『宇宙像の変遷』2 | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

http://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/46026128.html
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「第13章 コスモスの崩壊と力学的宇宙像」では、まず初めの数ページで無限宇宙論を唱えて異端のかどで焚殺されたジョルダノ・ブルーノ(1548~1600)に触れています。
著者によれば、ブルーノの宇宙像は最も新プラトン主義的であると同時に極めて神秘主義的であり、またケプラーによる批判(もし宇宙が無限なら、地球からみる宇宙は星で覆われるので夜空は明るいはず。後にいうオルバースのパラドックス)を免れず、合理的でも科学的でもなかったというのです。
ただ、その後では「ブルーノをきっかけとして、次第に姿を見せ始めた近代的な宇宙空間の概念」と書いています。
また、先の第10章では「ブルーノらの無限宇宙論と同様に古代ギリシア以来の伝統的宇宙像の崩壊にケプラーのそれが果たした役割は大きかった」と述べています。

第13章後半。デカルトが友人ガッサンディから熱心に紹介されたにもかかわらず最終的に原子論を受け入れなかったのは、原子論では真空を認めること、また原子同士が真空を通して「遠隔作用」を及ぼしあうことになるからだったということです。

以上から、近代科学(天文学)の成立期における思想の流れは、中世:アリストテレス主義 → ルネサンス:新プラトン主義 → 近代:原子論という順序であり、媒介項となった新プラトン主義の重要性を評価すべきであることがわかります。
本書を読んで、亡くなった科学哲学者の坂本賢三さんが科学思想を有機体論、原子論、化生論(かせいろん)の3つに分類していたことを思い出しました。それぞれアリストテレス主義、原子論、新プラトン主義に対応します。
ネット検索でたまたま知ったのですが、坂本さんはフィチーノの全集ももっていたそうです。

第15章は現代宇宙論を取り上げていますが、本トピの常連さんならご存知のとおりこの分野でのここ数年の進歩は目覚しいものがあり、残念ながら陳腐化しています。
最近書かれた他の書籍を参考にすることをお勧めします。


この本の内容、程度についてこれまで書評で取り上げてきた本との関係でいうと、文系の読者であれば、『人物で語る物理入門(上)』や『宇宙物理学入門』を読んだ後、『新版 天文学史』や『ヨハネスケプラー』を読む前に本書を読まれるのがよいと思います。
手軽な文庫本でヨーロッパを中心とした宇宙観の歴史を学ぶことができるという点でお勧めできます。


★ どうも私の書評(と称する文章)は長すぎる嫌いがあるので、ブログ1回分に収めようと思って文章をかなり削る努力をしたのですが、結局5000字を多少オーバーして2回になってしまいました。
こんなことなら苦労して縮めるんじゃなかった・・・