書評です。
谷口義明、岡村定矩、祖父江義明 編 『銀河 I 銀河と宇宙の階層構造』 日本評論社 シリーズ現代の天文学第4巻 2007年10月発行 331頁 本体価格\2,500(\2,625)
http://www.amazon.co.jp/%E9%8A%80%E6%B2%B3-%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E3%81%AE%E5%A4%A9%E6%96%87%E5%AD%A6-4%E5%B7%BB-%E8%B0%B7%E5%8F%A3-%E7%BE%A9%E6%98%8E/dp/4535607249/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1196172122&sr=8-1
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天文学会が総力を挙げて刊行しているシリーズの第4巻で第7回配本です。
私はこの巻を含め6冊をもっているのですが、書評を書くのはこれでようやく3冊目。
もう少し頑張らなくては。
このシリーズは全17巻で、大きく分けて第1巻が入門、第2~10巻が研究対象別、第11~17巻が研究方法論です。
正直言って後半の方法論は私のような素人にとってはあまり面白くありません。(第14巻の『シミュレーション天文学』などは数学そのものなので、買いませんでした。)
第2~10巻は、大きい対象から小さい対象へ、遠いものから近いものへという順序になっていて、宇宙論、銀河、星間物質、恒星、ブラックホール、太陽系という並びです。星間物質、恒星、ブラックホールの部分は、星の一生の順ですね。
この第4巻では、第3巻『宇宙論 II 』を受けて、銀河の一般論と銀河により構成される宇宙の階層構造を扱い、次の第5巻『銀河 II 銀河系』でわれわれに身近な銀河系と局部銀河群を取り上げています。
ちなみに、その第5巻はすでに第3回配本で出ています。
さて、本書ですが、
冒頭に口絵が6ページあります。いずれも美しくかつ興味深い写真です。
本文は、「第 I 部 銀河の物理」と「第 II 部 宇宙の階層構造」に分かれます。
まず第1章で銀河の種類と形態分類について述べています。
さまざまな分類が紹介されており、相当詳細なものもありますが、やはり基本はハッブルが最初に作った音叉図です。
渦巻銀河と楕円銀河は有名ですが、その中間に円盤はあるが渦巻のないS0銀河というのがあるそうです。
渦巻銀河(および棒渦巻銀河)を晩期型銀河、楕円銀河とS0銀河を早期型銀河と呼ぶのですが、根拠がなくわかりにくいです。しかし、歴史的に付けられて定着しているので、覚えるしかなさそうです。
一方、楕円銀河に対して渦巻銀河等とS0銀河を円盤銀河と呼びます。S0銀河はどっちつかずのコウモリさんですね(^^
銀河の色については形態ときれいな相関があって、楕円銀河は赤く、円盤銀河は晩期型になるほど(渦状腕の巻き方が緩くなるほど)青くなっています。
これは、楕円銀河では古い星が主体でガスがほとんどないのに対し、円盤銀河はガスを多く含み現在も星を形成し続けているという違いに対応します。
近傍銀河の色分布をみると、比較的明るい銀河には赤いものが多く、比較的暗い銀河には青いものが多くなっています。これは、比較的小さな銀河では最近でも星生成が行われていることが多いためです。
「第2章 銀河の動力学的性質」では、まず渦巻銀河についてその回転曲線が平坦であることが述べられています。
普通の物質しか存在しないとするとケプラー運動になるため、この平坦なグラフは説明できません。(ケプラー運動している太陽系の惑星の速度は、外側に行くほど遅くなりますね。)
しかし、ハローの部分にダークマター(暗黒物質)が存在すると仮定すると、うまく説明できます。
円盤銀河について、回転速度が速いほど絶対等級でみて明るい(絶対等級は回転速度の3~4乗に比例する)というタリー-フィッシャー関係が紹介されています。
また楕円銀河については、回転速度という概念はないので、代わりに速度分散を使うとのことです(ファイバー-ジャクソン関係)。
「第3章 星間物質と星生成」では、まず星間物質を密度、温度、組成などにより、a.コロナルガス、b.電離ガス(H II )領域、c.中性水素原子(H I )ガス、d.分子ガス(水素分子がほとんどで、次が一酸化炭素)、e.星間塵(ダスト)の5種類に分類します。
銀河系の場合、見える質量のうちのわずか10%程度が星間物質の形で存在し、残りは星の形で存在しています。
星生成の直接的母体となるのは、星間物質のうちでも分子ガスです。
ガスを圧縮して星生成へと至る、もっとも顕著で普遍的なメカニズムは、銀河同士の重力相互作用、そして合体です。
「第4章 銀河の活動現象」では、スターバースト(爆発的星生成)、銀河風、活動銀河中心核(AGN)の3テーマを扱います。
活動銀河中心核には、セイファート銀河、電波銀河、クェーサー、ライナー(低電離中心核輝線領域)といった種類があり、それぞれに輝線スペクトルが非常に幅広の1型とそうではない2型があります。
AGNの統一モデルによれば、いずれも銀河中心の巨大ブラックホールへのガス降着によって形成される降着円盤からのエネルギー放射によるもので、それらの違いはブラックホールを取り巻く分厚いガスのトーラス(ドーナツ型のもの)が存在するためにどの方向から見るかで違ってくるからだと考えられます。
「第5章 銀河の形成と進化」は、第3巻の宇宙論の続きで、光度進化、化学進化、力学進化などさまざまな観点から銀河の進化を扱っています。
最初に銀河までの距離について紹介しています。
固有距離は、膨張する宇宙の中を進んできた光の軌跡を現在の宇宙の大きさにまで引き伸ばしたときの距離です。
これはしかし実際に測れる距離ではなく、距離定義の基準となるものです。
実際に測れるのは、角直径距離(天体の見かけの大きさから定義される距離)と光度距離の2つです。
赤方偏移、宇宙年齢、ルックバックタイム(現在から何十億年前か)、角直径距離、光度距離の5者の関係についての詳細な表が載っています。
次の記事にその一部を写しておきましたので、ご参照ください。
http://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/28769401.html
不思議なことに、赤方偏移z=1.7よりも遠方にある銀河は遠いほど大きく見える(角直径距離が近くなる)とのことです。
銀河はガスを星に変換していくシステムであり、宇宙における星生成史は、銀河の成長の歴史ということができます。
赤方偏移z~1の時代では、現在の10倍程度の勢いで宇宙全体として活発に星が作られていました。
星生成のピークはz=2~3で、それより前では星生成率はより低かったとみられます。
「第6章 銀河の距離測定」は、第1巻でも出てきた宇宙の距離はしごのより詳細な解説です。
遠方の銀河についても、Ia型超新星を使う方法以外に2つの方法が紹介されています。
第7章以降は第2部です。うち第7章と第9章だけ要約します。
「第7章 宇宙の階層構造と銀河相互作用」
銀河団は、力学的平衡に達した天体としては宇宙で最大であり、その大きさは直径10Mpcに達するものがあります。
銀河団は、質量の寄与の大きい順に、ダークマター(85%),X線を放射する高温ガス(13%)、および星(2%)という3つの要素から成り立っています。
星の大部分(約9割)は銀河の中に存在し、残りは銀河には属さず銀河団の中心付近に淡く広がって分布しています。
一方、高温ガスの大部分は銀河団内に滑らかに分布しています。
ガスの温度は数千万K~1億Kもあるため、原子はすべてイオン化してプラズマ状態になっており、X線を放射しています。
銀河団の多くにはその中心に非常に明るい巨大楕円銀河が存在しており、cD銀河と呼ばれます。
銀河は連銀河(ペア銀河)、銀河群、銀河団に属している場合が多く、そうした環境では銀河の進化は銀河相互作用により影響を受けることが多くなります。
広義の銀河相互作用には、a.銀河同士の重力相互作用とb.銀河と銀河団ガスとの相互作用(動圧)があります。
宇宙のさまざまな天体の起源に関して現在主流となっている考え方は、小さな天体が順次合体しながらより大きな天体を形成していくという仮説(階層的集団化モデル)です。
これによれば、銀河間の相互作用は銀河進化の中心的メカニズムであり、楕円銀河は多くの合体を経験してきた銀河であるのに対し、円盤銀河は大規模な合体(同質量程度の銀河同士の合体)をほとんど経験せずに進化してきたと考えられます。
「第9章 銀河団物質と銀河進化」
観測事実の定量的解析により、銀河団に属する早期型銀河の星の平均年齢は100億歳以上(z>2)であり、宇宙年齢に迫るほど古いことが示唆されます。
昔の銀河団には星生成が進行中の青い晩期型銀河が多数存在しましたが、後に銀河間相互作用などの何らかの外的作用(後天的環境効果)によって急激に星生成活動が終了し、赤い早期型銀河へと形態も一緒に変化したものが存在すると考えられます。
銀河団は周りの構造から銀河や銀河の塊を飲み込みながら成長を続けてきていますが、それら降着してくる銀河には星生成活動が活発な晩期型銀河が多いと考えられます。
その晩期型銀河を早期型に変化させる機構として、一つは動圧(ラム圧ともいう)によるガスの剥ぎ取り、もう一つには銀河同士の相互作用(潮汐力による銀河ガスの剥ぎ取りや衝突に伴うスターバーストによるガスの急激な消費)が挙げられます。
本書は、このシリーズの中では数式が比較的少なく読みやすい方です。(あくまでも比較的、ですが。)
研究途上の膨大な成果を現在時点でうまくまとめたもので、銀河について知りたい人は避けることができない本だと思います。
ただ、帯に「ダークマターの暗躍する銀河宇宙・・・その世界に最新の知見から肉薄する」とあるのですが、「暗躍」はちょっとねぇ・・・
銀河形成に功績のあったダークマターに失礼でしょうが(^^
この後、『銀河II 銀河系』も取り上げる予定です。