環境効果として、a.力学的摩擦と b.銀河団を満たしている高温のプラズマの風圧の2つが挙げられます。
a.銀河団の中を銀河が運動するとき、周囲のダークマターは銀河に引き寄せられますが、ダークマターが銀河のあった位置に集まるころには銀河は先に行っています。
このため、運動する銀河にはダークマターの重力により常に後ろに引っ張る力が働きます。
これを「力学的摩擦」といいます。
この効果は質量の大きな銀河に対してより効くので、時間の経過とともに大きな銀河は銀河団の中心部に沈殿し、小さく軽い銀河は周辺に位置するようになります。
b.プラズマ自体が動いていなくても、銀河は高速で動くためその風圧を受けることになります。
星やダークマターは風圧の影響を受けませんが、星間ガスはもろに受けます。
銀河の速度は銀河団の中心部を通るときに最大となるので、風圧も最大となり、星間ガスが剥ぎ取られます。
こうして、銀河団の中心部にはガスを剥ぎ取られて星とダークマターだけの骨格しか残っていない銀河が溜まることになります。

その後で、重力レンズ効果が解説されています。

p.162~3での3Kの宇宙マイクロ波背景放射(本書では宇宙黒体輻射)の説明には、系統的な間違いがあります。(p.174にも)
       誤              正
    赤方偏移z=3000  →  赤方偏移z=1100
      3000倍       →    1100倍
     当時1万K      →   当時3000K
   ビッグバンから10万年 → ビッグバンから38万年
おそらく以前の記憶でお書きになったのだと思いますが、第2版ではぜひ訂正していただきたくようお願いします。

「第8章 宇宙の果てを見た二〇世紀の天文学」では、宇宙論が取り上げられています。
しかし、この部分は、ちょうど同時期に別の適当な新書本(佐藤 勝彦 著 『宇宙論入門』 岩波新書)が出ているので、そちらを見ていただくほうがよいと思います。

「エピローグ 銀河文明に向けての二一世紀」では、近年目白押しの巨大望遠鏡や宇宙天文台が紹介されています。

巻末に索引があるのは便利です。
ただ、たまたま「角速度」を引いてみたのですが、初出はp.32のはずなのに載っていませんでした。


同じ分野の先行する書籍と比較すると、全般的には UTPhysics の『銀河進化の謎』↓よりさらに分かりやすいですが、こちらの方が詳しい項目もあります(逆があることはもちろんですが。)。
http://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/36812449.html
銀河について学ぶなら本書を読んでから『銀河進化の謎』を読み、さらに勉強したいなら気合を入れて天文学会の教科書『銀河 I・II 』をめくるという順序になると思います。
その間に谷口さんが変り種銀河についてポピュラー・サイエンス・シリーズなどで書いている本でも目を通すとさらにいいでしょう。